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日産自動車 ゴーン氏報酬の有価証券報告書虚偽記載問題の整理

2018-12-23 | 仕事
11月19日、日産自動車のカルロス・ゴーン元会長、グレッグ・ケリー元代表取締役が2011年3月期から5年間、ゴーン氏の役員報酬を過少に記載したとして有価証券報告書虚偽記載の疑いで逮捕されました。
また、その後の12月10日には同期間の有価証券報告書虚偽記載について、証券取引等監視委員会が告発、東京地検特捜部は起訴しました。
更に同日、2016年3月期から3年間についても役員報酬を過少に記載したとしてゴーン氏、ケリー氏を再逮捕しました。

本事件に関するリーク報道は断片的かつ矛盾した情報が多く、結局のところ何が問題となっているのかが非常に分かりにくくなっております。
(参考としてNHK報道の変遷の様子を記事最後に抜粋しております。いかに内容を分からぬままリーク報道を右から左に流しているかをご覧ください)
本記事では、日産の役員報酬制度と本事件のリーク報道を振り返りつつ、有価証券報告書虚偽記載についてやや批判的に検証したいと思います。



A. 過少記載額はいくらか

上表にまとめてみましたが、2011年3月期から5年間については、証券取引等監視委員会告発内容によれば累計48億円強、2016年3月期から3年間については、NHK報道によれば累計40億円強の過少記載となっております。

日産自動車株式会社に係る虚偽有価証券報告書提出事件の告発について
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2018/2018/20181210-1.htm


B. 過少記載の報酬は財務諸表には反映されているか

日産自動車による適時開示では報酬費用の計上等の財務情報等に関する訂正内容を精査しているとあり、反映されていないようです。

2018/12/10 16:30 過年度有価証券報告書等の訂正予定に関するお知らせ
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120181210447414.pdf

ところで、この定期時開示はTDNetに掲載されていますが、日産公式サイトではなぜか掲載を見つけられませんでした。

C. 日産自動車の役員報酬はどのような制度設計になっているか

日産自動車の役員報酬は、定款において株主総会によって定めることとされております。
現在、株主総会で承認された制度は、年額29億9,000万円以内と定められる確定額金銭報酬と、年間上限数普通株式600万株相当と定められる株価連動型インセンティブ受益権(SAR)の2制度です。

確定額金銭報酬は、年額の上限が定められていること、企業報酬のコンサルタント、タワーズワトソン社による大手の多国籍企業の役員報酬のベンチマーク結果を参考に、個々の役員の会社業績に対する貢献により、それぞれの役員報酬が決定されること以外に詳細な条件は明らかではありません。
株価連動型インセンティブ受益権(SAR)は、制度適用期間は概ね3年度と設定されており、権利付与日は取締役会が定める条件に従って適用期間内における各事業年度毎に決定される日、権利行使可能期間は各権利付与日から 10 年を経過する日までの範囲内で取締役会が定めるとされております。

D. 過少記載の報酬はゴーン氏に支給・付与済みか

当初はSAR40億円を付与していたとする報道がありました。(後掲 参考02,03など)
しかし、最近の報道では、まだ支給はしておらずゴーン氏が役員退任後に報酬を支給する計画を立てていたとするものが主流となっております。(参考05,06,08,11など)

E. 過少記載の報酬は何れの制度によるものか

報酬請求権は定款の定めまたは株主総会決議の根拠なしに発生しません。(例外の判例は一応ありますが、本件の射程外と考えていただいてよいです)
従って、過少記載の報酬があるとすれば、確定額金銭報酬、または、SAR制度の何れかによる必要があります。

当初はSAR制度によるものとする報道(後掲 参考02,03など)が主流となっておりましたが、その後の報道でははっきりしない断片的なリーク報道が繰り返されております。

ここからは私の推測です。

検討1. SARを退職後に付与する計画であった

この可能性はないとみております。
SAR制度の適用期間は概ね3年度で、都度制度更新の株主総会決議を得るようにされています。
このため、SAR未発行枠を温存して退職後に初めて付与するというのは制度の逸脱になると考えられます。

検討2. SARを既に付与しており、退任時に行使可能とする計画であった

この可能性も低いものと考えております。
上表ではゴーン氏報酬の年度別過少記載額と各報酬制度の年度別未支給・未発行額をまとめておりますが、ゴーン氏の過少記載分をSARの残枠によって賄うことができない年度が多く説明が困難です。
以前のTwitterでの呟きなどで、私はこのケースが最有力と考えておりましたが、証券取引等監視委員会の公表により年度別の過少記載額が明らかになったため、判断を改めました。

