BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説25-2「ディスティニーアンダーグラウンド」

2021-07-01 22:00:00 | ★ディスティニー25章
 またギターを弾けるのは嬉しかったが、麻也はまた忙しい日常にあっという間に戻されてしまった。
しかし良かったことは、ファンが麻也を信じてくれたことだった。
 東京ドームが決定したことで、麻也が「いけないお薬をやっている」という疑いもなくなったからだ。
 ファンにはさんざん心配もかけたし、またファンたちが他のバンドの意地悪なファンや、身近な人達に何を言われていたかと思うと、迷惑はこのうえなかったろうと、麻也はあらためて思い知らされた気がした。
 麻也はいつも以上にファンレターをもらった。みんな麻也の体を心配してくれた。メンタルも心配してくれていた。
 そして、東京ドームのことを祝福してくれていた。そして楽しみにしてくれていた。誇りに思ってくれているのだ。
 事務所のみんなには、
「いつもどおりのかっこよさでいい。 無理に背伸びはしなくていい。でも成長するのは構わないよ」
と言われていた。
「ただ、ステージの大きさには気をつけて、あと花道の長さには要注意だね」
と言ってくれたのは、ディスグラの東京ドームを何年も待ってくれていた美術監督だ。
 社長は、
「初のドームだから衣装もフンパツするぞ!」
などと言って笑わせてくれる。

 とはいえ余裕のある大御所バンドというわけではないので、宣伝活動がとにかく大変だった。
正直なところ観客がどれほど動員できるのかわからない。
 事務所の控えめな予測ではかなり動員できそうだったが、それでも、実はまだ足りない。
 おかげで音楽以外の雑誌にも出まくりだ。
そして、バンドの全体リハーサルの前に、それぞれの自主トレをしているわけで…
(…諒は俺たちより更に大変だしな…)
 思えば、諒とはさっぱり話もできていない。朝だけは一緒に食事をとるけれど…
 ボーカルはバンドの顔。
バンドとは別に1人での雑誌の取材やラジオ、テレビを出演も多い。
 更に諒はクリスマス向けのシングルの曲を、二曲とも書いていた。
 本来ならば共作でもよかったのだが…
認めたくはないがあの時の諒の言葉がどうしても引っかかっていたのだと思う。それで曲を作りたいとは言いだせなかったのだと思う。
 それにまだ曲を作るエネルギーもなかったし…
(…それにもう二度と諒の足を引っ張りたくないしなぁ…)
 スタジオの休憩時間、ソファーの上でコーヒーを飲みながら、麻也はそんなことをぼーっと考えていた。
それからスケジュール帳を開いて、明日の予定を確認した。
(えっ、明日は美容室?)
 行かないわけにはいかないが…でもこの状況では音を確認する時間が少しでも欲しい…
 周りの誰かに相談しようと思ったが、こういう時に限って誰もいない。
 それで気が付いた
「あっ、こういう時こそ、諒にメールをしよう」
ー諒、お疲れ様です。夕ご飯はどうなりそうですか、俺はスタジオ近くで食べていくことになりました。
うちには23時には着いていたいと思っています。
それでは。ちゅっ♪

