投資家の目線

投資家の目線654(こうして銀行はつぶれた)

 「こうして銀行はつぶれた 米国S&Lの崩壊 The Greatest-ever Bank Robbery」(マーティン・メイヤー著 篠原成子訳 日本経済新聞社 1991年)は、1980年代に起こった米国のS&L(Savings & Loan 貯蓄貸付銀行)の経営破たんに関する本である。

 1980年代、規制緩和を受けてS&Lは地域住民等への貸出しよりも、ジャンクボンドを購入したり、ディベロッパーとして直接投資したりするようになった。しかし、土地価格の崩壊などの影響で経営が悪化した。大手会計事務所は十分な手数料が得られれば資産価値の水増しに協力し、S&L所有者から多額の政治献金をもらっている政治家は規制当局に圧力をかけた。S&L所有者にもひどいものがおり、直接投資が多い南カリフォルニアのノース・アメリカンS&Lの資産の多くは、彼らが偽造した銀行預金証書だったという。

 無茶苦茶な経営の例として、同書ではチャールズ・キーティングが所有するカリフォルニア州のリンカーンS&Lが挙げられていた。役員には子供たちなど縁者を起用し、ジョン・マケインら後にキーティング五人組と呼ばれる上院議員たちに旅行をプレゼントしたり、献金をしたりして規制当局へ圧力をかけさせるのに役立てている。まるで安倍政権のお友達と監督官庁の関係のようだ。

 S&Lは、日本では相互扶助を目的とする信用金庫や信用組合に類似するものだろう。年初には北海道で3信金が合併した。今月中には宮崎県で宮崎信用金庫と都城信用金庫が、長崎県では長崎県民信用組合と佐世保中央信用組合の合併がある。昨年は静岡県で3組の信用金庫の合併が明らかになった。11日には三重県の桑名信用金庫と三重信用金庫の合併が正式発表された。これらの合併には、低金利に加え、地元の中小・零細企業の休廃業を背景とする取引先の減少にも原因があるようだ(「始動2018静岡の針路(1)信金再編、さあ本番――地域越え協調、着々、専門ノウハウ、どう獲得。」 2018/1/5 日本経済新聞 地方経済面 静岡)。融資などの低迷から、投資信託や保険販売の手数料で収益を上げようとしている(「北関東の22信金・信組 投信・保険販売 6割が強化、来期、本社調べ 手数料で収益確保。」 2018/1/10 日本経済新聞 地方経済面 北関東)。融資の低迷で投信や保険販売の手数料という新規事業で稼ごうとする信金・信組の姿は、当時の米国S&Lに似ているように思う。

 同書には、ロサンゼルス郊外にあるグレンフェッドという1983年に相互組合から株式組織に転換したS&Lの理事長の、「私を雇ったゴードン・クレットという男は、われわれが株式組織になった時、われわれが住宅にコミットしなくなるだろうということに気づき、彼はそうなってほしくないと思いました。相互主義というのは、地域へのサービスを第一と考えることでした」という言葉が記されている。投信や保険の販売への傾斜は、どこまで地域サービスに役立つか疑問である。地域へのサービス第一というやり方では金持ちにはなれないとも書かれていたが…。


 なお、キーティングのS&L経営には問題はなく、S&L産業を救おうとしている新しいS&L経営者の代表者と喝采を送った人物として、後にFRB議長となるアラン・グリーンスパンの名が挙げられている。もっともグリーンスパン自身は自著「波乱の時代 わが半生とFRB 上」(山岡洋一、高遠裕子訳 日本経済新聞出版社)で、キーティングが借入を危険なほど増やす前のことで、その時点の財務基盤には十分な流動性があり、不動産への直接投資を行っても安全だと結論づけたと書いているが。
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