演技におけるリアリズムを徹底的に追求する「メソッド演技法」は,アクターズ・スタジオ芸術監督リー・ストラスバーグ(Lee Strasberg)の「システム」である.メソッド以前の演技者は,大仰な表情や発語で形式的「劇」を演出していた.ストラスバーグの指導を受けたダスティン・ホフマン(Dustin Hoffman),ジャック・ニコルソン(John Joseph "Jack" Nicholson),ロバート・デ・ニーロ(Robert De Niro)らは,役に取り組む俳優の創造性を証してみせ,鑑賞者の想像力をいたく刺激し,感銘を授けることを具現している.それは,古典的な表現主義とは概念を異にする演劇アプローチということであった.
「波止場」(1954)でマーロン・ブランド(Marlon Brando)は,即興による所作でもどかしい心の動きを表現.大人に対して咆哮しながらも,捨て犬のような脆く,憐れみを誘う瞳に,特権に対する反抗心というテーマが嵌め込まれた「理由なき反抗」(1955)のジェームズ・ディーン(James Byron Dean).アメリカン・ラボラトリー・シアターでストラスバーグが学んだ「スタニスラフスキー・システム」は,コンスタンチン・スタニスラフスキー(Константин Сергеевич Станиславский)の提唱する近代俳優術であった.ロシア演劇のリアリズムの伝統,唯物論的な美学や心理学,生理学を基礎に置くとされるスタニスラフスキー・システムを改良した技法こそ,ストラスバーグとアクターズ・スタジオの俳優が共同で練り上げた演技プランとその理論なのである.500から1,000という入学倍率を誇る狭き門は,アル・パチーノ(Alfredo James “Al” Pacino)が3回,ホフマンが11回,ニコルソンが13回受験して,ようやく入学できた事実が物語る.