投資家の目線

投資家の目線861(ロサンゼルスでの鉄道貨物略奪)

 ロサンゼルスで貨物列車への略奪行為が深刻化し、鉄道大手のユニオン・パシフィックが運転停止の可能性を示唆していた(「貨物列車強奪が急増、運行停止の可能性も 米ロサンゼルス」 2021/1/16 CNN)。ニューサム加州知事は犯人を罪に問う必要があると発言しているが(「州知事が陣頭指揮で清総?ニ ロスの列車積み荷窃盗事件」 2022/1/21 AP通信)、微罪のままでは効果が薄かろう。

 現に、「南カリフォルニア海洋取引所(MESC)によると、米最大のコンテナ港であるカリフォルニア州ロサンゼルス港とロングビーチ港の入港待ち船舶は、1月上旬に過去最高の109隻に達したという。AARによると、北米の鉄道輸送量は年初から3週間で12%減少している。」(AAR=米国鉄道協会、「北米の鉄道輸送量、年初から減少続く」 2022/1/27 ダウ・ジョーンズ配信)と、物流は全く改善していない。

 少し古い資料だが、「ロサンゼルス港の港湾経営と環境戦略」(名古屋港管理組合 木下嘉平太)2016_5.pdf (kokusaikouwan.jp)によれば、
「コンテナ取扱量は、2000 年以降全米1位の座を保持し続けており、2015年の取扱量は約820万TEU、ロサンゼルス港・ロングビーチ港全体で約1,535万TEUを取り扱っている。 両港の北米全体からみた取扱貨物量のシェアは約35%を占めている」(p2)
「上位相手国は、貿易額ベース(2014)において1位は中国(142億ドル)、2位は日本で39億ドル、3位韓国(16億ドル)、4位台湾(13億ドル)、5位ベトナム(13億ドル)である」(p2)
「ロス地域を発着する貨物鉄道は100本/日、アラメダコリドーは45本/日 運航で年間500 万TEUを運んでいる。ロサンゼルス港・ロングビーチ港と背後地を結ぶ鉄道輸送の割合は、6割以上(残りはトラック輸送)が鉄道輸送されている」(p11)
(TEU=20フィートコンテナ換算)とされる。

 北米全体のシェア約35%を占める港で、鉄道が背後地への輸送の6割以上を占める中、鉄道輸送が停止すれば、日本をはじめとするアジア諸国と米国間の貿易がストップするのではないだろうか?米国南部との交易は、拡幅されていたのは朗報とはいえ、パナマ運河が制約となるだろう。

 例えば、「ロサンゼルス港 港湾概要|名古屋港管理組合公式ウェブサイト (port-of-nagoya.jp)」によれば、2020年の名古屋港からロサンゼルスへの輸出は自動車部品(942,923トン)、ゴム製品(323,951トン)、産業機械(228,989トン)の順に多く、逆に輸入は動植物性製造飼肥料(224,650トン)、輸送用容器(188,990トン)、豆類(45,831トン)の順に多い。ロサンゼルス港が止まれば、日本の対米輸出の主力である自動車関係の輸出が減少し、飼料や豆類の輸入減少は畜産業のコスト増や、しょう油や豆乳、食用油のさらなる値上げにつながりそうだ。

 「ユナイテッドは昨年、旅客機を使った貨物専用便の廃止を検討していたが、主にアジア発着のボーイング777を使用し、継続することを決めた」(「ユナイテッド航空、貨物専用便を継続」 2022/1/21 ダウ・ジョーンズ配信)。米国とアジア間の貨物輸送のひっ迫に対応する措置だが、海上輸送の規模に比べれば、焼け石に水だろう。

 「新型コロナウイルス変異株「オミクロン株」の感染拡大で、米国の食料供給システムに新たな負荷がかかっている。その範囲は加工工場から食料品店にまで及び、スーパーマーケットの棚は埋まらないままだ」(「【焦点】米スーパーの棚ガラガラ 食品供給に強まる圧力」 2022/1/24 ダウ・ジョーンズ配信)。そもそも、米国内の物流が混乱しているのに外国の事情にかまっている暇はないだろう。日本経済はひどい不況に陥るのではないだろうか?


 なお、1月13日のSTARS AND STRIPESは、供給網の混乱で在外米軍基地の売店でも一部の物資が届かず、不足していることを報じている(それが原因で、在宅命令にもかかわらず沖縄の米軍関係者は地元の商店街に買い物に出かけていることも報じている)(「Global supply chain slowdown means empty shelves at US military commissaries BY MATTHEW M. BURKE AND FRANK ANDREWS」 STARS AND STRIPES•JANUARY 13, 2022)。自国の軍にまともに物資の供給もできないのに、外国であるウクライナのために米軍がロシアと戦うなんて無理だろう。
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