◇スミレ 雑種 研究所

スミレ類の雑種について、研究員A&Bが少しずつですが、研究報告します。よろしくお願いします。

エゾノタチツボスミレ 4 推察

2017-08-25 00:15:35 | 植物

連日の猛暑、遮光していないのに太陽光線を目いっぱい浴びているイリオモテスミレが元気です。ななぜでしょうか?

エゾノタチツボスミレが一段落ついたら、このイリオモテスミレについて報告したい・・・

久しぶりに、このブログ追加します。数年前にまとめてあった文章を見直し報告します。

<知る人ぞ知る 横走するエゾノタチツボスミレ>

 タチツボスミレとの雑種(スワタチツボスミレ)も開花期には立ち上がっていることが文献で確認できた。雑種だから地表を這うように生育しているわけではなく、エゾノタチツボスミレかスワタチツボスミレのいずれにしても疑問は解決されない。エゾノタチツボスミレは奥が深い。

地表を横走する利点やあるいはそうしなければならない要素を考えてみる。

湿度保持に有効な手段の結果。

・元来エゾノタチツボスミレは地表を横走する性質がある。

アイヌタチツボスミレ、アポイタチツボスミレ、シマジリスミレのいずれも地上茎は横方向に伸ばし開花結実している。

・外国種3種(ビオラ・ルペストリス、ビオラ・リビニアナ、ビオラ・シエヘアナ)はひとつの株に数株植えた時は隣り合う茎同志がもたれ合い、上方で開花結実して生育した。鉢に1株ずつ植え替えたら、地上茎を四方八方に伸ばす(横走する)ように生育した。

 見方を変えてみると世界のエゾノタチツボスミレの仲間の中では地上茎が立ち上がり開花するエゾノタチツボスミレはイレギュラー的な存在なのかもしれない。比較的湿度のある地に生育するエゾノタチツボスミレは日陰という受光獲得においてのマイナス面を補う為、光が得られるように立ち上がる形態変化を獲得した個体が存在したことでより適応度が上がり、地上茎が立ち上がる個体が代々存続してきたのかもしれない。たまたま採取地は、立ち上がることなく地表を横走して同種や他種の植物との競合の結果、適応度を上げることができた生育地であるのかもしれない。 

 エゾノタチツボスミレは立ち上がらず地表を横走し生長するという稀ではあるが新しい一面もある。各地での観察記録の報告が少ないだけなのかもしれない。知る人ぞ知る地表を横走するエゾノタチツボスミレなのかもしれない。

 他の生息地でのエゾノタチツボスミレも同様な個体が生息するのかわからない。

 ある種類についての疑問を解決するべく、その仲間のスミレ類に目を向けて考えることが重要。エゾノタチツボスミレの花の色が2色(白色と淡青紫色)見られることがアイヌタチツボスミレ、V.reichenbachianaは稀に白色が観察され、V.sieheanaは白色から淡青紫色への変化があり、共通の祖先のについての興味が深まった。世界のエゾノタチツボスミレの仲間について今後も調べたい。

近年、足腰が弱くなり縦走して観察することが無理になってきた。残念!

 


エゾノタチツボスミレ 3(外国種)

2017-08-23 22:12:47 | 植物

生物関係の仕事ではあるものの時間とお金が限られた中、趣味の研究範囲で行う事、限界があるなかでの報告です。 

エゾノタチツボスミレに近縁と思われる外国種について(栽培下での観察) 

古くから栽培されている園芸種を含む外国種④ビオラ・ルペストリス(旧名アレナリア・ロゼア)V. rupestris cv. ‘Rosea’  、⑤ビオラ・リビニアナV. riviniana、、 ⑥ビオラ・シエヘアナV. sieheana は国内種と同様の形態からエゾノタチツボスミレ類と考える。ビオラ・シエヘアナV. sieheana(Azerubaijan産)はビオラ・リビニアナV. riviniana の近縁種(田淵 2005)でもある。

ルペストリス ロゼア V.rupestris cv.‘Rosea’ 旧名アレナリア・ロゼア)

