2ブロックほど先の家が、たしか立て替え工事をしていたんである。
藁にもすがる思いで、ふらふらとその家を目指す。
平日の朝は、たいてい軽トラが横づけしてあるのに、
土曜日だからか、人の気配はなかった。
誰もいない? ダメ?
今日は工事の人もお休みか…と思ったときに、
2階の足場部分を歩く人影が見えた。
もしや…と、じっと見上げていると、
運よくその人は降りてきた。
あぁでもダメだ。
こざっぱりしてお洒落なお兄さんである。
きっとこの家の若主人が、工事の進み具合を見に来たのだろう。
「…あの、工事の方ですか?」と、それでも訊いてみたら、
「あ、はい、一応そうです」という答えが返ってきた。
やった!
急いで事情を説明し、「机の脚を外してくださいっ」とお願いする。
今日、引っ越しなんです。
なのに、車に乗らないんです。
すぐそこなんです。
…こっちの必死が伝わったのか、
あっさりと、「じゃぁ、見てみましょか」と言ってくれた。
「プラスのドライバーだけはあるんですけど、
よく見たら、六角形か八角形やったんです…。」
恥ずかしさもあって、いろいろ言い訳するうちに、
車のトランクの後ろに置き去りにした机にたどりついた。
お兄さんはしゃがみこんで、繋ぎの部分をチェックすると、
「あ、なるほど、これですね」と明快に一本のドライバーを選びだし、
くるくるっと見る間に脚を一本外してくれた。
すごい!ありがとうございます!と大拍手する。
拍手だけではいけない…と私が一瞬、部屋に戻っている間に、
脚はすべてとりはずされ、トランクのなかに机と脚とが積み込まれていた。
あわてて包んだお礼を渡そうとしたら、
「いや、そんなの受け取れないです」と何度も手を振って、どうしても受け取ってくれない。
それどころか、そのぴったりの六角形のドライバーを
「これ、持って行ってください」と手渡してくれた。
*** *** ***
置き場所は変わったけれど、その長い脚の机で、また書きはじめている。
この机にはずっとお世話になるのだろう。
お兄さんがくれた六角形のドライバーは、封筒に大切に入れて、机の下に貼りつけた。
(これは五角形。いつも詰めが甘い)
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