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Augustrait





[提供:小学館]
 17歳にして世界一になった.2010年8月,「最も長く賞金を稼いでいるプロ・ゲーマー」としてギネス・ワールドレコードに認定された.職業,プロ格闘ゲーマー.これから僕は,「世界一になって」,そして「世界一であり続けることによってしか見えなかったこと」について話をしたいと思う.それは「勝つために必要なことは何か?」「なぜ多くの人は勝ち続けることができないのか?」という話だ.いわば「世界一になり,世界一であり続けるための仕事術」とも言えるかと思う.その技術は,ゲームの世界ではもちろんのこと,それ以外の世界でも必ずや,前進のためのお役に立てるだろう――.

 本書の趣旨として,ギネス・ワールドレコードに認定されたプロ・ゲーマー,通称“ウメハラ”こと梅原大吾の自画自賛を予想していた.それが,実に内省的で訓戒を備えたものであることに新鮮な驚きを禁じ得なかった.やや大仰にいうなら,谷崎潤一郎『春琴』における天才肌の春琴に対する努力家の佐助.それだけの刻苦精励,ウメハラは蔑視の対象にすらなりうるTVゲームの世界をフィールドとして選択した.30を越えてもゲームに傾ける情熱は,勝負師を志した瞬間に変質している.流行り廃りがあまりに目まぐるしく,熱狂的なファンを狂喜させる訴求力が際限なく要望される.世間的にはまだまだ市民権を得たとはいえぬ「プロ・ゲーマー」という職業には,偏見と軽蔑が付きまとう.彼が身を置く世界は,そのような歪さをもっている.
‘これまでの経験から言えるのは,自分を痛めつけることと努力することは全然違う,ということだ.間違った努力は「こんなに頑張っているんだから結果が出るはずだ.これだけやって結果がでないのは世の中がおかしいからだ」という歪んだ思考にもつながる’*1
 本書には,当時普及し始めていた家庭用コンピュータに,劣等感や焦りを紛らすための娯楽体験を求めたウメハラの幼少期エピソードに始まり,栄光と挫折が赤裸々に語られている.14歳で人気格闘ゲームの国内大会,また17歳で世界大会を制したウメハラがゲームの求道に行き詰まり,雀荘で給仕をしながら麻雀の腕を独自に磨き,国内有数のプロ雀士に比肩するほどの強さを得る.だがプロ麻雀協会のプロテストを視野に入れた時,かつてのゲームと同様の空虚感が彼を苛む.結局2つの勝負の世界に見切りをつけ,無関係の介護福祉の従事者としての日々を送る.その中で,気紛れにゲームセンターに足を運んだ彼は,生涯で初めて「プロ」の称号を得る場所を「再発見」することになる.むろん,それは結果論ではあるが,客観的には無節操に見える彷徨の年月を,ウメハラは自ら収斂していった.

 知らず知らずのうちに,彼はターニングポイントと呼べるいくつもの節目で,重要な人々に出会っていた.自分を社会で生かすために,その人たちから受けたメッセージを吸収し,消化する力.それは彼の処世術の根幹をなす「生きる力の源」となっている.驚異的なパフォーマンスを続けるために,常人離れした努力を続けるコツや極意を語る個所に目が奪われるが,自分の確固たる個性を築き,成熟を続ける.学生時代,職業選択で有用な助言を与えてくれなかった教師への不信.ゲームで,あるいは麻雀で人に何かを伝えることはできない,と絶望した経験を得て,自己の個性を解き放つまでの葛藤には人の心を打つ普遍性がある.古今の優れたビルドゥングス・ロマンは,みな人間の「尊厳」と「意志」を描いてきた.本書も紛れもなくその一つといってよいであろう.
‘子どもの頃,ゲームに対する偏見に満ちた視線を感じながらも屈することなく,努力を続けてきてよかったと思う.誰かに批判されたからとか,世間に認めてもらえないからといって,そこでゲームを諦めていたら,この年になっても自分を好きにはなれなかっただろう’*2

ウメハラコラム 拳の巻 -闘神がキミに授ける対戦格闘ゲーム術-
梅原大吾
エンターブレイン

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原題: 勝ち続ける意志力―世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」
著者: 梅原大吾

ISBN: 9784098251322
  • 『勝ち続ける意志力―世界一プロ・ゲーマーの「仕事術」』梅原大吾
    --小学館,2012.4, , 254p, 18cm
    (C) 2012 梅原大吾

    *1 本書
    *2 本書