歯科技工管理学研究

歯科技工管理学研究ブログ
歯科技工士・岩澤 毅

医療の非営利性

2022年01月29日 | 基本・参考
医業経営の非営利性等に関する検討会

医療法人の非営利性
2019年12月20日

非営利性と公共性
非営利性と公共性の原則
 地域医療の担い手であり、「国民の健康の保持に寄与すること」が期待されている医療法人は、制度創設以来、その運営に非営利性と公共性が求められています。
 平成19年の第5次医療法改正によりその傾向はますます強化されたといってよいでしょう。

 非営利性および公共性の達成のために医療法人に対しては医療法の規定や行政指導によってさまざまな規制が加えられています。その反面、公益法人のような税制優遇が認められているわけではありません。

1.医療機関の開設に関する規制
 監督官庁は、個人・法人を問わず営利を目的とした医療施設の開設を否定しています。

(医療法抜粋※)

第七条  病院を開設しようとするとき、医師法第十六条の四第一項 の規定による登録を受けた者及び歯科医師法第十六条の四第一項 の規定による登録を受けた者でない者が診療所を開設しようとするとき、又は助産師でない者が助産所を開設しようとするときは、開設地の都道府県知事(診療所又は助産所にあつては、その開設地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合においては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長。第八条から第九条まで、第十二条、第十五条、第十八条、第二十四条及び第二十七条から第三十条までの規定において同じ。)の許可を受けなければならない。 

4 都道府県知事又は保健所を設置する市の市長若しくは特別区の区長は、前三項の許可の申請があつた場合において、その申請に係る施設の構造設備及びその有する人員が第二十一条及び第二十三条の規定に基づく厚生労働省令並びに第二十一条の規定に基づく都道府県の条例の定め要件に適合するときは、前三項の許可を与えなければならない。

5 営利を目的として、病院、診療所又は助産所を開設しようとする者に対しては、前項の規定にかかわらず、第一項の許可を与えないことができる。

 ※条文に一部省略があるので原文を参照のこと
 ※「でない者」には医師(歯科医師)でない個人の他、各種法人も含まれる。
 医療法人は営利を目的とした法人ではありませんので、通常は第5項の理由によって開設許可が下りないことはまずありませんが、医療法人の役員・社員の大多数が特定の取引先営利企業の役員を占めている場合などは許可が下りない可能性もあります。



2.剰余金配当の禁止
 医療法人は株式会社等の営利企業と異なり、内部に蓄積された収益(剰余金)を社員や出資者に配当することができません(第54条)。
 監督官庁ではこの「配当」の定義については決算時の議決による配当に限定せず、以下の行為についても「事実上の配当」と解釈して是正の行政指導を行います。

剰金配当と解釈される行為の例

・役員等の住居、私用スペース、駐車場を「社宅」として地代家賃を支払う
・医療法人から役員への金銭貸付(「短期貸付金」)
・役員等の経営する営利企業との経常的取引
・医療法人が役員等の個人的な借り入れの保証人となる
・医療法人が保険会社と、役員等を被保険者とする生命保険契約を結び、受取人が医療法人でなく役員等個人となっている。


3.収益活動の禁止
 医療法人の業務範囲は法律によって決められています(第42条)。
「本来業務」とされる医業の他は都道府県知事の認可を受けて行う「附帯業務」に限定されており、社会医療法人の認定を受けている場合を除いて、不動産賃貸などによる収益活動は全面的に禁止されています。
 前述の「事実上の配当」と同様に、業務範囲の逸脱に関しても監督官庁による是正の行政指導が行われます。

業務範囲の逸脱とされる行為の例

・金銭の貸付(ただし従業員への福利厚生の一環として行う場合は可)
・土地、建物の賃貸(無償の使用貸借であっても不可)
・株式、FX等の運用(利益を上げなくとも、保有のみで指導の対象)
・物品の販売、食事の提供(ただし病院のように入院施設がある場合は見舞人や付添人の便宜を図るため「付随業務」として認められ得る)


4.議決権・社員資格への規制
 医療法人の最高議決機関を構成する社員、評議員については、自然人であることが条件とされており、会社のような法人は医療法人の社員・評議員になれません(非営利法人であっても同様です)。
 次に議決権ですが、社員総会・評議員会での議決権は必ず「一人一票」となります。出資の多寡によって議決権の数を変える旨の定款の定めは無効となります。
(そもそも出資は社員・評議員となるための条件ではありません)
 
