ショートステイは上々

　今日は父のショートステイの最終日。
　私は今週、急に地方出張になったが、早めに切り上げて夜光バスで戻り、迎えに行く。
　
　家で出張の片付けと迎えの準備をしていると、施設から電話。
「今日、迎えに伺いますのでよろしくお願いします」
　と挨拶したら、
「あの、一時半に迎えに来ることになってませんでしたか？」
　えっ・・・一時半を三時半と勘違いしていた。あわててかけつける。
　施設に迎えに行くと、落ち着いて元気になった父の姿があった。
「気の合う人ができてね、お父さんよりちょっと年上で、話が合うんだよ」
　うれしそうに言う。そのお友達にもあいさつをした。９０を超えてるというが元気そうでひょうひょうとした男性だ。
　父は施設の人にも
「お世話になりました。こういうところは合わないだろうと思ってましたけど、思いのほかとても楽しかったです。ありがとうございました」
　昼間、しらふだけど、夜、ビールでも飲んでほろ酔いの上機嫌になったときのようににこにこして礼を言った。
　卒業式のように感動して盛り上がる退所の瞬間。そして、私にも
「いいところを見つけてくれてありがとう。ここなら、また来てもいいなあ。ぜんぶ任せてしまって済まない」
　父が喜んでいて、顔色もよく、口調もしっかりしてたのでよかった。
　最初に一人で見学に来たとき、建物の外も中もスタッフもとても気持ちがいい感じがしたが、その勘が当たったようだ。
　施設からの提示のとおり、来週から３ヶ月入所することにする。ほっ。
　

カップラーメンって難しい

　今朝、父から電話。
「お父さん、もう頭がおかしくなって、何がなんだかわからなくなった」
「どうしたの、気分悪いの？」
「いや、　今朝起きたら頭ががぐるぐるして、とりあえず、大きく書いてあったお前の電話番号に電話した」
　話しているうちに、少しずつ意識もしっかりしてきた模様。
「昨日送ったカップ麺あるでしょう？」
「うん、うどん食べた」
「蒸しパンもあるでしょう？」
「パン？パンはないよ」
　見つからない様子。

　１０時にヘルパーが来るのを見計らってこちらから電話した。
「お父さん？　ヘルパーさんに代わって」
「はい」
　ヘルパーが出る。
「今日はどんな感じですか。お金がないと言うので、カップ麺を送ったのですが」
「はい、ご自分でつくって食べてたようです。ただ、天ぷらとか、具がそのまま残してあります。お湯の量もちゃんと入れたかわからないですね」
　そうか。別添かやくと別添スープを開けて…というのは、もう老人には難しいのだ。老人には、チキンラーメンとか、本当に湯を注ぐだけの簡単なものがよいらしい。まあ、気を取り直して、ヘルパーに一つ作り置いてくれるよう頼んだ。
　いよいよ、一人暮らしは限界に近づいたようだ。

餓死寸前―バイク便でカップ麺を送る

「お父様が昨日財布をどこかになくし、ほとんど手持ちのお金がありません」
　金曜日、ケアマネージャーから電話が来た。驚いて父に電話すると、
「デイケアでお風呂に入るときに脱衣かごの中から盗られた」
　でも、落としたのかもしれないし、街ですられたのかもしれない。バスの無料パスも銀行のキャッシュカードも介護保険証も身障者手帳も一緒になくした。家にいくらかの小銭とパンがあるので、月曜のデイケアまでそれでしのぐという。

　日曜日にヘルパーのいる時間に電話したら、小銭が百数十円残っており、ヘルパーがそれでパンを買ってくれたという。父は
「月曜日に銀行に行って通帳と印鑑でお金をおろすから大丈夫」
　と言った。

　しかし、月曜の夜父に確認の電話をしたら、とんでもないことに。
「銀行は行かなかった。今日は朝から何も食べてない。
　バスの無料パスもなくしたので、駅前の銀行に行けなかったという。明日はデイケアで食事が出る。でも老人だから、今晩の空腹で衰弱死でもしたらかわいそう。
「お父さんの家の最寄り駅まで来てくれればお金渡すよ」
　と申し出たが、バスに乗れないので駅までも来られないとのこと。父の家まで行こうか、どうしようか考えた。でも、今週は仕事のヤマで残業したい。
　ふと思いついてバイク便に電話をしてみた。父の家まで、夜８時までに受付なら３０００円、それ以降は５０００円で配達してくれるという。もうすぐ８時。すぐに申し込み、近所のコンビニに駆け込み、かご一杯にカップラーメンと菓子パン、ジュースを買う。走って戻ると、ちょうどバイク便のお兄さんが着いたところだった。それですぐに発送。
　一時間後に配達報告が来た。父にも確認の電話。喜んでいた。やれやれ。カップラーメン１０個以上に菓子パン３個。とりあえず、これで一週間か十日は食いつなげるはず。ほっとする。