同書に出てくる東大保健センターの説明では、PCR検査の特異度を99%と想定している。著者の牧田氏は、特異度は実際には99%よりもっと高く、100%をとるべきと主張している。特異度ではないが、金融機関の市場リスクの管理手段バリュー・アット・リスク(Value at Risk:一定期間、一定の信頼区間で想定される最大損失額)は、信頼区間99%で計測されることが多い。有効とする数字の桁数は業界毎に基準が異なるようだ。
牧田氏は、バイデン政権で新型コロナウイルス対策が進むと考えているようだ。米国の方が書かれていたが、新型コロナ関連のデータには不法移民が含まれていないという。不法移民が多い米国で、不法移民が含まれないデータにどれほどの意味があるだろう?不法移民と「米国市民」の間に接触がほとんどなければ、米国連邦政府が責任を持って守るべき「市民」に関するデータとして意味がある(不法移民を守る責任があるのは出身国であろう。不法移民ではないが2018年に台風で関西空港が閉鎖されたとき、自国民を迎えるため中華人民共和国は対岸の泉佐野まで迎えのバスを出した。当時、台湾の大阪「総領事」が対応を批判されたが、緊急事態への対応としては中華人民共和国の方が上だったと言わざるを得ない)。しかし米国において、彼らの間でほとんど接触がないということは考えられない。
バイデン政権は、トランプ政権が行っていた国境地帯に壁を建設する事業を取りやめた。そのため、水際ならぬ壁際で入国管理を行うことが難しくなる。新型コロナウイルスの感染者に不法入国されたら、市中での感染を防ぐ術がない。
これも同じ米国の方が書かれていたが、米国立アレルギー感染症研究所の所長で政権の首席医療顧問のアンソニー・ファウチ氏の使用しているジェット機は、製薬会社が提供しているという(投資家の目線838(新型コロナワクチンとテレワーク) にも書いた)。ファウチ氏には利益相反の問題がある上に、新型コロナウイルスが流行し始めた頃にマスク不要と言っていたため、トランプ支持層には信頼されていないように見える。米国CDCは、5月にワクチン接種完了者のマスク着用義務を原則解除したが、7月にはマスク着用推奨と、たった2カ月で方針転換された。専門家の楽観的な見通しは、ご参考程度にみていた方がよさそうだ。
3日、菅首相が自由民主党総裁選挙に出馬しないことを発表した。新型コロナウイルスの感染症対策に失敗したので、それは当然と言える。先の米国人が書かれていた朝鮮民主主義人民共和国の新型コロナウイルスに対する検査・防疫体制の徹底ぶりには感嘆せざるを得ない。新型コロナウイルス感染者はいないと主張するのも頷ける。党の幹部まで救援物資の配給や復旧作業に従事したという昨年の水害への対応といい、水害の最中に宴会をやっていた日本の政権政党とは国家の統治に対する本気度が違う。完全に真似ることは困難だとしても、中央政府や地方政府で防疫に失敗している政党は、少しは見習った方がいいのではないかと思うぐらいだ。
最初に言及した体制の問題からいえば、新型コロナウイルスの防疫失敗に対しては、政治部門だけでなく医学部門も責任をとるべきだ。少なくとも新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーは、総取り換えが必要だろう。
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