検討3. 確定額金銭報酬を退職後に支給する計画であった

消去法的にはこのケースがもっとも可能性があると言えますが、これによって報酬請求権が確定し、虚偽記載をしたと言えるかについてはかなり疑問を持っています。

まず可能性の検討ですが、年度別金銭報酬未支給額は過少記載額を直近2年度を除いてカバーすることができております。
(直近2年度は少々カバーできない額となっておりますが、過少記載額に子会社からの報酬額が含まれている可能性が考えられます)
また、SAR制度と比べて支給時期などは総会決議事項で明示的には制約されていません。
これらの点からSARを根拠としたケースよりはまだ成立可能性があるように思えます。

しかし、確定額金銭報酬制度は年度単位の短期報酬の運用を想定したものですので、退職後の報酬として繰り延べる運用が株主総会承認決議の範囲内とすることには疑問があります。
以前には日産自動車にも役員退職慰労金制度はありましたが、2007年3月取締役会で廃止を決定し、打ち切り支給決議を同年6月の第108回定時株主総会の議案にかけて承認されております。
このような状況からすれば、もし退職後の報酬支給という形をとろうとするのであれば、総会承認範囲を超えるおそれがあり、あらためて総会決議が必要と主張してよいように思います。
つまり、たとえ内部的に退職後の報酬支払いを計画した文書を作成されていたとしても、会社側は支払いを拒む手段を持っている状況にあり、報酬請求権が確定しているとは言い難い、従って、現時点で記載すべき報酬であったとはいえないと私は考えます。

現在は退職後の支給を計画している報酬請求権が確定したことを前提に有価証券報告書の虚偽記載があったとして逮捕・起訴が進められておりますが、上記の認識に立つと本件は刑法の謙抑主義を忘れた先走り行為のように思えます。

とはいえ、上記は不正確なリーク報道が連日続いて事実関係の把握が容易でない現状での推測にすぎません。
特別背任での再逮捕もありましたし(これはこれで疑問が残る内容ではありますが)、もうしばらく事態を見守る必要がありそうです。




[参考]報酬過少記載に関するNHK報道の変遷

衝撃 ゴーン前会長 事件の行方
https://www3.nhk.or.jp/news/special/nissan_ghosn/?utm_int=special_contents_list-items_001&utm_int=news_contents_news-closeup_001

01. 日産 他役員の報酬がゴーン会長に流れたか 11月20日 12時01分
「特捜部はほかの取締役に支払われなかった報酬の一部がゴーン会長に流れていた疑いがあるとみて実態解明を進めています。」

02. ゴーン会長 株価連動報酬の40億円分 有価証券報告書に不記載 11月21日 4時16分
「株価に連動した報酬を受け取る権利、40億円分を与えられながら有価証券報告書に記載していなかったことが関係者への取材でわかりました。」

03. 日産ゴーン会長 オランダ子会社からも億単位の報酬か 11月22日 18時05分
「ゴーン会長は有価証券報告書で開示している報酬以外にも、株価に連動した報酬を受け取る権利40億円分を与えられていたことがわかっていますが、本社以外にもオランダの子会社から毎年、億単位の報酬を得ていた疑いがあることが関係者への取材でわかりました。」

04. ゴーン前会長の指示で報酬少なく記載か 11月23日 16時53分
「金融商品取引法違反の疑いで逮捕された日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が、有価証券報告書に記載するみずからの報酬額を側近の前代表取締役に具体的に指示した書類が残されていたことが関係者への取材でわかりました。」

05. ゴーン前会長 退任後に約80億円支払われる計画か 11月24日 12時07分
「公表される報酬と実際の報酬との差額は、ゴーン前会長の退任後に支払うことを計画し、毎年10億円程度を積み立てていた疑いがあるということです。そして、役員退職の慰労金として支払われる金額の増額や退任後のコンサルタントや競業を避けるための契約を結ぶなどして、およそ80億円が支払われる計画になっていたということです。」

06. ゴーン前会長 “退任後に80億円支払い” 側近だけで計画共有か 11月27日 19時17分
「計画では退任後に競業に就くことを避けるための契約金としておよそ35億円、役員退職の慰労金としておよそ25億円、コンサルタントの契約金としておよそ20億円を支払うことを検討していたということです。」