…諒からの返事はなかなか来なかった
麻也が夕食を終えて、マネージャーの鈴木と帰りのタクシーに乗り込んだところでやっと着信…

ー麻也さん、ごめん、こっちはもう一つインタビューがあることが発覚しました、トホホ。
先に寝ていてください、ちゅっ♪

麻也はすぐに返信した。

ーわかった~諒もあんまり無理しないでね。

とは言うものの、いつもこういう時はリビングのソファーで横になりながら待たせてもらう。
 諒は心配して、ベッドで寝ていてというが、
(諒だって、いつもリビングで待っててくれているくせに…)
 寝室のベッドに麻也が寝てしまえば、諒は遠慮して自分の部屋の簡易ベッドに寝てしまうだろうから、疲れが取れないだろう…
 シャワーの後、 お気に入りの白のシルクのパジャマで、麻也がリビングのソファでうとうとしていると諒が帰ってきた気配…
 そして、
「麻也さん、寝ててよかったのに…」
と言いながらも、寂しがりの諒の声はどこか嬉しそうだ。
 しかし、麻也は、なかなか起きられない…
「ざんげしますぅ~麻也さんごめんなさい。俺ビールを一杯だけ飲んじゃいました。ごめんなさい」
「いいよいいよ、気にしなくて、謝んなくていいよ。薬のんでる俺が悪いんだから」
「でも、お詫びにね、麻也さん、これ」
「えっ?」

★BLロック王子小説25-1「ディスティニーアン ダーグラウンド」

2021-05-26 22:07:00 | ★ディスティニー25章
「それではディスティニー・アンダーグラウンドのみなさんです!」
 麻也たちメンバーは、ベテランの男性司会者の横、ひな壇に座って、紹介を受けていた。
 ここはこれまで何度も出演してきた、生放送の音楽番組のスタジオ。
 いくつもの照明と煌びやかなセットに麻也たちは照らされていた。衣装も少し秋めいたパープルで、スパンコールが輝いている。
 いつもツアーの後 久しぶりにここで出演すると 、ちょっと違和感を感じるものだが 、今日の違和感はなんだか違う。
 表に出る仕事としては、昨日のラジオが最初だったが…
 いつもと違って病院生活をしていたからだろう…というか、あんな騒ぎを起こしてしまった後ろめたさがあるからだろう。昨日以上に緊張している。
 司会者はツアーのことに触れた後、麻也に話を振ってきた。
「ギターの麻也君は もう大丈夫なのかな?」
 麻也は詫びるしかなく、
「お騒がせして申し訳 ありませんでした」
 諒がフォローして、過労だったんだよね、と言い、
働かせ過ぎてメンバーも反省してます、と言って、メンバ一全員でぺこりと頭を下げた。
 それを見届けると司会者は、
「そういえばいいお知らせがあるんだよね」
とさらに尋ねてきた。
「はい実は」
と答えたのは諒だった。
「はい 実は、東京ドームを、来年のバレンタインデーにやります」
と言うと、スタジオ中から驚きの声が広がる。
「すごいね~」
「おかげさまでなんとか…」 
 この話はもうファンクラブの会報では発表していた。
  その他にはもちろん恭一 …
 明日発売になる色々な音楽雑誌には インタビューでこの話をする予定になっている

 麻也にはギターの感覚も戻ってきていた。


★BLロック王子小説24-29「ディスティニーアンダーグラウンド」

2021-05-10 22:11:00 | ★ディスティニー24章
 諒はしょんぼりとしてしまった。
「…俺…そんな…」
 冗談のつもりが失言になってしまい、ますます空気を悪くしてしまった麻也…
(ど、どうしよう…)
 しかし、それを破ってくれるのはやっぱり直人だった。
「そんなわけないじゃん。俺、何度麻也さんにキスマークを自慢されたことか」 
「ええっ!」
「いや、1回だけだよ」
「ううん、楽屋で衣装に着替える時、何回か」
「ああ、そういえば…」
「そういう日は、麻也さんと諒がいつも以上に色っぽく見えて、目のやり場に困りましたよ」
 そして諒に向かって、
「心配しないで。ずっと二人は最高のカップルなんだから」
「じゃあ、ドームの成功は決まりだね」
 真樹の笑顔の無邪気さが頼もしかった。 

「こんな感じで合宿したいね」
「そうだね。レコーディング前とか」
「そういえば俺たち、野外のイベントもやったことないし」
「ドームの後なら、トリになれるかも」
「でも、夏の野外は…ってトリなら夜か」
すると直人は笑って、
「夜でソロの野外なら楽しいんじゃない?」
「そういやそうだね」
「ファンの夏休みの思い出になるから喜んでくれると思うし」
 麻也は何も言えなかった。
 前のバンドのことを思い出して…下手なボーカルにイライラしたが…
(…昼間だったけど、美少年バンドとしての濃いメークは好評だったっけ…)

