SCRATCHというチーム名の由来は?と聞かれることがあります.
3年前にチームを結成したときに,チーム名を何にするか,みんなでアイディアを出し合いました.
「いつもはばらばらに離れて練習しているけれど,
いざ!という時にはみんなで一か所にがっと集まって,日本一を目指す.そんなチームになりたいです」
そう言って,「SCRATCH」という名前を提案してくれたのは,内海選手でした.
そしてその日から,私たちはSCRATCHという名前を胸に掲げて,日本一への挑戦を始めました.
あれから3シーズン目の女子選手権が終わりました.
いつもは自分が出ない試合を客観的に書いていますが,
今日は自分の試合について論じてみたいと思います(笑)
11月26・27日に神戸グリーンアリーナで開催された第22回全日本女子車椅子バスケットボール選手権大会.
今回は6チームの参加で日本一が争われました.
例年よりもチーム数は少ないのですが,予選リーグと決勝トーナメントという構成になったため,
試合数は逆に増えた今大会.
SCRATCHはベンチメンバー含めて7名(のうち1名は私なので,実質は6名)の選手で二日間で4試合というタフな戦いになりました.
予選AリーグはELFIN・九州ドルフィン,WINGの3チーム.
予選Bリーグはカクテル・ブリリアントキャッツ・SCRATCH,という組み合わせ.
しかも予選1回戦,いきなり強豪のカクテルとの対戦から大会は始まりました.
この試合,もちろんあわよくば勝っておきたい,そういう気持ちは満々でした.
そうすると,俄然,予選の2試合目の戦い方が楽になります.
でも,そんな淡い期待は粉々に打ち砕かれました.
32対50.敗戦.
チーム結成以来,こんなにシュート率が低い試合があっただろうか?というくらいの低いシュート率.
前半は30.0%,後半はさらに落ちて16.1%.
カクテル戦で勝てるとすれば55対49くらいのスコアだろうと読んでいたので,
ディフェンスは読み通りだったのですが….
カクテルはほぼ一試合を通してオールコートプレスで当たってきました.
一試合ずっとプレスブレークをさせられることに心が折れてしまったのと,
ブレークに集中するあまり,ブレークした後のシュートへの集中が切れてしまって,
ハーフコートオフェンスがばらばら.
当然ですが,ずるずると点差が離れていってしまいました.
試合が終わった後のみんなの表情.
もうここだけ一足先に冬が来たのではないか,というくらい,顔色真っ白.
おそらく私もそうだったでしょう.
試合直後,スカパーから決勝へ向けての抱負をインタビューされたのですが,
正直,何をしゃべったのか覚えていません.
というわけで,今大会はどん底からのスタートになりました.
次の相手はブリリアントキャッツ.
カクテル戦での大敗の心の傷も癒えないままに二試合目を迎えることになってしまいましたが,
とにかく,今の状態とまずしっかりと向き合い,ここから一つ一つ良くしていこう,と話しました.
そう,「Better than the best」です.
この試合,経験豊富な愛知のレジェンド,高林美香選手がスタートから出てきました.
キャッツは大島ヘッドコーチを始めとして,本当にゲームに勝つための策をあの手この手で展開してくる賢明なチームです.
今回も,こうやられたら嫌だなぁ,と思うことを,次々と繰り出してこられました.
でも,そういうゲームの流れの読み合いの中で,細かく細かく修正をしながらゲームを進めていく,という
コーチとしての醍醐味を一番味わえたゲームだったようにも思います.
おそらく,私は選手の誰よりも集中していたはずです.
終わってからのぐったり感は半端なかった.
キャッツ戦をなんとか65対42で勝利し,予選リーグの2位通過を決めました.
この試合,相手の1スレ・大砂選手には27得点とやられましたが,全体のシュート率を32.3%にまで抑えることができました.
逆にSCRATCHは井上選手の26得点8リバウンド3アシストに続き,増子選手が14得点,成毛選手が10得点,萩野選手が8得点,と
かなりバランスよく得点することができ,シュート率も46.9%まで上がってきました.
特に,増子選手の復調はかなりチームを安定させました.
しかし,この試合は内海選手をあまり出すことができず,得点も記録されませんでした.
準決勝以降は,内海選手の使い方がキーになるだろうな,と帰り道にぼんやり考えていたのを覚えています.
準決勝の相手は予選Aリーグを僅差で1位通過した九州ドルフィン.
これまたオールコートプレスが強いチームです.
宿舎に帰り,スタッツとビデオを見直しました.
カクテル戦のスタッツを見て,あれ,と思いました.
シュート率は悪かったものの,シュート数はほぼ互角.
つまり,ブレーク自体はできていた,ということ.
ふむ.
その日の夜は,寝ても覚めてもプレスブレークのイメージが頭を離れませんでした.
ブレークだけで終わらず,そこからどう展開していくか.
どうやってリズムをこちらに引き寄せていくか.
今のやり方はあっているのか,あっていないのか.流れはどちらにあるのか.
それらの読みを間違えないように,最大集中で準決勝に臨みました.
やはりドルフィンは立ち上がりからプレスを展開.
しかし,もう慌てません.
試合前に選手に伝えたゲームプランは,ばっちり合っていました.
企業秘密なので詳しくは言えませんが(笑),
プレスブレークでもクロスのタイミングとそのあとのホールドが非常によくなって,
さらにはクロスをもらったピッキーがしっかりとプッシュをしてスペースを作ったことで,
一気にレイアップまで行ける場面がぐっと増えました.
そして何より,レイアップを勇気を持ってしっかり打ち切ることに,みんながチャレンジしてくれました.