07. 退任後報酬支払うとした文書にサインも “正式文書でない” 12月2日 0時41分
「日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が逮捕された事件で、側近の前代表取締役がゴーン前会長の退任後に報酬を支払うとした合意文書に毎年、サインしていたことを認めていることが関係者への取材でわかりました。一方で前代表取締役は「正式な文書ではなく退任後の報酬は決まっていなかった」などと容疑を否認しているということです。」

08. ゴーン前会長 役員報酬開示義務づけ後に退職金24億円増額 12月6日 18時04分
「関係者によりますと、日産では平成19年の株主総会で役員の退職慰労金として総額65億円を支払うことが承認され、このうち44億円がゴーン前会長に支払われる予定になっていたということです。しかし役員報酬の開示が義務づけられた平成22年以降、ゴーン前会長への退職慰労金がさらに24億円増額され、日産の経費としてすでに計上されていたことが新たにわかりました。」

09. ゴーン前会長 “実際の報酬額”の文書 自ら修正した痕跡 12月10日 10時00分
「東京地検特捜部は、ゴーン前会長が高額の報酬への批判を避けるため、実際の報酬との差額を退任後に受け取ることにしていたとみて調べていますが、ゴーン前会長の実際の報酬額が記されたとみられる文書が作成され、一部の文書には前会長が手書きで内容を修正した痕跡が残されていたことが関係者への取材で分かりました。」

10. ゴーン前会長 ストックオプションでの報酬支払いも検討か 12月15日 6時12分
「日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が逮捕された事件で、ゴーン前会長の退任後の報酬の支払い方法が書かれた文書が平成22年ごろから複数回作成され、ことし1月の文書では自社の株を買う権利、いわゆる「ストックオプション」での報酬の支払いが検討されていたことが関係者への取材でわかりました。」

11. ゴーン前会長 文書に英語で「固定報酬」 報酬確定の証拠か 12月18日 18時48分
「東京地検特捜部は、ゴーン前会長が高額の報酬への批判を避けるため、実際の報酬との差額を退任後に受け取ることにしていたとみて調べていますが、ゴーン前会長の報酬を定めたとされる文書に、未払い分を含む報酬の総額が英語で「Fixed Remuneration=固定報酬」と表記されていたことが関係者への取材で分かりました。こうした文書にはゴーン前会長みずからのサインもあったということです。」

コメント

ASBJが有償ストック・オプションの費用計上化を公表したので備忘録。

2018-01-15 | 仕事
2018年1月12日、財務会計基準機構(ASBJ)が「実務対応報告第36号 従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」を公表しました。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2018/2018-0112.html
また、昨年の5月10日に公開された草案に対するコメントの概要とそれらに対する対応も同時に公表されております。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2017/2017-0510/comment.html

今回の公表内容は役員・従業員向けのインセンティブプランとして活用されている有償ストックオプションに関するものです。
ASBJはこれまでに「企業会計基準第8号 ストック・オプション等に関する会計基準」を公表しておりますが、同基準は無償で付与することを想定していたため、有償で付与する場合の会計処理は明らかではありませんでした。
実務では通常の新株予約権と同様の会計処理(新株予約権の付与時の払込額での純資産増加)をされることが多いようですが、公開草案ではストックオプションに準じた会計処理(新株予約権の付与時の公正価値での純資産増加)を求めていたため、実務界からの反発は大きくASBJには多くのコメントが寄せられていました。

例えば実務的な影響が大きいと予想される「収益認識に関する会計基準(案)」に寄せられたコメントは73名69コメントですが、本実務対応報告の公開草案に寄せられたコメントは259名253コメントと遥かに上回っております。
コメントは定番の監査法人、会計士、大手事業会社のほかに、新興企業や実業家、コンサルティング会社などから多く寄せられているようです。

このように反発が大きかったことからASBJの軌道修正があるかとも思われましたが、ほぼ草案どおりの内容で正式に公表されることとなったようです。
各コメントに対するASBJの対応はPDFで87ページ(!)と大量にありますが、コメントを送った側が読めばちょっとつれない回答かなと思うものが多数です。

