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鬼の里。


 豊後、国東半島の北のつけ根、豊後高田から都甲川を遡ると、岩峰が聳える長岩屋の狭い谷の崖下に、へばりつくように「天念寺」が建つ。六郷満山の中山本寺とされる古刹。隣には「身濯神社(みそそぎ)」が鎮座して、長岩屋川を前に仏堂と社殿が並ぶ。後背は大岩壁で、川には不動三尊が刻まれた大岩があり、川中不動と呼ばれている。この里が「鬼の里」とされる。


 天念寺は旧正月の夜に行われる「修正鬼会」で知られる。国東半島の六郷満山に伝わる修正鬼会は、1200年以上の歴史があるという。江戸期までは国東半島の天台宗の各寺で行われていたが、今ではこの天念寺など3ヶ寺で行われるのみ。

 深夜、現れた赤鬼は松明を持って天念寺の講堂内を暴れ廻る。やがて黒鬼も現れ、火の粉が舞う中、里の民は鬼たちに松明で背や尻を叩いて貰い、五穀豊穣や無病息災を祈願する。
 ふつう「鬼」は悪鬼であるが、ここの鬼は多祥をもたらす良き鬼とされる。民俗学では年の始まりに祝福を携えて来訪する先祖神とされる。国東の基層信仰。国東半島の民の先祖は「鬼」であるという。


 桃太郎伝説の鬼、吉備の「温羅(うら)」も吉備の古い先祖神とされる。百済の王子を称する温羅は吉備に鉄の文化を持ちこみ、吉備に繁栄を齎す。が、温羅はその繁栄を恐れた王権に討伐される。
 阿蘇の鬼「鬼八」も阿蘇の古い氏族とされる。やはり、王権から派遣された氏族とみられる「健磐龍命(たけいわたつ)」に討伐される。そして、阿蘇も鉄製武器に由来する域であった。


 国東半島の沖に姫島が浮かぶ。日本書記では垂仁天皇の御代、加羅の王子「都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)」は、阿加流比売を娶ろうするが、阿加流比売は逃れ、姫島に辿りついて比売語曽の神になったという。姫島の名称由来。そして、阿加流比売を追って韓半島より渡来した都怒我阿羅斯等は豊前、香春の現人神社(あらひと)に祀られる。
 都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)とは「角(つの)がある人」の音とされ、二本の角をもつ牛冠を被るといわれる。鉄器を齎した神とされ、渡来の製鉄氏族や金属精錬集団が斎祀る神といわれる。


 国東は鉱山に拘わる古代氏族が播居する域とされ、韓半島に由来する製鉄氏族の存在が指摘される。そして、豊後高田周辺には鉱山に拘わる「金屋」地名などが残り、長岩屋周辺には鉱山の痕跡さえ残されるという。国東の基層にみられる「鬼」の信仰とは、製鉄や金属精錬に纏わる韓半島由来の氏族に因るものとみえる。(了)

 

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