山と蒸しパンと

ていねいに暮らす

エルカピタン

2008-02-24 10:24:18 | 徘徊

 ヨセミテ渓谷からヨセミテフォールを登りきり、下からは想像できないいたって普通の大地を6マイルほど歩いてエルカピタンに向かう。
 スギやマツの樹林帯が続き、降り積もった雪の上に枝から落ちた雪や葉が覆いかぶさりうっすらと凍っていた。スノーシューを履いて歩くと、数センチほど沈むだけで歩きやすく楽しい。

 トレイルを示す黄色のプレートも木の表面を彫ったブレイザーもないのだから、好き勝手に歩くしかない。GPSで現在位置を確認し地図を見て、あとは歩いてみれば何とかなる。気がする。

 最後に雪が降ったのは一週間ほど前だろうか。すっかりスギや松からは雪が落ちてしまっている。歩みをとめて、息を潜めて耳を澄ますと遠くでカラスの鳴く声や小さな鳥の囀る声が聞こえる。静かな森だった。
 遠くでチリチリと音が聞こえる。ハイハットのようだった。両耳に手を当てて耳を澄ます。どうやら雪解け水の音だ。地図には載っていない流れかしら。水が欲しい。水を作ろうにも森に積もった雪はすでに茶色くなっていて、水筒に残った水を少しずつ飲んでいたので、おいしい水を飽きるほど飲みたかった。

 しばらく歩き、耳に手を当てると音の出所が通り過ぎていた。行ったりきたりしながらめぼしい雪の斜面を下ると小さな雪のくぼみの下では細いけれど、勢い良く雪融け水が流れている。フィルター付きの水筒に入れて飲む。雪が融けてできた水特有の透き通った味がする。甘い湧き水もおいしいけれど、春先の、出来立ての水はやはり格別。





オリサバのこと

2008-02-12 14:46:22 | 徘徊

登れなかった山というのは、登った山よりも心に残っているのかもしれない。
 僕らがオリサバを登ろうと決心したのは、もうずっと前のことで29か30そこいらだったと思う。多分、南の方にある、川をせき止めた池がある私有地でキャンプをしたときだった思う。メキシコ特有の勢いのある雨がひとしきり降り終えた後、ずいぶん涼しくなった夕暮れ時に、カレーでも作りながら、僕が山に登っていたという話が出たのかもしれない。不思議なことなんだけれど、雨がやむのはいつも夕方だった。そして、雨のあとはいつもとびきり色が際立った紫色に空が染まっていたものだ。

 誰がオリサバに登ろうなんていい出したのか判らないけれど、その場の雰囲気だか何かで登ろうか、ということになってしまった。5600mという高さはずいぶん魅力的だったし、日ごろの不満のはけ口を探していたんだと思う。


 結局のところ、その年は雪が多すぎて登ることができなかった。その日のために雇ったガイド曰く「山小屋には15時に着く」ということだったのだけれど、実際に僕が山小屋についたのは23時だった。靴の中でかじかむ足を動かしながらいい加減なガイドに毒づいていたのだけれど、そのときにみた星空は今でも忘れない。

 
 もう一度、オリサバに行こう、という話が出るのだけれど、いつのまにか消えてしまう。僕はメキシコを離れてしまったし、友人は二人目の子供もうけ自由も利かないだろう。別の友人は大学での研究を終えようとしていて忙しそうだ。時間が過ぎているんだ。

 いまでも、あそこには散らかった山小屋あり、あきれるくらい大きな山頂があるのだろう。