 つまり会社等の法人が出資をしたとしても社員資格が得られないため、退社時の持ち分払い戻しが出来ず、出資のメリットが発生しません。ただし、医療法人解散時の残余財産権の分配請求権は法人であっても認められています。

 これらの規制により、営利企業が多額の出資により議決権を持ち実質的に医療法人を支配することが難しくなっています。

5.「事業報告書等」の提出・閲覧開示の義務
 平成19年の第5次医療法改正により、全ての医療法人は、理事が作成した「事業報告書等」を監事の「監査報告書」と合わせて毎会計年度終了後3か月以内に都道府県知事に届出しなければならなくなりました(第52条)。
 また、この「事業報告書等」「監査報告書」は、定款(寄附行為)とともに法人の各事務所に備え置き、社員・評議員・債権者から閲覧の請求があった場合は、原則的に開示することが義務付けられています(第51条の2)。

 さらに、各都道府県知事に提出された「事業報告書等」と「監査報告書」は誰でも閲覧することができます。(第52条)「事業報告書等」には財産目録、貸借対照表、損益計算書が含まれているため、いわゆる「一人医師医療法人」のドクターにとっては、(書き方にもよりますが)きわめて重要な情報が開示されることになります。

6.「出資持分」制度の廃止
 これも平成19年の第5次医療法改正による改正点です。従来の社団医療法人は、定款の定めに従い、出資社員の退社時、または医療法人の解散時にその「出資持分(出資割合)」に応じて金銭の払い戻しを行うことが認められてきました。
 このため、退社時の払い戻し金目的の出資者が社員の大多数を占めるという医療法人が増加し、「医業経営の非営利性が保たれない」との批判が相次ぎました。

 これを受けて、平成19年の改正医療法施行後に申請された医療法人については、定款に社員退社時の「持分」払い戻しに関する規定を入れることができなくなり、解散時の残余財産についても国や地方公共団体、医師会などに帰属することとなりました。 
 このような医療法人社団のことを一般に「持分なし医療法人社団」「新法の医療法人」などと呼び、現在も社団医療法人はこの形態でしか設立することが出来ません。

 なお、既存の「持ち分あり医療法人社団」については「経過措置型医療法人」として法改正後も存続可能で、出資者の持分に応じた財産請求権は保護されています。
 ただし、定款を変更し「持分なし医療法人社団」になった場合には「経過措置型医療法人」への移行(後戻り)は出来なくなります。

「出資持分」制度の廃止により、医療法人の非営利性は強化されましたが、反面、経営のガバナンスや大規模かつ統一的なグループ運営においては不利となる部分もあり、「出資持分」制度復活論も根強く残っています。


新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に乗じた医療ビジネスの拡大から「医療の非営利性」の弊害について改めて考えてみる
企業や医療法人に係る会計制度について研究しています
海老原 諭
新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に乗じた医療ビジネスの拡大から「医療の非営利性」の弊害について改めて考えてみる
2021.09.23 2021.01.05
目次
医療の非営利性について
医療の非営利性が求められるようになった背景
株式会社の医業参入に対する日本医師会の見解
医療ビジネスの拡大に思うこと
人々の不安を利用するビジネスの隆盛
医療提供機関が資本力・広報力を持つべきか
参考文献
医療の非営利性について
わが国の「医療法」では、営利を目的とする者が、病院、診療所などの医療提供機関を開設することはできないと解されています。病院、診療所などの医療提供機関を開設するには、開設地の都道府県知事から許可を得る必要がありますが、「医療法」では、都道府県知事に対して、営利を目的とする者には、その許可を与えないことができると定められているからです(第7条第6項)。1993年には、医療提供機関の開設後に、その実質的な経営が営利を目的とする者に移っていないか(非営利性が開設後も維持されているか)を確認すべき旨の通知が発せられており(厚生省健康政策局総務・指導課長連名通知「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(平成5年総第5号・指第9号))、少なくとも制度上は、営利目的で医療提供機関を開設・運営することは認められていないと理解して問題はないでしょう。

医療の非営利性が求められるようになった背景
新田(1998)は、このような医療の非営利性が求められるようになった経緯について、次のように整理しています。

① 昭和初期の段階において、医療の企業化・営利化傾向は、医療機関の都市集中、低所得者層の受療困難化等の問題の深刻化を生み出していたこと。
② こうした問題は、営利法人の医療への参入によってではなく、我が国資本主義の発展に伴い、主として開業医自身が事実上営利を目的として医業を行う傾向を有したことで生じたこと。
③ 実費診療所や医療利用組合は、営利法人とはいえず、むしろこうした開業医の営利化傾向への批判としての意義をもっていたこと。
④ それにもかかわらず、こうした実費診療所等の活動に危機感を抱いた開業医・医師会サイドの運動を受ける形で医師法の改正及び診療所取締規則の制定がなされ、医療の非営利性の名目の下、医師以外の者の医療機関の開設が許可に係らしめられることとされたこと。
⑤ 改正法案を提出した政府側は、医業が利潤を生じ得ることを前提としつつ、営利目的の判断に当たっては、医業により利潤を上げることを目的としているかどうかに重点を置いていたと考えられること。