2011年入手した株は鮮赤紫色の花が咲く園芸種で、V.rupestris はサンドバイオレットあるいはロックバイオレットと呼ばれている淡青紫色の花である。ヨーロッパから中央アジア、シベリアに分布する(Harvey 1966)。写真9は3株をまとめて一つの鉢で育てていたが、花後は植え替えて1株で栽培したら、地上茎は直立せず横に這うように生長した(写真1)。

  ②  ③

撮影①②③:2015.05.06

花のめしべの花柱の上部に突起毛が生える(写真②)ことや、唇弁の距の裏側の溝(写真③)

 ⑥リビニアナ V.riviniana

園芸名ウッドバイオレットとして苗を入手した(2011年)。しかし、インターネットで調べると、V.rivinianaHain-Veilchenというドイツ語名があり、ドイツ語Hainは日本訳で「グローブ」のことでウッドバイオレットとは呼ばれていないことがわかった。ウッドバイオレットを調べていくとV.reichenbachianaがヒットした。更に、この種はドイツではWald-Veilchenと呼ばれている。ドイツ語「Wald」は日本語訳で「森」にあたり、「森=Woood=ウッド」、つまり「Forest-Violet=ウッドバイオレット」と連想できた。しかし、V.reichenbachianaの写真を見ると、入手したものと異なっていた。そこで、V.rivinianaV.reichenbachiana の写真を比べて、果たしてどちらが入手した株と同じであるか検討した結果、V.rivinianaに似ていることが判明した。つまり、栽培名を考えた場合、「Hain-Veilchen=グローブバイオレット」より「Forest-Violet=ウッドバイオレット」の方が売れそうである。入手した栽培種はV.rivinianaのようである。 

しかしながら、ヨーロッパのほとんどの地域や北欧、ロシア連邦の一部地域では両種の分布域が重なり、V.rivinianaV.reichenbachianaとの雑種Viola×bavaricaが生ずる(Harvey 1966)ことがあるようだ。両種の識別ポイントが詳細に掲載してある文献によると、栽培個体は葉や托葉の形、花弁の開く角度や距の色等を観察した結果、雑種Viola×bavaricaと判断できたものの、確信がなく、V.rivinianaとすることが妥当と考えた 

この栽培種は生長すると地上茎が横に這うように数方向に伸び、開花し種子を作る(写真④⑥)ことを観察できた。花のめしべの花柱の上部に突起毛が生えることや、唇弁の距の裏側の溝(写真⑤)もある。

 

  ⑤  ⑥

 

撮影④⑤:2014.03.26  ⑥:2015.05.12

 

⑦シエヘアナ V.sieheana

株(2012年)や種子(2013年)はアゼルバイジャン産である。シエヘアナは欧州東部から西アジアに分布する(Marcussen 2011)。発芽率が良く、生長すると地上茎が横に這うように数方向に伸びた(写真⑦)。蕾は白色で開花初日は白花で翌日から淡青紫色となる。次々と開花する時期には同時には2色の花が楽しめた。

 ⑧ ⑨

撮影:2015.4.21

花のめしべの花柱の上部に突起毛が生える(写真⑧)ことや、唇弁の距の裏側の溝(写真⑨)もある。

次回は国内産と外国産などの観察から、横走するエゾノタチツボスミレの推察する。 

 

引用文献

・田淵 誠也  (2005)  すみれを楽しむ. 栃の葉書房 P.71

・Harvey MJ (1966)  Cytotaxonomic relationships between the European and North American rostrate violets .  New Phytol  65:470 

・Marcussen T, Borgen L (2011) Species delimitation in the Ponto-Caucasian Viola sieheana complex, based on evidence from allozymes, morphology, ploidy levels, and crossing experiments . PL Syst Evol 291:183-196

 


エゾノタチツボスミレ 2 仲間(国内種)

2017-08-20 17:35:44 | 日記

久しぶりの記事の投稿です。再開です。すでに3つの原稿の下書きがありましたが、読み直しまずは投稿します。

◇横走する エゾノタチツボスミレ2

権威ある文献によるとエゾノタチツボスミレは A.花は紫色または白色。B.地上茎がある。D.地上匐枝はふつうでない。F.葉は円心形。佐竹 1982と、検索記述があるが、ここ「スミレ雑種研究所」の研究員らは横走するエゾノタチツボスミレを観察研究対象にしてる気になる記述としては、茎はふつう叢生し、直立するが、高地のものでは横にたおれる(橋本1978a)。どこの高地なのかの記述や形態の詳細は無く、日付も不明なのが残念である。多分、花期が過ぎて、支えきれなくて倒れることを指しているのかもしれない。エゾノタチツボスミレかスワタチツボスミレかいずれにしても、この地の横走する個体群は多くの野外観察や文献資料のどこにも記述が無いことは確かである。

