前回の投稿以来、色々と勉強してきたが、この“心霊”といわれる世界も実に難しい。何が真実で、何が虚偽かの判断をつけることは現実世界でも困難なことが多いが、心霊の世界ではなおさらで、「心霊などあるはずがない!」という立場に立てばすべてが虚偽になる。世間の多くの人はそのように考えているが、「科学は観察から始まる」という信条に忠実であろうとすれば世評に惑わされる訳には行かない。じっくりと観察し、仮説を立て、実験を繰り返し、証明していく。その初期の段階からなかなか抜け出せない分野なのであろうが、仮説を立てられない以上、まだ観察を続けて行くしかない。
20数年前、米国精神科医のブライアン・ワイス氏の『前世療法』という本を読んでビックリした。本の背表紙に翻訳者の連絡先がのっていたので、電話をした記憶がある。「本当のことか?」と聞きたくて二言三言交わしたが、バカなことを聞いたものだと今では思う。これ以来、日本でも“催眠と前世療法”のブームが到来したが、当時は映画の『タイタニック』が流行っていた。催眠下で「自分はタイタニック号に乗っていた」と発言するクライアントが多いとある本に書かれており、さすがにこれは映画の影響と考えるのが妥当であった。私が現在の日本の催眠療法家の第一人者と考えている大谷彰氏は、「催眠下では、抑圧と空想の入り混じった精神分析でいうところの一次思考過程が表出される。長続きしない偽記憶も生産され、事実確認が必要で、米国の法廷では発言内容は採用されない」とある学術雑誌で述べている。まさにその通りで、“前世”での出来事などという発想はまったく出て来ない。
ではワイス氏の『前世療法』(原著“Many Lives, Many Masters”は1988年発刊、日本語訳は1991年)を観察していこう。氏は、1944年生まれ。コロンビア大学で化学を学び、エール大学医学部に進学。子供の死を契機に精神科医となり、大学・病院などで部長・教授などの要職につき、専門分野でも多くの論文を発表していて、伝統的な科学的思考が頭を占めていた人物である。この段階だけでも私よりははるかにまっとうな精神科医であり、発言も信用できると思うが、1982年頃に同じ病院で働く20代の検査技師キャサリンの治療を始めてから人生の方向が大きく変わっていった。1年を越す標準的な精神科治療では彼女の神経症(強迫観念、恐怖症)は改善せず。博士が数百例の実施経験を持つ催眠療法を施すことになった。“過去に体験した人生”を思わせるような、年代や名前、出来事や周囲の状況などを詳しく、しかも多くを語っていった。催眠を受けるごとにキャサリンは改善していき、語る内容も繰り返しが多くなってきたため、1984年頃には治療を終了している。色々と面白い“過去世”や数人の“マスター”からの訓示も出てくるが、特に興味を引いたのは第5章にある「ロバート・ジェロッド(Jarrod)があなたの助けを必要としている」とキャサリンがワイス氏に言った下りである。
さて、『Discovering the Soul(「魂の発見」くらいの訳?)』を紹介したい。ロバート・ジャーモン(Jarmon)著、1997年発刊。副題は「ある精神科医と彼の患者の驚くべき発見」。氏は長年内科医として働き、精神科実習を受けてニュージャージ-で開業し、1987年から精神科治療に特化した。おもに退行催眠を使い、肥満や喫煙などの現在の問題を解決してきた。義母の死の際の不思議な現象、死んだ夫が訪ねてきたと訴える患者、1300度はあろうかという燃える石炭の上を裸足で歩く儀式への参加などを通して、徐々に神秘的なものに対して心が開かれていった。1986年、婦人科的な訴えのあるアンナという30代の看護師に催眠療法を施行したところ、19歳のエリザベスのことを語り始めた。10回ほどの人生を語って改善していったが、蝶で飾られる「癒しの寺院」で働いていたとも話す。この頃ジャーモン氏はワイス氏の『前世療法』を読んでいた。両氏の父親には共通点が多く、義母二人も同じ病気で亡くなっていた。また育ったところも5マイル離れているだけであり、本には「ロバート・ジェロッドが助けを求めている」とも書かれていた。このため早速ワイス氏に電話をして会うことになった。患者のアンナは催眠下で「ワイス博士は年上の上級治療者。ジャーモン医師と一緒に働いている。神殿には柱があり、裏には庭園があり、長い白いローブを着ていた」と語り、ワイス氏が思い出した自身の“過去世”と共通点が多かった。
