歯科技工管理学研究

歯科技工管理学研究ブログ
歯科技工士・岩澤 毅

総括/高分子有機材料系医療用具の安全性に関する研究

1997年03月31日 | 基本・参考
文献番号 199700457A
研究課題 高分子有機材料系医療用具の安全性に関する研究
研究年度 平成9(1997)年度
報告書区分 総括
主任研究者(所属機関) 佐藤温重(昭和大学)
分担研究者(所属機関) 中林宣男(東京医科歯科大学),中村晃忠(国立医薬品食品衛生研究所),本郷敏雄(東京医科歯科大学),長尾正憲(東京医科歯科大学)
研究区分 厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 薬物療法等有用性向上推進研究事業
開始年度 平成9(1997)年度
終了予定年度
研究費 1,500,000円

概要版 研究目的:
高分子有機系医療用具の副作用の主因は医療用具から溶出するモノマー、重合開始剤などの化学物質であると考えられるが、これまで体液中における溶出物の定性定量などについては体系的研究がなされていない。本研究は、有機高分子材料の安全性の向上に資することを目的に1)高分子有機材料からのモノマー等の生体模擬条件での溶出動態、2)モノマーの唾液中への溶出量の分析定量法の改善、3)モノマー溶出量と口腔内粘膜所見との相関、4)高分子有機材料中の残留モノマーを低減する重合条件、さらに5)溶出化学物質の毒性情報について検討を行った。

研究方法:
1.3種の市販歯科用フィッシャーシーラントHE、CWS、TMの光重合試料(内径5mm、厚さ1mm)を1mlの人工唾液または5mlのメタノール中に21日または35日間浸漬し、溶出される成分の定性・定量を高速液体クロマトグラフィーで解析した。2.市販の常温重合型アクリルレジンで実験義歯床を作成し、5名の被検者の口腔内に装着したのち、経時的に唾液を採取し、唾液中に溶出したメチルメタクリレート(MMA)の定量をクライオフォーカス、ガスクロマトグラフィー質量分析法で定性・定量した。3.上記2.の被検者について、装着の前及び10~240分後に唾液を採取し、唾液中のMMA量を定量し、また、口腔粘膜所見を調べた。4.液材としてMMA,N,N-ジメチル-p-トルイジン0.3wt%、粉材としてMMAとメタクリル酸エチルの80:20共重合体、過酸化ベンゾイル(BPO)0.5wt%を用い、粉液比2:1とし、?通常の方法で混和填入、?脱水後蒸留した液材と減圧乾燥した粉材を用い、アルゴン雰囲気中で混和填入、?フラスコに混和レジン注入後アルゴンガス注入の3条件で、試料65×10×2.5mmを作成し寸法変化、残留モノマー量の比較を行った。5.BPO、2,2-ビス[4-(3-メタクリロキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(Bis-GMA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)の平成8年度報告書以降現在までに報告された毒性情報についてMedlineを用いて検索した。