前半のシュート率46.4%から,後半は64.0%にまで上昇.トータルでも54.7%という高いアベレージを記録.
驚くべきことに,この試合でクラス1の萩野選手は20得点を記録!
井上選手の24得点に続くポイントゲッターになりました.素晴らしい!
決勝の相手は,再びカクテル.
昨日はあれだけ大敗したのに,なぜか決勝はもう一度カクテルと戦いたい,と思っていました.
ここを解決しなければ,この大会で大きな忘れ物をしてしまうのではないか.
そんな気持ちでした.
強い相手と戦う時にまずすべきことは,相手が強いと認めること.
そこから始めなければ,解決策は見えてきません.
今,自分の手にあるカードは何なのかを一つ一つ整理しながら,
それを出すべきタイミングのシミュレーション.
アップをしながらも,ずっとイメージングを繰り返しました.
Victory loves preparation.
確かブッシ―がFBで書いていたような….
この言葉が,ストンと胸に落ちてきました.
これまで,これほどの準備をして試合に臨んだことがあっただろうか.
いや,準備をさぼっていたのではなく,準備をする,ということがどういうことかを本当にわかっていなかったんだ.
そう気づきました.
それを教えてくれたのは,ROOTs with Roo.
間違いなく,この夏の彼らと過ごした時間が,今私の力になっている.そう感じました.
決勝戦.
SCRATCHが勝てるとすれば,接戦でついて行って最後にひっくり返すしかないだろう,と読んでいましたが,
試合はこちらが望んだとおり,最初から最後まで接戦の展開でした.
相手の1スレは日本の1スレでもある網本麻里選手.
この超強力シューターに全力でプレッシャーをかけにいく.
それをどこまでやり抜くことができるか.
プレスブレークは丁寧に丁寧にピックをかけて,みんなでゴールアタックをかける.
それを最後まで集中してやり続けることができるか.
あれだけプレッシャーをかけたにもかかわらず,網本選手は26得点をマーク.
カクテルのトータルのシュート率は,41.4%と勝利のレベルまで来ていました.
やはり,一試合51得点という世界記録を持っている選手だけあって,その能力は半端なく高いものでした.
しかし,この日のSCRATCHは,本当に神懸かり的な集中力を持っていました.
網本選手との日本代表対決として注目を集めた井上選手の得点は15得点.
しかし,この井上選手が相手ディフェンスをがっつりひきつけ,
そして的確に,パスをよりシュート確率が高いポジションにいる選手に供給し続けた結果,
増子選手は14得点,成毛選手と萩野選手は12得点を記録.
さらに,井上選手に代わりにコートに入った内海選手は,
わずか11分弱のプレータイムで11得点と,実に5人の選手が二けた得点を挙げたのです.
まさに,attack together.
ローポインターだからシュート確率が低い,ということではなく,
ローポインターでもシュートが入るシチュエーションを生み出し続けた結果,
前半のシュート率は54.2%,後半はさらに上がって60.7%,トータルではなんと57.7%まで上がり,
今大会で最も良い数字を残したのです.
…こう書くと,楽勝したかのように聞こえますが,
しかし,試合は最後の最後までもつれました.
第3Qの残り2分,カクテルが42対40とリードしている場面で,井上選手が4つ目のファール.
ちょっと早いな….
でも,残り時間を考えると,井上選手をベンチに下げざるを得ません.
内海選手を振り返ると,彼女は待ってましたとばかりに,ものすごいオーラを持ってコートに入っていきました.
少なくとも,私にはそう見えました.
1試合目から確実によくなっている彼女のプレーに,ここは一つ懸けるしかない.
ベンチから,こんな場面で井上選手と一緒に戦況を眺めることになるとは…とも思いましたが,
不思議と,焦りは全くありませんでした.
第3Qを44対44の同点で終えた時,
井上選手をコートに戻すかどうするか,考えました.
でも,流れは悪くない.ディフェンスは崩れていない.
もし相手に先行されたとしても,ぎりぎりまで内海選手で勝負しよう.
あとはいつ,井上選手というカードを切るか,そこを見極めよう.
井上選手を見ると,彼女もそれでいい,と目で答えてくれました.
そして第4Q.
もうここまでくれば何も言うことはありません.
みんなは一試合ごと,1クォーターごとに成長してきたよね.
だから,最後のクォーターは,この大会で一番いいゲームをしよう.
そうすれば必ず,結果はついてくるから.
確か,そんなことを話したように思います.
それにこたえるかのように,本当に一番いい時間を選手たちは見せてくれました.
内海選手と萩野選手のオフサイドシールは,とても強かった.
24秒ぎりぎりで放った増子選手のシュートは,スローモーションのようにきれいにゴールに吸い込まれた.
スローインからの一瞬のひらめきで,成毛選手はゴール下のシュートをするするっと決めた.
それを見ていた井上選手がベンチで一言.
「これでいけるんじゃん.大丈夫だよ.」
そうだよね.いけるよね.
つかず離れずの展開でしたが,気づけば逆に6点のリードを奪っていました.
時間は過ぎていき,残り3分を切って,相手はファールゲームをしかけてきました.
ここだ.
内海out,井上in.
ここからの井上選手は圧巻でした.
緊張感高まる場面でも動じることなく,
エンドゲームのフリースローを5/6という確率で沈め,
勝利を確実なものにしてくれました.
そして,タイムアップ.
66対58.勝利.
もっと大騒ぎして,もっと号泣する予定だったのに,
なぜだかホッとして,そして嬉しくなって,ケタケタと笑っていました.
そんなこんなで,日本一になりました.
応援していただいたみなさん,ありがとうございました!
東北のみなさん,やりましたよ!!