「日照り雨」「桃畑」は少年期の幻想と不安.「雪あらし」「トンネル」は生と死が隣り合わせた青年期.「鴉」はフィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh)に陶酔した中年期.「赤富士」「鬼哭」は科学がもたらした文明への危機感を募らせる中年期.「水車のある村」は壮年期に人生の終わりを展望しようとする黄昏.夢を媒介に,黒澤個人のクロニクルを示す映画である.
脚本にはそれほど練り込まれた跡がなく,全体としてもバランスが悪い.日本国内では出資者が見つからなかったために,スティーヴン・スピルバーグ(Steven Allan Spielberg)に脚本を送り,ワーナー・ブラザーズへ口利きをしてもらい制作が可能になったという.「日照り雨」の不吉な虹や「赤富士」の原発爆発などの描写は,ジョージ・ルーカス(George Walton Lucas, Jr.)率いるI.L.M.の支援で実現した.ハイビジョン合成を初めて導入した本作は,夢というには映像色が赤裸々なまでに強すぎる.