結果と考察:
1.3種の市販のフィッシャーシーラント光重合による硬化体からのメタノール浸漬においてはトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、Bis-GMA、Bis-GMA類似誘導体の溶出が認められた。TEGDMAの7日間浸漬の総溶出量、すなわち残留量はHE、CWS、TMで,それぞれ3.156±0.170、2.804±0.085、0.221±0.05μg/mgレジンであった。また、人工唾液浸漬においても第1日目にそれぞれ2.552±0.456、1.064±0.033、0.105±0.011μg/mgレジンの溶出があった。溶出量は経日的に減少していた。Bis-GMAのメタノール浸漬における総溶出量はHE、CWSで9.805±0.297、4.581±0.067μg/mgレジンであった。人工唾液浸漬ではいずれの製品からもBis-GMA、Bis-GMA類似誘導体などの溶出を認めなかった。フィッシャ-シ-ラントにおけるBis-GMA、TEGDMAの残留量は市販製品によって異なり、人工唾液浸漬におけるTEGDMAの溶出量も製品により差があったが、Bis-GMAはいずれの製品からも溶出していなかった。またビスフェノ-ルA(BPA)はメタノ-ル、人工唾液浸漬で溶出を認めなかった。Oleaらはシ-ラントを充填後、唾液中にBPAが溶出していることを報告している。またHamidらはシ-ラント硬化体の蒸留水浸漬でTEGDMAの溶出を認めたが、BPAは検出されなかったと報告している。本研究の結果はOleaらと一致しない。今後検討が必要である。2.クライオフォーカス法、ガスクロマトグラフィー質量分析法で唾液中に溶出するMMA量を分析定量する手法の改善を試み、唾液試料量を1?に減量しても、MMA10数ppbまで定量可能な方法を開発した。本法の開発により、唾液中のMMAの実際の計測が可能となり、義歯床のリスク評価に必要な手法が得られたことになる。3.実験義歯床を装着した5名の被検者の唾液中にMMAがピーク値500~2,000ppb検出された。口腔粘膜の肉眼的観察にはいずれの被検者においても異常を認めなかった。 アクリルレジン義歯床の短期装着においてはMMA溶出は少なく、MMAに対するアレルギー歴等のない患者では粘膜への影響はないものと考えられた。4.アクリル系レジン義歯床の材料および製作法の検討においては、液材との相溶性の良好な粉材が導入され、また重合反応を抑制する水分、酸素を除去した材料をアルゴンガス雰囲気で重合する方法が開発された。本法で作成したレジン試料は従来の方法で作成した試料に比較して寸法精度が向上し、また残留モノマー量が低減し、安全性の向上が達成された。5.BPOの発癌プロモーションのメカニズムとして発生するラジカルによって核酸塩基の修飾、DNA鎖の切断、Cu-Znスーパーオキサイドデスムターゼ活性抑制が明らかにされている。BPOによるアレルギーは歯科材料シリーズによるパッチテストで第3位の陽性率であり、歯科技工士の陽性率が高い傾向にある。Bis-GMAをベースとしたシーラントも実験的にエストロジェン作用を示すことが報告されている。Bis-GMAシーラントからその合成前駆体であるBPAが溶出しており、小児へのシーラントの使用は外因性エストロジェン曝露になる可能性がある。Bis-GMAはマキシミゼーションテストで陽性反応を示し、エポキシアクリレートと交叉反応する。歯科勤務看護婦で職業性感作が報告されている。HEMAはマキシミゼーションテストで陽性反応を示す。ドイツで行われた歯科技工士を対象とした職業性皮膚疾患調査で63%にアレルギー性皮膚炎があり、HEMAをアレルゲンとする症例は33%でもっとも多い。毒性情報として歯科材料の外因性内分泌系撹乱作用と職業性アレルギーに関する情報が注目された。職業性皮膚疾患を予防するため、皮膚との直接接触をさける方法の徹底と職業性皮膚炎に関する知識を歯科医、技工士、経営者に普及させることが重要であることが示されており、わが国でも考慮すべき点である。

結論:
有機高分子材料の安全性を向上するために副作用の原因となるモノマーなどの溶出動態等について研究し次の結論を得た。1.市販フィッシャーシーラントは製品によりTEGDMA、Bis-GMAの残留量が異なる。人工唾液浸漬においてTEGDMAが溶出しているが、Bis-GMAの溶出は認められない。2.開発した唾液中のMMAを定性定量法を応用して計測した。アクリルレジン製実験義歯床装着者の唾液中のMMAはピーク値500-2,000ppbに達するが、急性の粘膜症状は認められない。3.アクリル系レジンの液材、粉材の加熱重合法を改善することにより、残留モノマー量が低減され、安全性を向上できる。4.BPO、Bis-GMA、HEMAの毒性情報の中で外因性内分泌系撹乱作用と職業性アレルギーが注目される。
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