ここには確かにあの街があったんだ。むかしむかしの話だ。

たどり着く場所なんて考えてはいなかった。歩いてきた。ゆっくりとだ。はじまりの場所は,はっきりと覚えている。

むかしのはなしだ。深夜,電話をかけるのが習慣になってしまった女の子がいた。

2020年09月19日 01時24分09秒 | ゆっくりと妄想を積み,不確かな記憶を編み込んでいくと幻の街ができあがる。


彼女は毎晩電話をかけてきた。平均で3.4時間。親に小言を言われないように,わざわざ自室に電話を引いた。携帯電話はまだ存在していない。携帯電話どころか,ポケベルがやっと数字を表示できるようになった頃だ。けれどそれを大昔だとは認めたくはない。そんな昔のことでもないと思いたいのだ。
美しく内気で,友達のいない女の子にありがちな性格で・・・もちろんこれは個人的な決めつけ,偏見に過ぎないのだけれど・・・・母親のことが嫌いだった。彼女の弁を借りれば,母親は彼女のことを大嫌いだ,恨んでいると言ってもよい,と。実際の母親は子ども思いの働きもので,父親は少々厳格すぎるほどのいい男だ。美味しい料理を出す中華飯店を夫婦で営んでおり,妹はごく普通の女の子で,後に姉よりも先に嫁に出ることになる。私はこの家族の皆と親しく,少なくとも形式的には親しくつきあっていた。父親とは数えるほどではあるけれどその店以外で飲んだこともある。


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