余談ですが、今回の反対意見の急先鋒はおそらくプルータス・コンサルティングかなと思います。
プルータスはこれまでのASBJの委員会などにも出席していたので、武器商人にでもなったのかなと思いましたが、意見としてはしっかり反対だったのですね。
プルータスと野口真人さんのコメントは一読推奨です。
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20170510_CL202.pdf
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20170510_CL105.pdf

さて、コメントは多岐にわたりますが、反対意見の中心は主に「SOを有償で発行しているのだから報酬ではない」にあると思われます(コメントに対する対応P2以降)。
なぜ「有償SO≠報酬」という意見が多数あがるのか不思議に思いますが、これは実務の最前線にいる方々が「報酬」の定義に厳密な報酬ポリスだから…ではありません。
反対の理由は、ストックオプション会計基準では業績条件を付しても業績達成を前提としたSOの公正価値で評価することになり、株式報酬費用の計上を避けられない点にあります。

雑な例ですが、ある業績条件付きの有償SOを株式オプション評価モデルで計算した時に、生の新株予約権ならば1個200円、業績条件を付した新株予約権ならば1個50円だったとすると、ストックオプション会計基準を適用すると差額の150円の株式報酬費用の計上を求められることになります。
これは、ストックオプション会計基準が業績条件をストックオプションの単価の見積もりには含めず、数量(失効数)の見積もりに含めるものとしていますが、数量の見積もりには十分な信頼性が要求されていることから起こります。(本エントリ最下部に該当箇所の引用を置いておきます)
こうなると、企業は権利不確定が明らかになるまでは費用認識を続ける必要があり負担感をおぼえることになります。新興企業ならばなおさらです。

このような原因ですので、ストックオプション会計は避けたい、さりとてストックオプション会計そのものの見直しを俎上に上げた草案でもない、ということで、今回はバナナがおやつに含まれるか論争が主戦場になったものと思われます。

なお、目に留まった他の反対意見に「勤務条件を付さない業績条件のみの有償SOまで射程に入れるべきでない」という趣旨のものがありました(P60以降)。
IFRS第2号(株式報酬)の権利確定条件は勤務条件と業績条件とを求める定義になっているため、これとの整合性を意識したものですね。
概念や定義を揃えていくことは実務的にはとても重要なことですが、注意が必要なのは、IFRS2の権利確定条件は費用の認識時点を定めるためのものであるのに対し、本実務対応報告は対象取引の範囲を定めるためのものとなっている点です。
IFRS2とストックオプション会計基準はそもそも規定の構造が異なっているため、ここで定義を揃えないことが基準差異を生み出すかといえば、適用場面では必ずしもそうとは言えないと思います。

今後の予想ですが、いたちごっこはまだまだ続いて他の会計処理を選択しうるインセンティブプランが広がるものと思われます。
負債計上で公正価値を回避する方法(思いつきで言えば、有償SOに代えて転換社債型新株予約権付社債を発行し一括法で計上する方法)や、会社による新株発行や自己株式の処分を先行させて信託を通じて株主間取引にしてしまう方法など、いろいろな方法が既に検討されていることでしょう。
従業員の行使価格相当額が明らかではありませんが、信託方式についてはすでに株式会社IDOMなどで導入しているものがありますね。
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1406448
税制、法律上の課題や費用の課題などを同時にクリアする必要がありますので、それらに詳しい専門の実務家の動向を見ていきたいと思います。

ストックオプション会計というものは、大ざっぱにいえば現金に代えて株式オプションを渡しているのだから報酬・費用だろう、というのが会計基準導入の出発点でした。
しかし、ここにはその報酬・費用をいつ認識しどのように測定するか、未決済オプションの価値の変動をどう評価するかという会計上の問題があり、更に株式オプションの評価において各前提条件をどのように単価と数量に振り分けて認識と測定をコントロールするかという政策的な問題も絡んできます。
このような難問が重なる領域では、全員が納得する理論一貫した会計基準というのは確立が難しく、過去にも様々な意見が交わされていたそうです。
今回の議論もその一端が見えるものだったように思います。




最後に、上述していたストックオプション会計基準からの引用です。
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/stockop_s2.pdf

"6. ストック・オプションの公正な評価単価の算定は、次のように行う。
(2) ストック・オプションは、通常、市場価格を観察することができないため、株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている算定技法を利用することとなる。
算定技法の利用にあたっては、付与するストック・オプションの特性や条件等を適切に反映するよう必要に応じて調整を加える。
ただし、失効の見込みについてはストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない。"