開花期に横走して生長することはこの個体群(関東地方の標高1015mの落葉樹林)だけの特異な性質なのかもしれない。

また、タチツボスミレとの雑種であるスワタチツボスミレの可能性も考えられる。

時期的な形態変化も考慮しつつ、現在も継続観察して真相を探求したい。

 

◇エゾノタチツボスミレの仲間と考えられる国内種について

国内種の仲間①~③については野外観察記録・文献・栽培歴より簡単な説明、外国種となると栽培歴と少ない文献からの説明になる。(外国種は次回とする。)

エゾノタチツボスミレ類はタチツボスミレによく似ていて、タチツボスミレ節のなかの1小群で、この仲間は北半球の寒冷な地域に広く分布する(橋本、1978b)。花柱の上部に突起毛が生えることや、唇弁の距にはりあわせた跡のようなすじが入る(距の裏側の溝)ことなどで、同じグループとしてまとめられている国内種は①エゾノタチツボスミレ、②アイヌタチツボスミレ、③シマジリスミレの3種(いがり2004c)が知られている。

①エゾノタチツボスミレ V.acuminate 

比較の為、エゾノタチツボスミレをスワタチツボスミレの隣で栽培したら、この株は直立して生育した。

  

撮影日①2015.04.19

前回で記述しなかった茎と根について、地上茎は立ち上がらず3方向に分岐して横に伸びる(写真①)。地下茎は木質化して節が密生している。花期終了後に直立はしなかった。

②アイヌタチツボスミレ V. sacchalinensis

  ③

撮影日 ③2014.03.24   

数株の野外観察北海道道東2011年7月上旬)は開花期後半で地上茎は高さ25cmぐらいで直立していたのを観察した(写真は無し)。2012年にその種子を蒔いて、2013年発芽し2014年開花数日前、やや斜めに生長した(写真②)。1973年5月30日北海道天塩で撮影された開花期の白花品の写真はやや斜上している(原 1976)。地上茎無毛で、斜上またはやや倒れる(浜、2002a)。茎は直立ぎみに斜めに立ち上がる(松下2003)。写真③はアイヌタチツボ(右)とアポイタチツボ(左)

②の変種 ②´アポイタチツボスミレ V. sacchalinensis f.alpina

 

 

撮影日 ④⑤ 2015.05.15 

野外観察(北海道アポイ岳、1982年6月)では開花期で地上茎は高さ3~5cmぐらいで地上茎の伸びはみられなかった。その後、知人より入手した種子を2011年に蒔いて、2013年に発芽し2014年開花した苗である。2015年は18cmぐらい地上茎が伸長し始めた(写真④)。針金で固定栽培していたら地上茎が伸び、その先で開花した(写真⑤)。④⑤は③の成長株。

 

シマジリスミレ V. okinawensis

若い個体は開花後も地上茎が出ないが、翌年の開花後、地上茎が長さ5cmぐらい伸長、先端で開花結実する。

 花期の草丈は8~12cmになる。地上茎をはわせて、その先に新株をつくる性質があるが、地上茎をもたず、根もとからたくさんの葉をロゼット状にだしている個体も多い(いがり、2004d)。

葉は光沢があり、卵形心臓形~円状系心臓形、基部は心脚で側辺部が重なって巻き込んでいるものが多い。花色は淡紫色から白色、柱頭は円柱形で、先端は有毛。限定された2カ所に分布し、2か所とも個体数は少ない。近くに建築計画(自衛隊体育館)があり、生育環境が悪化している。沖縄県固有種。絶滅危惧ⅠA類(横田、2006)。

