雪の日はどんでん返し

2015-01-30 | つれづれ日記
のしのしと降っています
こんな日はミステリ

「秘密」(ケイト・モートン)を読む




中年の女優ローレルは
少女のころ
母のドロシーが人を刺し殺した瞬間を見てしまった

そのドロシーは
今、死の床にいる
現在と
ドロシーの若いころのことが
織り交ぜて語られる

ドロシーの恋人のジムと
隣家のヴィヴィアンとヘンリー夫妻の居たドロシーの娘時代

5人の子の母になっていたドロシーが刺し殺したのは
そのヘンリーだった

殺人は正当防衛ということで片付けられる

ローレルは子ども時代に聞いた母の言葉を思い出す
「わたしは昔ワニだったの
川の岸辺で人間の親子を見て
あんなふうになりたいと思ったの
そして人間になったというわけなの」

母はいったいどんな人だったのだろう?
ローレルの疑問は深まっていく
・・・

前作「忘れられた花園」に出てきた少女がとても魅力的だったけれど
ヴィヴィアンの少女時代も
また
めったにないほど個性的で
インパクトがあります








歩くヒトは運ぶヒト

2015-01-28 | つれづれ日記
1月もあと数日
もうすぐ2月がはじまります
きさらぎ
という名前が好きです

「運ぶヒトの人類学」(川田順造)を読む



わたしたちの先祖が
アフリカから世界中に散らばって行くとき
モノを持って行ったに違いない
と筆者はいう
(そういえば手ぶらのイメージでした)

ヒトはどんなふうに持ったか
を筆者は考える

ヨーロッパの人たちは
エネルギーの利用(牛馬、時には犬も含めて)をまず考えるヒトだという
馬が岸から引いて船を動かすために
船の中に厩までつくる
テーマは
誰がやっても同じようにできる道具をつくること

日本人は
単純な道具を
巧みさで使いこなすヒトだという
テーマは
技術の向上

アフリカの人は
恵まれた体と道具を一体化するヒトだという
テーマはあんまりない

体格に恵まれなかったからこそ
道具を工夫して
それがヨーロッパの産業革命につながり
日本では匠の技につながった
のだそうだ

(考古学の本ではありませんでした)





真贋探偵

2015-01-23 | つれづれ日記
起きてみたらめずらしく雨
まだ水仙月は来ません

南の国から水仙だよりが届く
本物の水仙が見られるまでには
あと三月かなぁ

「注文の多い美術館」(門井慶喜)を読む




美術品の真贋と来歴を探るミステリ短編集

登場するのは
大学の准教授の佐々木
鑑定家の神永
佐々木の教え子の琴乃
とさくらと
さくらの双子の姉で理系女子のかえで

神永は二十歳の頃に
骨董屋でアルバイトをしていて
手に持ったものによって
口の中が甘くなったり苦くなったりすることに気づく
どうやら甘く感じるときは本物で
苦く感じるときは偽物らしいと分かって
鑑定家としてたつことになり
今では世界的に有名な鑑定家になっている

この神永に
気ままな性格のさくら
佐々木に憧れるかえで
生真面目すぎる琴乃
三人に振り回される佐々木
が絡んで
薀蓄満載の事件解決が語られる
ところが魅力です

それにしても
気ままの魅力を描くのは
難しいものだと思いました






明治日本のサリバン先生

2015-01-14 | つれづれ日記
うれしいことに
あんまり寒くない日が
続いています

「奇跡の人」(原田マハ)を読む



奇跡の人といえば
あの奇跡の人の話
でも、時代は明治で
舞台は日本になっている

ヘレン・ケラーは介良(けら)れん
津軽の大家(おおやけ)の娘
サリバン先生は去場安(さりば・あん)
女子留学生として渡ったアメリカから帰国したばかり
という設定で
おなじみのエピソードが語られる

新たに加えられているのは
同年代の友だちとして
れんの成長の助けとなる
盲目の門付け三味線弾きの少女キワの存在
2人は競うようにして成長していく

安は、
何度も見失いそうになりながらも
れんの可能性を視つづける

行き着く先を知っているのに
最後のWaterのエピソードまで
一気に読まされてしまうのは
何故なんだろう
と思わされました










空気小説

2015-01-09 | つれづれ日記
中学生のころ
なだいなだを尊敬していた
今となってはその理由も思い出せない
なだいなだの奥さんはフランスのひとで
奥さんに日本語の読み書きを教えていたら
「むかしむかし、正直者がありました」を
「障子、着物がありました」と訳した
と書いていたエッセーがあった
ことをふと今朝、ふと思い出した

「麹町、二婆、二娘、孫一人」(中沢けい)を読む



めったに出ない中沢けいの新作
とほくほくする

麹町の古い家に
美智子さんとその母富子さん
富子さん付きの女中さんだったきくさんとその娘の紀美ちゃん
そして美智子さんの娘の真由ちゃん
全員亥年うまれの五人が暮らしている

テレビで谷崎潤一郎の手紙のことが取り上げられていたけど
これは
ひょっとして現代版の「細雪」かしらと思う
ほど事件は起こらなくて
美智子さんの小さな心配や気がかりが綴られる
だけの
空気小説(と勝手にジャンル化)

あらぬものの気配が
上手に配置されていて
それが清々しさを感じさせるところが
さすがです






かってにベスト10 ⑤

2015-01-07 | つれづれ日記
ちょっと雪やすみ
雨も降りました
1月の雨

かってにベスト10の
最後の2冊です

「弱いロボット」(岡田美智男)