"44. 企業の取引が経済合理性に基づくものであるならば、この契約についても等価での交換が前提となっていると考えられる。
すなわち、企業は、ストック・オプションを付与(給付)する対者に対して、権利確定条件(勤務条件や業績条件)を満たすようなサービスの提供(反対給付)を期待し、契約締結時点であるストック・オプションの付与時点において、企業が期待するサービスと等価であるストック・オプションを付与していると考えられる。"

"45. ただし、ストック・オプションの付与時点において前項のような契約が締結されたとしても、それが取引として完結するのは、両当事者が、実際に契約条件に沿った給付を果たした場合である。
すなわち、付与されるストック・オプションは条件付きのものであることが通常であり、権利確定条件を満たすサービスが提供されてはじめて付与された自社株式オプションの権利が確定する。
権利確定条件に沿った給付がなされて取引が完結するか否か、言い換えれば付与されたストック・オプションの権利が確定するか否かが未定の間は、権利が確定する部分を見積って費用計上を行うことになる。
そして、権利確定部分の見積りに基づいて計上していた費用のうち、実績として取引が完結せず権利が確定しないこととなった部分については、その実績に基づいて修正すべきであると考えられる。"

"52. 会計処理にあたっては、ストック・オプションの権利不確定による失効数についても最善の見積りを行うことが原則であると考えられる。
しかし、十分な信頼性をもって、ストック・オプションの失効数を見積ることができない場合には、見積りを行うべきではない。"
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英国の税務戦略の開示義務化、日本の税務方針の自主的開示

2016-10-16 | 仕事
実に3年ぶりの投稿となります。
最近は専らTwitterで呟くのみとなっておりますが、今回発信する情報は少々量が多いためブログに残しておきたいと思います。

旬刊経理情報2016年10月20日号に「コンプライアンスから開示へ 税務ガバナンスの整備を考える」という特集記事がありました。
執筆者はPwC税理士法人の荒井優美子さん、白崎亨さん、中原拓也さん、PwC弁護士法人の北村導人さんです。
この中の記事の一つ、「税務情報の開示をめぐる国内外の動向」では、英国の税務戦略の開示義務化、オーストラリアの税務情報の自主的開示、EUの国別報告書の開示義務精度の導入提案などが紹介され、また、日本企業の現状、及び、今後の対応の方向性が述べられています。

英国の税務戦略の開示義務化については、EYのアラートをご覧下さい。
英国2016年度財政法
http://www.eytax.jp/tax-library/newsletters/pdf/Japan_tax_alert_26_Sep_2016_j.pdf

2016年度財政法の原文は下記にあります。
Finance Act 2016
http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2016/24/contents/enacted/data.htm


インターネットで開示すべき事項は下記のものです。EYのアラートでは概要のみを挙げているのかと思ったら、原文を見てもこのままなのですね。
英国での課税に係るリスクマネジメント及びガバナンスの仕組みに対する英国グループ会社のアプローチ
英国グループ会社のタックスプランニングに対する姿勢(英国での課税に影響する範囲内で)
英国グループ会社が許容できる英国での課税に係るリスクレベル
英国歳入関税庁(以下、「HMRC」)への対応方針

なお、外国会社グループが適格となる場合は英国サブグループについての税務戦略が開示事項となるようです。
多国籍企業(MNE)となる企業は対応が大変ですね。

さて、それではこれらをどのように書いていくかを考えた時に気になるのが先行事例の有無です。我々日本人は巨大不明生物が襲ってくる時でさえ、その対応にあたっては先例を重視します。
記事では企業名を伏せた形で日本企業7社の例が挙げられていましたが、残念ながら内容にまでは触れられていませんでした。
そこで今回、Webを漁って会社を調べ、内容を読んでみることにいたしました。

まず、例に挙げられていた7社は調べてみたところ下記の企業でした。
A社 = コニカミノルタ
B社 = KDDI
C社 = 第一三共
D社 = エーザイ
E社 = 日東電工
F社 = 三井住友信託銀行
G社 = MS&ADホールディングス

