釣り人Ａさんの仲間たち

海に近い江戸川河畔には、所々に釣り人が集うスポットがある。そのあるスポットで、ある釣り人が「うき」を見つめている水面にはいつも水鳥が集っている。大寒を過ぎたばかりのこの日（１月２２日）も、午後の暖かい日光の下で、この光景が繰り広げられていた。

私は、思わず土手から水辺へ降りて、水鳥をカメラに収めるために散歩を中断した。
まず、釣り人（以下、Ａさん）に挨拶して、カメラと会話を始動した。

私：こんにちは、おじゃまします。写真を撮らせていただいてよいですか？
Ａさん：どうぞ。
私：いつも散歩の途中で見かける貴方の周りには、鳥たちがいますがなぜですか？
Ａさん：みんな友達だからだよ。

私：えっ、どういうことですか？
Ａさん：鳥たちはえさをもらいに集まって来るんだ。水面で泳いでいる３羽は「かも」。２羽は夫婦（番：つがい）で、１羽はオス。番は２年目の飛来でまだ若い。１羽でいるオスはもう５年目の付き合いになるよ。彼は最初の奥さんがいなくなって、今年ようやく新しい相手ができたけど、彼女はまだここへは近づけないようだね。彼は日本語が分かるので私の友達だ。鳥たちには縄張りがあるので、他の「かも」たちは近づけない。みてごらん、番がさおの右に来ると１羽だけのオスはさおの左へ場所を移動するよ。交互に場所を変えて衝突しないようにしているんだ。


〔写真Ｂ：永年の友〕


〔写真Ｃ：番のかも〕

Ａさん：ほら、そこに近づいてきたのは「セキレイ」だよ。今は知らない人間（私のこと）がいるから、これ以上は近づかないよ。この鳥はたまにセキレイ以外の鳥を呼んでくるんだ。セキレイはよく私に話しかけてくるよ。
セキレイ：チッ、チッ、・・。（確かに、声かけをしてきた）


〔写真Ｄ：話しかけてくるセキレイ〕

Ａさん：そろそろ、魚に会える時間かな。もうしばらくここで待っていると「へらぶな」が釣れるよ。ここ数日は１５時頃に必ず釣れているから。
私：ではもう少し見ています。
Ａさん：ほら「うき」が沈んだ。大きな魚が釣れるよ！
私：釣った魚はどうするのですか？
Ａさん：傷つけないように針をはずして、大きさと姿を確認しているよ。ここの魚は殆どが40㎝以上だね。そして、頭をなでて挨拶をしたら、そっと河へ返しているよ。


〔写真Ｅ：処置をまつへらぶな〕

「へらぶな」は、釣り上げられる網の中では暴れない。頭をなでてもらって挨拶が終わると悠然と水中へ戻っていった。この様子を土手で見ていた知人がやってきて、短い釣り談義をして去っていった。知人はショートアイアンの素振りに来ていたようだ。

Ａさん：そろそろ「すずめ」が集まってくるよ。「からす」もやってくるよ。彼らは、釣り餌の残りを始末しに集まってくるんだ。
私：毎日がこんな様子ですか？
Ａさん：釣りに来たときは、いつもこうして過ごしているよ。みんな友達だね。ここで釣りをはじめて、ン十年になるからね。
私：（沈黙）・・・　又来て良いですか？
Ａさん：いいよ。また話をしよう。さようなら。
私：有難うございました。さようなら。


〔写真Ｆ：餌を待つ雀たち〕

初対面の挨拶をしたあとの数十分間にＡさんと交わした会話と光景でした。空を舞う鳥、水面・水中の生き物、そして土手を行き交う人間を加えた、仲間たちと語り合うＡさんのメルヘンチックな世界でした。

自宅へ戻ってＰＣに取り込んだ画像を見ていると、それぞれに表情がありました。そして、一様に彼らの目がこちらを見つめていることに気づいた私でした。

http://www.jgoose.jp/iiss/zukan01_3.html
「湿地におけるガン・カモ類調査」監修：日本雁を保護する会によれば、資料中No.３９の「ひどりがも」のオスに見えるが・・

http://homepage2.nifty.com/aigis/pipit_1.htm
「野鳥の杜」　セキレイの仲間

おわり