新田(1998)「医療の非営利性の要請の根拠」名古屋大學法政論集、第175巻、27頁。
開業医も生業として業務を行っている以上、開業医も生活のために利益を稼いでいく必要があります。このため、医療提供のために利益を稼いだという「結果」を否定することはできなません。そこで、医業から生み出される利益ではなく、営利志向を強める医師会・開業医の対抗勢力となる巨大資本(篤志家や企業)を「営利目的で活動する存在」とみなして、これらを排除しようとしたという説明は、「昭和初期」から100年近く経った現在でも十分な説得力をもっているように思われます。

株式会社の医業参入に対する日本医師会の見解
2000年代に規制緩和の一環として、株式会社の医業参入が議論されたことがありました。その際、これに反対する立場にあった日本医師会は、株式会社が医業に参入することの問題点として、次の5点を掲げています(日本医師会(2009))。

収入の拡大やコストの圧縮を追求するあまり、乱診乱療、粗診粗療が行われかねず、安全性への懸念が高まる。
不採算な患者や部門、地域からの撤退や、医療機関経営自体から撤退する可能性がある。
コスト圧縮には限界があるため、保険給付範囲の縮小、自由診療市場の拡大が要請される。
患者情報が顧客情報として活用され、患者(顧客)の囲い込みが行われる結果、いつでも、どこでも同じ医療を受けられる権利が失われる。
医療費の高騰、保険料や患者負担の増大により、低所得者が医療から締め出されるおそれがある。
日本医師会の主張は、ほかにもさまざまなところで出されていますが、「会社は利益を追求するために、医療の質を低下させ、国民の負担を増大させる」というのが一貫したメッセージになっているように思われます。

このようなメッセージに対して、私は、率直に言うと、「自分たちはどうなんだ?」とずっと思っていました。少なくとも2については、株式会社の医業参入がほとんど行われていない現在でも大きな問題で、かつ、年々その問題は大きくなっています。3についても、保険が適用されない評価容量や選定療養において大きな収益を上げている医療機関もあり、5にもあるように、患者の所得ごとに受けられる治療が変わってしまうというのも現実としてあるからです。

医療ビジネスの拡大に思うこと
人々の不安を利用するビジネスの隆盛
「お金を出させるには理由が必要」なわけですが、生活に必要な物資が十分にいきわたるようになった現代では、この「お金を出させる理由」づくりが非常に大変です。「子供や孫」を前面に出したり、ブームを作って「周囲にあわせようとする」本能をくすぐったりと、いろいろな「理由」が使われてきましたが、人間同士の関係性が失われ、ひとりひとりが「孤立」するようになった現在、「不安を煽る」というのも立派な「商売道具」になってきました。健康問題というのは、「誰にでも訪れる不安」であり、「安定した顧客」を望めるマーケットであることもあって、虎視眈々とねらっている人というのは少なくありません。

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大にともなって、社会的に先行きが見えなくなっている今も、大きな「ビジネスチャンス」が訪れています。楽天やソフトバンクが「民間PCR検査」を謳ってビジネスを行っていますが、医師でないために確定診断を行うことはできず、「陽性結果」が出た場合には医療提供機関を受診する必要があるということで、受診前に「上前を撥ねる」かのようなビジネスモデルとなっており、民間企業が個人の生体情報を収集できてしまえる状況になってしまっています。

楽天PCR検査 外部リンク
新型コロナウイルス検査センター(ソフトバンク) 外部リンク
しかも、これらの活動に医師免許を持った人が参画しているというのが話をますます混乱させている気がします。医師免許を持った人の参画がなければ「企業が勝手なビジネスを行っているだけ」で済ませることもできてしまいそうですが、このような人々の参画があることで世間的な信憑性があがってしまうというのは大きな問題です。現在では、出版社やマスコミを介して、このような「信憑性があるようにみえるもの」が公然と拡散される状況になっており、「標準医療」を否定して、「代替医療」を望む人も無視できないほど出てきてしまっている状況です。