各社のWebページ、章立て、主な内容は下記をご覧下さい。
個人的な感想ですが、それぞれ自社で内容を検討したところが感じられて良いですね。
CSR報告書、ESG報告書、統合報告書の枠組みに含めているものが多いようです。これは予想通り。
逆に、各報告書の枠組みから離れて自主開示をしているコニカミノルタや日東電工はどういった経緯で掲載を判断したのか気になるところです。
また、エーザイは他社と異なりCSRでなく財務戦略の一部として税務方針を記載しています。IRの中で財務戦略を説明していくならばこの体系は良いですね。

英国の義務的開示事項との対比で見ると、企業が許容する課税に係るリスクレベルに触れたものは見つかりませんでしたが、その他の項目は参考にできるところがあるのではないかと思います。

A社 = コニカミノルタ
http://www.konicaminolta.jp/about/csr/csr/compliance/pdf/tax_policy.pdf
記載事項の項目立て
CSRの取り組み-コンプライアンスの実践-グループ税務方針
レポートへの組込み
なし(独立したWebページ掲載)
主な内容
法令遵守の宣言、UNGC,OECDの指針への賛意。
適正な納税を通じた地域社会発展への貢献の宣言、税の報告、情報交換、税務当局への協力を通じた透明性の重要性の理解。
CFC税制の重要性の認識、法令遵守の確約。
OECD,G20が奨励する税制改革の支持、税務担当者のスキル、知識ベースの更新、必要な情報のグループ内共有の努力。


B社 = KDDI
http://media3.kddi.com/extlib/files/corporate/csr/csr_report/2016/pdf/report2016_07.pdf
記載事項の項目立て
CSR(環境・社会)-ガバナンス-コンプライアンス-適切な税務
レポートへの組込み
統合レポート2016 ESG詳細版への全文組み込み
主な内容
法令遵守、適切な納税の宣言、法人所得税費用、税負担率の開示。
国際的税務リスクの認識の下での税務戦略の推進、税務コンプライアンスの維持・向上の取り組み。
税務情報の適時適切な提出、透明性を高めることによる税務当局との信頼関係の構築、必要に応じた事前照会による税務リスクの低減。
BEPS対応への取り組み、過度な節税を目的とする税源移転の防止。


C社 = 第一三共
http://www.daiichisankyo.co.jp/corporate/csr/compliance/pdf/compliance01.pdf
記載事項の項目立て
CSR -コンプライアンス経営の推進-税務コンプライアンスに対する取り組み
レポートへの組込み
独立したWebページに掲載、バリューレポート2016にはWebページへの掲載情報のみ記述
主な内容
税務の透明性の確保が企業の社会的責任である認識、適正な納税の経済社会発展への影響、税務コンプライアンスが透明性確保となることの理解。
恣意的な租税回避や税務コンプライアンスの欠如が財務・レピュテーションリスクとなることの理解、各国経済・社会への悪影響リスクとなることの理解。
各国税務当局との良好な関係構築の努力、国際的な税務フレームワークの動向注視・適時な対応の努力。
適時適切な税務情報の提出による各国税務当局との信頼関係構築。
適時な税務申告・納付、協力的な情報提供、事前確認制度などによる長期の税務ポジションの明確化の努力。
OECD,BEPSプロジェクトが税の透明性確保の不可欠な取り組みであることの理解。
国際的な所得の適性配分を実現し、所得の他国移転を回避すべきことの理解。
OECD移転価格ガイドラインに基づく適正な税金納付の努力。


D社 = エーザイ
http://www.eisai.co.jp/pdf/annual/pdf2016ir.pdf
記載事項の項目立て
IR情報 -統合報告書-財務資本-財務戦略-グローバル税務ポリシー
レポートへの組込み
統合報告書2015への全文組み込み
主な内容
グローバル適正納税の徹底、BEPS行動計画の先行対応、税務ペナルティ・二重課税による企業価値の毀損リスクを防止。
全役員全従業員のコンプライアンス・ハンドブック記載事項(適正な納税)の遵守・誓約。
監査委員会の配置による執行の監督、会社法開示の監査。
潜在的な二重課税の排除、総合的に企業価値向上に資する税務プランニングの策定。


E社 = 日東電工
https://www.nitto.com/jp/ja/about_us/sustainability/governance/policy/tax_policy/
記載事項の項目立て
サステナビリティ-ガバナンス-コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方-税務コンプライアンスポリシー
レポートへの組込み
なし(独立したWebページ掲載)
主な内容
遵法の徹底、過不足ない納税、キャッシュフローの最適化を通じた株主価値最大化。
業務ルールの遵守、適正な経理処理。
移転価格税制を考慮した価格、費用負担の決定。
管理職昇格者への税務研修など、税に対する理解を深める活動。
課税リスクの兆候の有無の定期的検証、原因分析と対策の立案。
必要がある場合の税務当局への問い合わせ。