ロボットというと人の形をしたものだと思いがちだけれど
パワーアシストスーツも
自動運転の自動車も
ネットの商品お勧めも(営業マンロボットと考えられるとか)
ロボットだという
そんなりっぱな人たちのロボット社会の中で
これから必要になるのは
未熟なロボットなのだそうだ
「とぽとぽと歩いて
ゴミの前に佇んでは
「ゴミを拾って」と無言で促すゴミ箱ロボット」
「「これは何色?」という問いに
言いよどんだり
トンチンカンな答えをしてしまったりする会話ロボット」
ひとを助けるのではなく
ひとに助けられるロボット
こそが必要とされる
という逆転の発想が面白い

最後の一冊は「たのしい不便」(福岡賢正)



持たない暮らしブームの中で
不便な暮らしを実際にやってみた
体験談

・自転車で通勤する  
・自販機で物を買わない   
・外食をしない(弁当を作る)  
・電気あんかを湯たんぽに切り替える
・季節外れの野菜を食べない   
などを「楽しむ」コツが紹介されている

不便になる
という覚悟と
楽しむのバランスが絶妙でした









かってにベスト10 ④

2015-01-04 | つれづれ日記
かってにベスト10
続きます

「胡蝶殺し」(近藤史恵)



歌舞伎役者市川萩太郎の子・俊介と
中村竜胆の子・秋司
竜胆が病死し秋司は萩太郎の弟子になることになる
俊介にはない才能を見せる秋司だったが
大切な舞台の直前おたふく風邪に罹ってしまう
代役になったのは俊介だった
歌舞伎に興味を示さなかった俊介だったが
持ち前の記憶力でみごと代役をこなす
この出来事をきっかけに、
秋司は歌舞伎をやめてしまう
反対に歌舞伎に興味を持っていなかった俊介が稽古に熱を入れ出す

なぜ秋司は踊れなくなってしまったのか
なぜ俊介は急に稽古に熱を入れるようになったのか
殺すとはどういう意味なのか・・・
角度を変えると見えるものが違ってくる
上質のミステリです

「さようならオレンジ」(岩城けい)



アフリカ系の難民のサリマ
研究者の夫とともに渡米した日本人のさゆり
結婚してアメリカに来たイタリア人のパオラ
3人は語学学校で知り合う
それぞれにぶつかる壁
3人の交流(安易に友情とは言わないでおこうと思います)を力に
立ち上がるそれぞれの物語が縦糸だとしたら
横糸は「言葉」
一度は捨てた言葉への信頼を
とりもどす物語でもあります








かってにベスト10 ③

2015-01-03 | つれづれ日記
かってにベスト10
続きます

「鬼はもとより」(青山文平)



前半は主人公が
経済が破綻して崩壊してしまった自分の藩の
経済破綻の原因を
考えて考えて
ついに藩札を使った経済の立て直し方を思いつくまで
後半は北国の島村藩で
それを実践してみる話

経済小説で時代小説
意外な取り合わせが意外に美味しい
その先が知りたい度が
いちばん
でした

「かたづの」(中島京子)



南部藩の中心が三戸だった江戸初期の
八戸根城の城主の奥方・祢々の波乱の生涯が描かれているいるのだけれど
(ついには遠野に国替えになる)
印象に残るのは中島さんの語りの上手さ
荒唐無稽にあと一歩というストーリーに
すっぽり飲み込まれました









かってにベスト10 ②

2015-01-02 | つれづれ日記
かってにベスト10
続きます

「翔ぶ少女」(原田マハ)



阪神大震災でパン屋をしていた両親を失った
ニケと兄のイッキと妹のサンクは
助けてくれた医師のゼロ先生の養子になる
ニケは仮設住宅を回るゼロ先生について行くのが日課だ
子どもはいるだけで喜ばれるんだ
ゼロ先生はそう言ってくれた
そんなニケは背中に羽がはえるという秘密がある

黒い部分がなければ
白いところが引き立たない
というけれど
白だけで十分描ききれる
ものだなぁと思わせられました



「少女小説から世界が見える」(川端有子)



磨き好きというよりも整理好き
にとってうれしい一冊

いっしょくたに頭の中に放り込んであった
子ども時代に読んだ本と
この頃読んだ本を
すっきり整理してもらった気分になりました

「ペリーヌ物語」「小公女」「赤毛のアン」「あしながおじさん」「少女パレアナ」
などの古典から
「フランバーズ屋敷の人々」「ヒルクレストの少女たち」
「イングリッシュ・ローズの庭で」まで
たくさん取り上げているけれど
おざなりではないところが
またいい
ので





かってにベスト10 ①

2015-01-01 | つれづれ日記
あけましておめでとうございます

大掃除をしなくちゃという
年末呪縛がとけて
ほっとひといき
おそまきながら
かってにベスト10(順位はありません)を選んでみました

「櫛引道守」(木内昇)



中山道の宿場町で櫛引職人の娘として生まれた登瀬は
父のような櫛引職人になることを願うようになる
女が嫁ぎもせずに職人として生きることなど考えられない時代に
登瀬のために不義理を承知で縁談を断ってくれる父
登瀬のために櫛引職人ではない道を選ぼうとする弟
登瀬と才を競い
狭い村の世界から江戸や京にまで販路を広げようとする夫

この夫
真っ直ぐなようで屈折していて
抜け目ないようで純粋で
主人公もですが
夫の人物造形に一票

「八月の六日間」(北村薫)



山に登るための荷物はできるだけ軽い方がいいだろうに
今回はどれにしようかな~
と考えて3冊はリュックに入れる主人公の
「書籍は常備薬と同じだから」
という言葉と
作品の世界の山の空気のような清々しさに
一票