一般的に「自然観察会」や「山歩き」などいわゆる自然と触れ合えるイベントに募集をかけると中高年の方の参加者数が多い。
これは、中高年の方が健康で自然の中に生きがいを求めていること、仕事や子育てなど日常の忙しさから一段落したか解放されたことの表れでもあるだろう。
私も年に何回か一般向けの自然観察会をガイドしていることもあり、それはよく理解できるし、参加者である先輩方の知恵に学ぶことも多い。
だが、もし、それをあえて「親子」とか「子ども」限定にして募集してみたらどうなるか。
私は、当初、現役世代は仕事や子育てなどの時間に追われ、参加者数もごく限られたものになってしまうのではないかと考えていた。
だが、いざ実施したら違っていた。
例えば、わくわく科学工房主催の「親子自然観察教室」。
年数回行われているが、毎回定員オーバーで抽選せざるを得ない。
マイフィールドである真人山での「親子自然観察教室」は、始めてから4年目。
春と秋に行っているからすでに6回は行った。
参加者数は、年々増え始め、昨年の春には定員20名に対し、80名を超える数の応募があった。
昨年は、コロナ禍での最初の観察会だから特に自然に触れたいという願いが強かったということもあるだろうが、今年になっても今週末に行われる観察会で定員20名に対してすでに申込者が40名を超えたという。
子ども限定の自然体験でもそうだ。
例えば、この4月から毎月1回実施されている「釣りキチ三平の里子ども自然体験塾」。
これは、親御さんの理解なければ無理であるにもかかわらず、毎回定員20名に対してほぼ満杯の状態だ。
これらは何を意味するか。
それだけ親御さんたちも親子で自然の中で触れ合いたいあるいは子どもに対してもっと自然と触れ合ってほしいという願いの表れではないだろうか。
ただ、一般を対象とした「自然観察会」という看板を見ても親子や子どもだけで参加するのは敷居が高いと感じているのではないか。
逆に「親子」や「子ども」という限定条件を付けることによって、参加しやすい雰囲気が生まれるのかもしれない。
親子同士や子ども同士の交流にも期待していることだろう。
そして、何よりも参加することによって子どもによりよく育ってもらいたいと期待しているのだろう。
20日に行われた湯沢市小安の女滝沢での親子自然体験では様々なドラマが生まれた。
初めて参加したであろう親子がいた。
子どもに小学生の女の子がいた。
私の顔を見ると母親の後ろに隠れた。
母親に促され、ようやく小さな声で挨拶した。
はたして、付いてこられるかどうか不安だったが、母親の方はもっと心配だったかもしれない。
森の中を歩き始めた。
その子はやはり最後尾に付いている。
途中、森の中で元気な男の子にヤグルマソウを持たせ、走ってもらう。
ヤグルマソウがくるくる回るたびに参加者から拍手が起こる。
沢遊びでは、生き物に詳しい男の子がサワガニやサンショウウオそれにヘビトンボを見つけた。
すると他の子まで夢中になって沢遊びに興じる。
トチノキの前では、スタッフの一人が「モチモチの木」の読み聞かせをした。
親も子も一生懸命に聴いている。
途中、大きなフキの葉やホオノキの葉で遊んだりしながら歩いた。
ふと後ろを振り返ると私のすぐ後ろに先ほどの女の子がいた。
あんなにもじもじしていたのに終わり頃には、表情がきりっとしている。
本当に驚いた。
これが、自然や森が子どもに与える力なのか。
そしてそれをつないでくれたのは、私ではなく案外元気な子どもたちだったのかもしれない。
現に、子どもの参加者で最年長の6年生の男の子は、沢遊びでも小さな子たちをリードしていたし、カエルやセミなどを見つけては小さな子たちにその姿を見せてくれた。
子ども同士の交流は子どもたちをさらに元気にしてくれたに違いないのだ。
主催者である「森っこ倶楽部」は、わずか数名のお母さんたちのグループだ。
開催の相談を受けた時も募集数は「親子5組」であったが、はたしてこれだけ集まるかなあと心配されていた。
それがいざふたを開けてみると7組19名の親子数にふくれあがっていた。
主催者の一人も自宅から「モチモチの木」の絵本を持ってきて読み聞かせしてくれた。
森の中での読み聞かせによりさらに自然体験の中身は充実した。
主催者がどなたであれ、強い願いと綿密な計画があればこれほど楽しい企画が実現できるのだということを証明してくれた。
「親子体験」での子どもたちのきらきらした表情を私は、今でも忘れることはできない。きっとその日は、親子でフィールドでの話題が持ち上がり親子の会話が弾んだに違いないー私はそう確信している。
孫と一緒に参加したというおじいちゃん、おばあちゃんたちもフウフウ言いながら、常に笑顔だった。
まさに、大人も子どもも輝く一日となった。
「親子」「子ども」限定は確かに危険も伴いリスクが高い。
しかし、それ以上に自然は「親子」や「子ども」に大きなプレゼントを与えてくれるのだ。その覚悟と信念(もちろん綿密な計画や安全に配慮して)があれば、主催者側にも大きな喜びと充実感が生まれるのだ。
それは、自然というフィールドが、最高の子育ての場だからこそかもしれない。
20日の親子自然体験は、そのことをはっきり教えてくれた。