F社 = 三井住友信託銀行
http://www.smtb.jp/csr/esg/compliance_2.html
記載事項の項目立て
CSR活動-ESGに関する取り組み-コンプライアンス・公正な事業-三井住友トラスト・グループの税務コンプライアンスに関する基本方針
レポートへの組込み
2015CSRレポートへの全文組み込み
主な内容
税の適正な管理の推進。
税法、通達、国際標準に則ったルールの遵守、誠実な税務戦略の推進。
トップマネジメントにおける税務リスクの認識、ビジネス戦略と合わせた税務戦略の推進。
社員に対する指導など税務コンプライアンスの維持・向上への取り組み。
情報開示など透明性を高めることによる税務当局との信頼関係構築、税務リスク低減。
BEPS行動計画に従った適正な納税。


G社 = MS&ADホールディングス
http://www.ms-ad-hd.com/company/governance/compliance.html
記載事項の項目立て
企業情報-企業価値創造を支える仕組み:コンプライアンス-税務コンプライアンスに対する取り組み
レポートへの組込み
CSRレポート2016への全文組み込み
主な内容
法令遵守、適切な税務申告、納税の実施。
適時適切な情報提供、事前照会による税務当局との信頼関係の構築、税務リスクの低減。
BEPSプロジェクトの趣旨の理解、適切な地域での適正な納税の努力。国際的な所得の適正配分の実現の取り組み。

本日はここまで。
コメント

経過措置対象以外で2014年4月以降でも消費税率5%となる取引

2013-10-26 | 仕事
 消費税率の5%から8%への引き上げは、10月1日の閣議決定によって予定通り2014年4月1日から実施されることが確定しました。

消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応について
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2013/__icsFiles/afieldfile/2013/10/08/20131001-01.pdf


 税率変更への実務対応の進行を保留にする外部要因はこれでなくなりましたので、各企業の対応作業はいよいよ佳境に入ろうとしているところかもしれません。特に、経過措置対応については、10月に入った現在では対象となる取引の確定ができますので、システム上の措置はともあれリストアップ作業は終わらせておきたいところです。

 さて、今回のエントリでは、表題のような消費税率変更対応のマイナー論点に少し触れたいと思います。

 消費税率変更は2014年4月1日からの資産の譲渡等が対象で税率8%となり、経過措置対象になった資産の譲渡等について税率5%のままとなる、というのが通常説明される内容であり、これに誤りはありません。しかし、これをもって経過措置対象取引以外の2014年4月1日からの取引の消費税計算処理は全て8%ととらえてしまうと、一部で適用・処理の誤りが生じる可能性があるため注意が必要です。
 具体的には下記のような事例です。

A.2014年3月までの取引の事務処理遅れ
 取引としては2014年3月までに終わっているにもかかわらず、事務処理が4月にずれ込むケースです。あまり褒められたものではありませんが、無いと言い切るのは難しいでしょう。

B.2014年3月までに資産を譲渡した仮価格取引の価格確定精算
 一旦、仮の価格で販売等を行った上で、資産の引渡し後に価格を確定し事後的に精算するというものです。事務処理上、確定精算は仮価格での引渡しとは分離して4月以降に処理されることになりますが、資産の譲渡の時期は目的物を引き渡した時期、つまり5%適用となります。
 これは業種によりけりの取引形態でしょうから該当のない会社も多いだろうと思います。
 なお、下記のような国税庁文書回答事例もあるようです。

対価未確定販売に係る資産の譲渡等の時期
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shohi/12/03.htm


C.2014年3月までの所有権移転外ファイナンス・リース取引(借手側)で分割仕入れ控除を選択した場合
 所有権移転外ファイナンス・リース取引は税法上は資産の譲渡として扱いますので、借手側において会計処理上で賃貸借処理を適用していても、消費税の計算上はリース資産の引渡しを受けた時点で一括仕入れ控除するのが本来の処理となります。しかし、事務処理上の便宜からか本来一括控除となるものを分割控除にすることを国税庁は容認しています。
 この分割控除を選択した場合、控除の計算が2014年4月移行のリース料について支払うべき日の属する課税期間に属することがありますが、適用税率は資産の譲渡が2014年3月以前であったならば5%となります。

