はっぱのきもち

古典から児童書、外国作品までの感想。
あらすじを知りたい方や読む前の参考にしたい方におすすめします。

平安男の復讐はたちがわるい・「落窪物語」

2009-01-23 09:40:48 | 面白い古典
平安時代に書かれた物語です。

作者が不明(男性ではないか?と言われている)なのですが、
内容が平安時代版シンデレラといえるかもしれません。
この物語のエピソードの一部が「枕草子」に書かれているので、
おそらく西暦1000頃の時代に書かれたのではないかとのことです。



この古典を、分かりやすくするために
あの氷室冴子さんが新訳した本です。


氷室冴子さんといえば、
「ざ・ちぇんじ」や「なんて素敵にジャパネスク」などの
平安コメディを書かれた人。
私も十代の頃夢中になって読んでいたので、
すごいワクワクしながら読みました!最高!


内容は、先に述べたとおりシンデレラストーリー。
生母が死んでしまったため、父の家にひきとられ
意地悪な継母にいじめられながら寂しく暮らし、
床が落ち窪んだ粗末な部屋に住まわされたことから、
「おちくぼ姫」と呼ばれています。

この「おちくぼ姫」が、高貴な中将に見初められて救い出され、
きれいな屋敷に移り、その妻として幸せになります。


めでたしめでたし・・・

と言いたいところですが、ここで終わらないのです。
「おちくぼ姫」が継母である北の方から受けるいじめも凄まじいのですが、
姫を救い出したあとに、中将がこれを上回る復讐を開始します。


北の方のいじめも、女特有のネチネチしたもので、
助平な爺さんに姫を「契っておしまい」と与えたり、やることが
陰湿で恐ろしいものだったのですが・・・

中将は男ならではの方法で、北の方を陥れたのです。


どんなに威張ったところで、社会的に女性は権限を持たない。
でも、中将は末は大臣かというくらいの身分と権力を持つ。
だから、権力にあかした復讐をするという点では、北の方よりも
はるかに恐ろしいと思います。
要するに社会的に抹殺できるのですから。

しかも、一度じゃなくて何度も何度もダメ押しのように繰り返す。


もちろん「おちくぼ姫」はまったく復讐などは望んでおらず、
あれだけの仕打ちを受けてなお、おっとりと優しいのです。
雰囲気がふんわりとしていて、世間知らずでもあったためか
人を憎むということを知らないのです。


この「おちくぼ姫」の清らかさが、この物語すべてを包んでいて
陰湿になりそうな内容をコメディにしているのかもしれません。
古典の原文はもっと過激だそうですが、そこは氷室ワールドの魔法。
読んでいて楽しいものに仕上げています。


どんな仕打ちを受けてもへこたれない北の方。
もう笑うしかありません。


この「おちくぼ姫」は縫い物がたいそう上手で、
薄明かりの下で一心にうつむきながらチクチク縫っている姿は
本当にいじらしいです。
挿絵のイラストも素晴らしく、図書館でみつけたら必見です。



原題 少年少女古典文学館3 「落窪物語」
著者 氷室冴子