「医師法」では、欠格事項(第4条)に該当するか「医師としての品位を損するような行為」(第7条)が確認されない限り、医師免許をはく奪されることはありませんが、このような「ビジネスに参画する」ことについては、これが医療提供機関で行われていない限り、あまりコントロールされていないように見えます。このような状況のなかで、資本力のある大手企業やマスコミを利用する(または大手企業やマスコミに利用される)形でマネタイズを行う「医師」がビジネスに参画することによる弊害は、このような社会的危機のなかで容認しえないレベルに達しているものと思われます。

日本医師会も『医の倫理綱領』において、「医師は医業にあたって営利を目的としない」(第6項)と規定していますが、営利を目的としない範囲は「医業」に限定されており、「医業」の外で行われた活動については沈黙を守っています。

医療提供機関が資本力・広報力を持つべきか
現在の法令上、「医療の非営利性」という言葉は、医療提供機関や医療法人を規制するための言葉として使われており、個々の医師を規制するようなものにはなっていません。医師であっても生きていくためのお金は必要であり、そのために利益を得ようとするのは当然であるからです。そして、「医師」が行うビジネスについては、制度上も、業界団体の自主規制としてもグレーゾーンのままになっています。

そのようななかで、日本医師会が懸念したような「株式会社による医業参入」の問題点が、検査制度にも疑問があり、保険診療の枠外で、利益を追求した「医業ビジネス」という形で露見するようになってきました。病院、診療所等で行う診療行為を行うことができなくても、「医師」という肩書きに対する信頼性を利用した「医療ビジネス」で「上前を撥ねる」ことによって、民間企業が利益を稼ぐという目的を達成できてしまっているわけです。

現在、わが国では、伸び続ける国民医療費を抑制するため「予防医療」を支援するような取り組みが行われています。このような「予防医療」に係る業務は、医療法人が行うことのできる業務にも随時追加されてきましたが、スポーツクラブや温泉施設の運営等、これまで企業が行ってきた業務と重複するものも少なくありません(「医療法」第42条)。政府が予防医療まで含めた医療・福祉サービスの一体化のために「ホールディングカンパニー」構想を提唱したこともありましたが(社会保障制度改革国民会議(2013)、28頁。現在の「地域医療連携推進法人」)、企業において持株会社の意味で使用される「ホールディングカンパニー」という言葉に対する抵抗感から、厚生労働省の審議会ではこれに営利企業の参加を認めないこととしたため、「医療ビジネス」を医療業界に「飲み込む」という選択肢もなくなってしまいました。

いわゆる「ビッグバン」以降、経済界と親和的な政策がとられるようになっているなか、「医業ビジネス」やそれらにに関与しようとする医師を、政府にコントロールしてもらおうと期待するのは難しい状況にあります。剰余金の配当が禁止されている医療法人は、株式会社のように不特定多数の投資者から出資を集めるということが非常に難しい状況にあります。また、医療提供機関に対しては、厳しい広告規制も課せられており(「医療法」第6条の5ないし第6条の8)、医療に係る情報を自由に発信できる状況にはありません。これでは、資金力にしても、広報力にしても圧倒的に強い「医療ビジネス」に対抗することは到底できないでしょう。

医療提供施設や医療法人に対して「医療の非営利性」を求めることにこだわり続けた結果、現在、拡大し続ける「医療ビジネス」への対抗勢力がほとんどない状況にあります。「医師免許を持つ人」の利益追求行為を客観的に確定することができない状況において、「医業ビジネス」が最終的な責任と治療を医療提供機関に押し付け、フリーライドできてしまうような現状を放置しておくことが望ましいとも思えないのです。

「医療の非営利性」を謳いながら、その一方で「実質的な配当」を通じて理事長一族が利益を得ているといった指摘がたびたび行われている現状をみるに、医療提供機関・医療法人の立場と医師の立場を都合よく使い分けている「医療の非営利性」に固執しすぎると、結果として、一部の悪意ある人物や企業のために、医療全体に対する信頼が失われてしまう結果となってしまうのではないかなと感じています。

参考文献
[1] 新田秀樹(1998)「医療の非営利性の要請の根拠」名古屋大學法政論集、第175巻(名古屋大学学術機関レポジトリ 外部リンク)。
[2] 日本医師会(2009)「医療における株式会社参入に対する日本医師会の見解」(日本医師会ウェブサイト 外部リンク)
[3] 日本医師会(2016)「医師の職業倫理指針(第3版)」(日本医師会ウェブサイト 外部リンク)
[4] 社会保障制度改革国民会議(2013)「社会保障制度改革国民会議報告書~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~」





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