所有権移転外ファイナンス・リース取引について賃借人が賃貸借処理した場合の取扱い
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/shohi/16/23.htm


 このように2014年3月までの資産の譲渡等に係る取引が4月以降となる場合、事務処理が4月以降となる場合がありますので、税率変更対応においては経過措置以外でも怪しそうなものがないかを確認する作業は必要そうです。
 また、消費税率変更対応はシステムの改修作業が主となると思いますが、個別の適用場面において、1事務処理データで取引日と資産の譲渡等の日とを並列して持てるか、持てる場合にはどのように適切なインプットをさせるか、持てない場合にはどのようなインプット及び事後処理を行うかを確認していくことも重要となるでしょう。
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FVTOCIの売却損益はその他の包括利益に計上するという通説(?)

2013-02-01 | 仕事
あけましておめでとうございます。
思うところがあり、本エントリより文体を変更いたします。

会計ネタとしてはすっかり話題性を失ってしまったらしいIFRSですが、任意適用を検討しているところは実はまだまだあるようで、本日もソフトバンクがIFRS任意適用決定のプレスリリースを出しておりました。
そういうわけで、たまには私もIFRSに関係するエントリを上げてみようかと思います。
下記は私が調べものをしていた中での気付きで、まだ周囲との議論も未了の話ですので、誤解がある可能性もご了解の上でお読みください。

IFRSの金融商品にはFVTOCIという言葉があります。
Fair Value Through Other Comprehensive Income でFVTOCIと呼びます。日本語ではその他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融商品、そのままですね。
このFVTOCIの金融資産は、日本基準で言うならば、純利益ではなくその他有価証券評価差額金に計上されるその他有価証券のようなものだと思ってください。

IFRSの内容を説明する時、たいていの場合は日本の会計基準との差異という形で説明されるのですが、さて、このFVTOCIはどう説明されるかと言いますと、受取配当金は純利益(PL)で計上するが、売却損益はその他の包括利益(OCI)で計上する点で日本基準と異なっている、と説明されることがどうやら多いようです。
これはトーマツの基準差異比較表でもそのような説明となっておりますし、私が仕事上関わる中でも同様の説明がされています。
しかしながら、私としてはこの説明はあまりよろしくないのではないかと考えています。といいますのも、IFRSの基準では売却損益をその他の包括利益に計上するとは書いていないからです。

IFRS9の3.2.12項を読んでみましょう。

金融資産全体の認識の中止に際しては、次の両者の差額を純損益に認識しなければならない。
(a) 帳簿価額(認識の中止の日現在で測定)
(b) 受け取った対価(獲得した新たな資産と引き受けた新たな負債との差額を含む)


認識の中止の要件を満たす譲渡の差損益は純損益に計上することが明記されています。
では、なぜ売却損益をその他の包括利益に計上するという説明がされるのかといえば、そのポイントは(a)の括弧内の認識の中止の日現在で測定という点にありそうです。
日本基準において、取得原価1,000円、売却時の時価1,500円、売却価格1,500円のその他有価証券売却の取引では、売却益は取得原価と売却価格の差額の500ととらえます。
これに対してIFRSでは、どうやら時価評価前の帳簿価額と時価との評価差額という概念はないらしく、認識中止時の公正価値、今回の例では時価1,500円が帳簿価額となり、売却損益は0円となるようです。
そうするとIFRSでのFVTOCIの売却時の会計処理の説明は、売却時までの公正価値の変動をその他の包括利益に計上するのであって、結果的に0円になることが多い売却損益そのものは純損益に計上するというのが正確なのではないでしょうか。

こうした日本基準とIFRSとの基準間差異は、実際にIFRS適用をした場合には組替対応が必要になりますが、上記で言うところの売却損益は必ず0円であるという前提でいけば、売却損益計上額を純損益からその他の包括利益に振り返れば良しという意味では、売却損益をその他の包括利益に計上という表現はそれはそれで良いのかもしれません。
ただ、IFRSの学習・教育の段階の中でもこの説明になると正確な理解の妨げになってしまうのではないだろうかということを、基準をきちんと読むまで誤認していた身としては少し気にしております。

IFRS導入を議論されている方々で上記のような話をされたことのある方はいませんでしょうか。
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