スミレ類の分子系統学解析が進んで、核DNAの解析では、ウラジロスミレ節のオキナワスミレは、ウラジロスミレ節のオリヅルスミレやテリハオリヅルスミレは単一のクラスターを形成せずに、タチツボスミレ節のシマジリスミレと単一のクラスターを形成した(横田、2005)。とあり、オキナワスミレは柱頭の形態などからウラジロスミレ類とされることが多く、一方でシマジリスミレはその外見も局限された生育環境からもまったくオキナワスミレそのもののように見えるが、柱頭の形態などからエゾノタチツボスミレ類とされることがある。この両者は同一分類群との結論、また、系統的位置はエゾノタチツボスミレ類に入った(植田、2005)。今後のスミレ類の系統解析が楽しみとなる。

次回には外国産のエゾノタチツボ類について述べる。

<一言、貴重な種の保存について>スミレ愛好家や野外観察中心で活動する方々の中には栽培することを不服とする方々もいることを承知で、掲載します。栽培しないとわからないことも多々あり、探求の為の採取は種子のみ・葉ざし・根ふせ等の本体への負荷を最小限にしている。今まで、それが原因で姿を消したものは無く、株全体を持ち込む(いわゆる盗掘)ことはしない。例えば、根ふせ用に根を2㎝採取した個体は翌年も翌々年も野外での生存を確認しているし、根を数cm採取した個体へのダメージよりも、著しい環境の変化の方がよりダメージを受けてきていることを数十年間の野外活動で多々確認してきた。自分の栽培技術を過信することもなく、自分の力量を承知して行っている。最近は減ったが、お目当てのスミレを楽しみにしていたのに、根こそぎなくなって嫌な思いもしたこともある。なので、経年観察している個体が無くならないように、いつも祈ってる。

 

引用文献 :

いがり まさし ( 2004d)  増補改訂日本のスミレ. 山と渓谷社 94

今井 建樹, 伊東 昭介 ( 2004)  信州のスミレ. ほおずき書籍 154 

佐竹義輔他(1982)日本の野生植物Ⅱ、平凡社 245

田淵 誠也  (2005)  すみれを楽しむ. 栃の葉書房 P.71 

原 秀雄 ( 1976)  北海道の高山植物. 創土社 P.179 

橋本 保 (1978a) 日本のスミレ 橋本保 P.152

橋本 保 (1978b)  朝日百科 世界の植物3種子植物Ⅲ. 朝日新聞社  P.749

横田昌嗣(2006) 改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物 P.118

横田昌嗣(2005) 琉球列島依存固有植物の系統地理学的解析 研究成果報告書 P.7

浜 栄助 (1975a)  原色日本のスミレ. 誠文堂新光社 69   

浜 栄助 (1975b)  原色日本のスミレ. 誠文堂新光社 81 

松下和江(2003) 根室地方スミレハンドブック ニムオロ自然研究会 34 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


エゾノタチツボスミレ1 横走する

2017-08-19 07:05:42 | 日記

地表を横走するエゾノタチツボスミレ  Viola acuminate  について

春先は明るく夏は半日陰となる関東地方の標高1015mの落葉樹林で、研究員Bが変わったタチツボスミレを見つけた(2011417日)。その株は茎生葉が心形で葉の基部が浅い心形、タチツボスミレとは違う印象で雑種の疑いがあり、継続観察(~2015年)をした。その株は前年度の枯れた地上茎の基に枯れかかった小さな心形の根生葉が1枚、心形と長三角形の茎生葉2枚とが観察された。エゾノタチツボスミレについて調べたところ、エゾノタチツボスミレは木化して硬い地下茎から、タチツボスミレよりも太い地下茎が数本直立して出る(浜 1975a)ということで、この株はエゾノタチだろうと思われた。しかし、この株の最大の特徴は開花時期に地表を横走し生長しているのでエゾノタチツボスミレならとても違和感がある。 

 ◇この株の形態の詳細について

葉:、根元近くの葉①は卵形~心形で基部は浅い心形、中間部は卵状心形や三角状卵状心形で基部は浅い心形、地上茎先端の葉②は長三角形で基部は浅い心形、葉の長さは15~30mm、幅15~20mmで基部の葉より先端の葉の方が長くなるが、大きな葉にはならない。表面の縁に白色の短毛がまばらに生えて、葉裏は葉脈に沿って白色の荒い微毛がある。上部③や下部④の托葉は線状で深裂し、短毛は見られない。①~④は同株(開花時)、⑤は別個体(未開花時)。

