goo blog サービス終了のお知らせ 
 
Augustrait





[提供:岩波書店]
 少年時代からベートーヴェンの音楽を生活の友とし,その生き方を自らの生の戦いの中で支えとしてきたロマン・ロラン(一八六六―一九四四)によるベートーヴェン賛歌.二十世紀の初頭にあって,来るべき大戦の予感の中で,自らの理想精神が抑圧されているのを感じていた世代にとってもまた,彼の音楽は解放のことばであった――.

 パリの母校エコール・ノルマールの留学生として,ローマへ赴いた23歳のロマン・ロラン(Romain Rolland)は,70代の女流作家マルヴィーダ・マイゼンブーク(Malwida von Meysenbug)との知己を得る.リヒャルト・ワーグナー(Wilhelm Richard Wagner),フランツ・リスト(Franz Liszt),フリードリヒ・ニーチェ(Friedrich Wilhelm Nietzsche )と親交のあったマイゼンブークは,理想主義的ヒューマニストに長じるロランに多大な影響を与えた.

 1904年にパリ大学(ソルボンヌ)で音楽史を担当した頃,ロランは大河小説『ジャン・クリストフ』の連載を始めた.芸術と自然を愛し,失意と貧困の中,幾多の挫折体験を経て崇高な魂を失わない音楽家クリストフは,ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven)をモデルとして生み出された.本書は,ベートーヴェンの生涯を克明に追った文献ではない.“楽聖”の偉大なる意志,輝かしく気高いその魂に,崇拝といってよいほどの賛歌を連ねている.

 27歳で耳の変調に自覚を生じたベートーヴェンは,聴力を失うに至り,自殺を決意する.だが,甥と弟に宛てた「ハイリゲンシュタットの遺書」には,すでに自殺を思いとどまった旨が述べられている.無音と化し途絶された現実世界,貧窮孤独の中で彼を死から引き止めたのは彼が“彼女”と呼んだ芸術.「苦悩を通じて歓喜に至れ!」.ロランの直観力は,《交響曲第三番》《交響曲第五番》《ピアノ三重奏曲》といった傑作の存在こそ「勝利」と感得するもの.絶望に打ち克とうとする人間の賛歌としての運命的勝利である.評伝としては不足が目立つが,文藝評論とみるべき意義の大きい著作である.

ベートーヴェン (新潮文庫―カラー版作曲家の生涯)
平野 昭
新潮社

++++++++++++++++++++++++++++++
Title: VIE DE BETOVEN
Author: Romain Rolland

ISBN: 4003255623
  • 『ベートーヴェンの生涯』ロマン・ロラン ; 片山敏彦 訳
    --岩波書店,1965 , 改版, 200p 図版, 15cm
    (C) lapse