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「ニューヨークの夏と香水の記憶」

2023-12-01 02:57:59 | 大西好祐
「ニューヨークの夏と香水の記憶」

プレップ・スクール時代、夏のニューヨークは別世界のようだった。青空の下、書店の間を彷徨いながら、僕は文学とジャズのレコードに囲まれた日々を送っていた。一方、彼女はBloomingdale'sの1階で香水の売り子として働いていた。夕方、彼女が帰宅すると、アパートはまるで香水売り場のように、世界中のコロンやパフュームの香りで満たされた。私たちは、彼女が持ち帰ったサンプルの香りを嗅ぎ、そのブランドを当てるゲームで夜を過ごした。

香水は、ただ肌につけるだけではなかった。本のページに振りかけ、贈り物のカードや手紙に染み込ませる。それらは、まるで隠し味のように、存在をさりげなく知らせる。香りは言葉以上の物語を語り、なくても良いものの存在が、何かを一層際立たせる。

女性に香水を選ぶ際、彼女がどの香りを愛用しているかを知ることが肝要だった。あの夏の特訓で鍛えられた僕は、ほとんどの場合、正確にその香水を言い当てることができた。それは、ソムリエがワインの味わいを見極めるように、香水の香りを識別する技術だ。そして、僕が女性のつけている香水を正確に当てると、彼女たちはいつも驚きと共に喜んでくれた。その瞬間、僕たちの間には特別な絆が生まれたように感じられた。

この思い出は、時間が経てば経つほど、心の中でより深い色を帯びていく。ニューヨークの夏、香水の香り、そして静かな夜のジャズ。それらはすべて、遠く離れた青春の一部として、今でも僕の心の中に鮮やかに残っている。


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