  ③

撮影日:①②2015/04/23 ③④2015/0419 ⑤2015/04/26

 花:えき生。蕾は白色、丸い花びら。開花時⑥⑦(同じ株)は淡紫色になる。花冠は径15~23mm。側弁の基部に白色の密毛がある。距の裏側⑧は淡黄緑色で短く、裏側中央に溝(張り合わせたようなすじ)がある。花柱の上部に突起毛がやや密生している。萼片⑨は細長く有毛。萼片の付属体は短く丸くまばらに短毛がある。⑥~⑨は①と同一個体。

    

撮影日:⑥2015/04/23 ⑦⑧⑨2015/0419

果実:さく果は鋭頭楕円形。1果あたり15個、17個結実、2果を確認できた。⑩のさく果は①と同一株。

 撮影日:⑩2015/04/27 

 

◇エゾノタチツボスミレ Viola acuminate 

 ⑪ ⑫ ⑬ ⑭

 ⑮ ⑯

 撮影日:⑪⑫⑬⑭⑮⑯ 2015/05/10 ⑪~⑭は同一個体、⑮⑯同一個体 

⑪直立して開花する。⑫花柱上部は突起毛有り。⑬距の裏は張り合わせたようなすじ有り。⑭托葉の縁に短毛が見られる。

◇タチツボスミレ Viola grypoceras

  ⑱

 撮影日:2015/04/26

 

雑種 エゾノタチツボ×タチツボ(スワタチツボスミレViola ×Akirae  Shimazuの可能性について検討する

・スワタチツボスミレの茎生葉はタチツボスミレに似た円状心臓形で、最上位のものでも心臓形をしている(浜 1975b)。

・スワタチツボスミレはエゾノタチツボスミレのように茎が立ち上がって花を咲かせる(いがり 2004a)。茎は叢生して立ち上がる(今井, 伊東 2004)。この個体は立ち上がらないで、中心から横に4方向へ茎を伸ばして生長する。

・コタチツボスミレは開花期に地表を横走する。コタチツボスミレとの交雑を考慮するに当たり、採取地にはコタチツボスミレの分布は無く、本株の葉の大きさを考慮すると交雑の可能性は無いものと考えられる。

・托葉が櫛の歯状に切れ込むのはタチツボスミレと同じだが、エゾノタチツボスミレはふちに細かい毛が生えている(いがり 2004b)。エゾノタチツボスミレは櫛型状の托葉に短毛が見られるが、この個体は線状で深裂し短毛が見られない。

・この個体は地上茎の節間は短く、タチツボスミレと同様である。

タチツボスミレとの交雑種(スワタチツボスミレ)であるとはっきり断言できないものの、全体の形状や印象も考え合わせるとエゾノタチツボスミレとは考えられない要素がある。

仮にエゾノタチやスワタチであるとしても、開花期に横走して生長することを考慮するとどちらにも当てはまらず、かといって、タチツボであるなら花冠の花柱上部の突起毛と距裏の張り合わせたようなすじがタチツボに当てはめることは断じてできない。花は生殖器官であり、種を決定するに重要な器官である。

スワタチツボスミレのさく果はほとんど不稔である(浜 1975b)。多くの雑種個体は不稔の性質をもつ中、この個体は有稔である。比較的近い種同志の交雑、あるいは雑種個体寿命が長いほど有捻になる事例(アスマスミレ、ウンゼンスミレ、ヘイリンジスミレ4倍体、サガシオスミレ、ヒラツカスミレ、スワキクバスミレ、オクタマスミレ、春らんまんスミレ等)があることも考慮し、この個体はエゾノタチツボスミレと考えるのが妥当であるといえなくもない。ただ、横走して生長するのが変わっているということである。

ということで、新たな知見による明確な回答が得られるまでは結論を先送りにし、今後の経過観察に注視したい。地上を横走する性質をもつこの株は2011年に初めてこの観察地(関東地方標高1000m以上)で発見し、2015年にこの地で別個体を発見したが、数か月後に訪れたとき見失ってしまい観察することができなかった。来年、再発見できることを祈る。

次回はエゾノタチによく似ているスミレ(国内・国外)について述べたい。6年前より、エゾノタチツボスミレに似たスミレを観察し、考えていた(最近の植田博士の知見を知り、勇気がでたので)ことを報告します。研究員Aより