 麻也に合わせて、全員アルコールは入らなかったのに、リビングでの雑魚寝まで4人のおしゃべりは盛り上がって、ほとんど眠れなかった。
 それでも、そのまま用意をして、麻也が手配した大型タクシーに4人で乗り込み、4人は地元の「東京都」の町田へと向かって帰って行った…
 
(この章終わり)


★BLロック王子小説24-28「ディスティニーアンダーグラウンド」

2021-05-05 22:26:00 | ★ディスティニー24章
「でも、ドームが成功すれば俺、そんなことなくなるからさ」
「…」
 諒の、やや悲しげな言葉に麻也たち三人は何も言えなかった。
 すると諒はこんなことを言い出した。
「高校の学園祭から始まって、小さなライブハウス、都心の大きなライブハウスでメジャーデビューが決まって、ホールでお披露目。そしてツアーやって会場が大きくなっていって、夢の渋谷公会堂。信じられなかった武道館…それが俺達ミュージシャンの双六じゃない? それで、最も幸運な、特別な最高の上がりは東京ドームだ」

 この90年代は、サウンドもビジュアルも煌びやかなロックが花開いた時代だった。
 ファンもその中から勢いのあるバンドに夢中になり、東京ドームを成功させることは、
殿堂入りのように称賛した。誇りにした。

「でも、武道館までかなえても俺は、麻也さんのパートナーである自信が実は無かったんだと思う。だから何も悪くない麻也さんを疑って傷つけた」
 しかし、諒の悲壮感を拭うように直人が、
「でも諒、玄関で麻也さんと諒の笑顔見た時、やっぱり運命の二人なんだって思って安心したよ」
 真樹もしみじみと、
「さらに、諒が言うとおり今度のドームで、俺たちトップのうちのひとつになるんだよね。そしたら…もう諒の兄貴との恋愛での不安材料がなくなるんでしょ」
 諒は難しい顔をしてうん、とうなずく。
 やや重い空気になってしまった。
 また憂うつになった麻也は冗談に紛らすしかなかった。
「ドームの先は海外進出、ってなるのかな?それなら、ドームが終わっても諒のえっちが下手なら、俺、海外進出する」
「はあ?」
 みんな目を丸くした
 諒は真っ青になって叫んだ。
「そんな…俺下手なの? 」
「兄貴!」
「そういう話じゃないでしょ!」


★BLロック王子小説24-27「ディスティニーアン ダーグラウンド」

2021-05-02 21:29:00 | ★ディスティニー24章
「えっ? どうかしましたか?」
 ウハウハとメロンを受け取った諒はとぼけてごまかそうとした。
「いや、メロンは麻也さんのリクエストだよ」
「兄貴ホントか?」
「う、うん。まあ直人もあがってよ」
 
 決起集会ならせめて、須藤や鈴木くらいは呼んでもよさそうなものだったが、やっぱり4人だけでだべりたかった。
「それでは麻也さんの退院と、東京ドーム決定を祝して乾杯!」
 直人の音頭で、ジンジャーエールのグラスを合わせ、飲み干した。
 まずは、麻也がふたたびみんなに今回の入院についてみんなに謝ったが、直人が、
「いやぁ、麻也さんを働かせ過ぎたことは俺も反省してるよ。麻也さん、本当にごめんなさい。申し訳ありません」
「いや、そんなことないから。俺が薬の飲み方を間違えただけだから」
 本当のことは直人も察していると思ったし、やっぱり麻也もこれ以上は口に出しては言えなかった。
 すると諒が、
「直人も真樹も本当にごめんね。俺が麻也さんを大切にするのが足りなかったのが悪いんだ」
「諒…」