「鏡の中のサーブ」

「鏡の中のサーブ」



車好きな僕は、人生の中で何台もの車を手に入れてきた。その一つを思い出すのは、飯倉片町の交差点での出来事だ。十番の方から上がりきったところで、信号待ちをしていた。そこに、隣の車列にサーブの車が停まっていた。その大きなサイドミラーには、自分の顔を映す美女が座り、化粧を施していた。そのメイクの仕方は何とも洒脱で、まるで彼女が真っ赤な口紅を弾く瞬間が、信号が変わる瞬間とリンクしているかのようだった。窓が閉まり、彼女の姿は見えなくなったが、その一瞬はまるで洗練された映画の一場面のようだった。

僕は、その大きなサイドミラーのサーブに一目ぼれしてしまった。アメリカでは、この車を寒冷地域でよく見かけることがあったが、そのスタイルは決してオシャレなものではなかった。スウェーデンの戦車メーカーが起源と聞いている。数ヶ月後、僕はサーブのオープンカーを手に入れ、それに心奪われたように街を駆け巡った。周りの人々が僕の車をどう思ったのかは分からないが、不思議な巡り合わせがあって、香港を訪れた際に、プレップスクール時代の親友が全く同じ車の別の色のサーブに乗っていた。彼がその車を選んだことに感心し、まるで我々が同じものを好む運命に導かれたようだった。