参考文献: 

いがり まさし ( 2004a)  増補改訂日本のスミレ. 山と渓谷社 P.202

いがり まさし (2004b)  増補改訂日本のスミレ. 山と渓谷社 P. 91

いがり まさし( 2004c)  増補改訂日本のスミレ. 山と渓谷社 P.88

今井 建樹, 伊東 昭介 (2004)  信州のスミレ. ほおずき書籍 P.154

浜 栄助(2002a) 増補 原色日本のスミレ P.69

浜 栄助(2002b) 増補 原色日本のスミレ P.81

 

この場所のタチツボスミレは何故か匍匐性が強く,その為ここのスワタチツボスミレは,一般的に言われる立性のスワタチツボスミレとは違う形態になったのかもしれません。 

但し,今回見られたものは種を作っているので雑種ではない可能性が高いです。研究員B

 

 


オクタマスミレ④

2017-08-15 17:50:59 | 日記

◇エイザン×ヒナ・・オクタマスミレ④

前回説明し忘れた葉について一言、地域個体群による葉の形態変化もある。例えば、スミレサイシンとナガバノスミレサイシンの2種は独立種であるが、その類縁関係は近く、ナガバノスミレサイシンは多雪地帯に分布するスミレサイシンの対応種であり、スミレサイシンは分布域全体の中では葉形の地理的変異にいわゆるクライン (白石・渡辺、2002)が見られる。分布域の北部では一般に葉が大きく幅広になり、西部ではより小さく狭長となる。東北地方の太平洋側では、日本海側に比較して葉が小さくなる傾向が見られる。 

※クライン:同一種で、生育環境の違いなどで形成した異なる形質を示す集団のこと。環境傾度の違いによる形態変化の連続性。

参考文献:白石孝子・渡辺定元 2002年 本州中部山地におけるブナの葉の絶滅危惧植物 地球環境研究

◇花について、この地点で観察したことである。

エイザン

 

 ヒナ

 ④

花期:ここのヒナはエイザンより早く咲き、オクタマはその中間。

花色:この地のエイザンは大きく花弁に白色から淡紅紫色のグラデェーション、フリル有り、白色の地に濃い赤紫色の脈が目立ち、紫状は花弁半分まで色が載り下半分は白色、側弁は有毛、下弁は長くサクラの花びらのようなくびれ有り。この地のヒナは全体が淡紅色で中心へ白色のグラデェーション、下弁の紫状は半分まで紅紫色で下半分は淡紅紫色、側弁は有毛か個体によっては少ない。 

花柱上部:エイザンは突頭形、ヒナはヒカゲスミレほどではないが、中央部が高い準突頭形(花柱上部の記述は2002、浜を引用)いわゆるカマキリ頭状で、その花柱上部はエイザンは奥に、ヒナは見やすい位置に有り、ヒナの方がカマキリ状が目立つ。

がくの付属帯:エイザンは凹んでいるが、ヒナは凸状で細かなジグザグ有り。

香り:エイザンは香しい。

参考文献:2002.浜栄助、増補原色日本のスミレ 誠文堂新光社

 オクタマ

 

 ①~⑥ 撮影日:2010.4.18 撮影地:関東地方 撮影者:研究員A

この地点のオクタマの花は全体が淡紫色で中心は白色、紫状はエイザン同様はっきりしていて、半分まで紅紫色残りは白色、側弁の毛は有り、花柱上部はカマキリ状、がくの付属帯はフラットでギザギザが有り、香りは有り。

オクタマの話しだけで投稿①~④もかかってしまった!次回はキクバヒナかスワとの比較を予定。

 ◇気になる事 

 

7年前に撮影した写真はエイザンの花びらにツマグロヒョウモンの幼虫(?)がいた。最近、この観察地でエイザンが減ってきたように思っていたが、環境の変化もあるが、この昆虫の存在は脅威になりつつあるのかもしれない研究員Aより


理由とかは良くわかりませんが,なぜか交雑種は回りにある両親となりえる花が全盛期の時には咲かず,少しズレた時期に開花します。そのその辺りの謎は誰か研究して解明してもらいたい所です。研究員Bより