以降もジャーモン氏は、ワイス氏と連絡を取りながら催眠療法を使って多くの患者を治療していき、様々な神秘現象を体験して行ったが、最後に“憑依とその治療”についての氏の意見を紹介したい。
30代のクリスという男性。不安、自己不信、夫婦不和の改善のための受診であったが、「邪悪なものが頭を支配する」という訴えもあった。教会で聞いたことのある悪の勢力と関係があるかも知れないため、司祭に相談するようジャーモン氏は伝えた。
数日後の催眠セッション中、態度が急に変わり、「彼は私のものだ!」「私は離れない!」などと怒ったように話す。憑依の除霊で博士論文を書いた友人の臨床心理士のアドバイスを思い出し、「神の光が届きますように」「光の中に行きなさい」と諭すも「私は去らない!」と返答。催眠状態から徐々に現実に引き戻したが、患者は心の中のものを追い出したいと考えていた。
祭司の立ち合いは拒否されたが、後日、看護師の協力を得て拘束具を準備し、催眠誘導は上記心理士が行った。クリスは奇妙な声で「私はグレゴリー。私は幸せ、ここに残る」という。光の中に戻ることを伝えるも怒り出す。聖水を顔にかけ、十字を切り、神の愛を伝えると、激しい衝突のあと急に静まり返り、「それは去った」とクリスは語った。4時間かけて憑いていると思われる残りの6人も去るよう説得した。その後1年間はクリスは穏やかであり、3年後はフラストレーションはあるものの怒り出すことはなかった。多重人格の恐れはあるものの、時間がかかることなどから勧めれる治療法ではなく、ジャーモン氏の肩についている天使も「ほっておけ、他に餌はある」と言っているらしい。
バチカンでは今でもエクソシストが活動していると聞く。聖書には憑依と除霊の話がよく出てきており、キリスト教の世界では医療と宗教が各々の役割をもって共存しているのであろうが、本邦ではどうなのか?宗教がない分、すべてが医療に押し込まれている可能性があり、もしあるとすれば前世よりは憑依の方が重要なのかも知れない。
20数年前、米国精神科医のブライアン・ワイス氏の『前世療法』という本を読んでビックリした。本の背表紙に翻訳者の連絡先がのっていたので、電話をした記憶がある。「本当のことか?」と聞きたくて二言三言交わしたが、バカなことを聞いたものだと今では思う。これ以来、日本でも“催眠と前世療法”のブームが到来したが、当時は映画の『タイタニック』が流行っていた。催眠下で「自分はタイタニック号に乗っていた」と発言するクライアントが多いとある本に書かれており、さすがにこれは映画の影響と考えるのが妥当であった。私が現在の日本の催眠療法家の第一人者と考えている大谷彰氏は、「催眠下では、抑圧と空想の入り混じった精神分析でいうところの一次思考過程が表出される。長続きしない偽記憶も生産され、事実確認が必要で、米国の法廷では発言内容は採用されない」とある学術雑誌で述べている。まさにその通りで、“前世”での出来事などという発想はまったく出て来ない。
ではワイス氏の『前世療法』(原著“Many Lives, Many Masters”は1988年発刊、日本語訳は1991年)を観察していこう。氏は、1944年生まれ。コロンビア大学で化学を学び、エール大学医学部に進学。子供の死を契機に精神科医となり、大学・病院などで部長・教授などの要職につき、専門分野でも多くの論文を発表していて、伝統的な科学的思考が頭を占めていた人物である。この段階だけでも私よりははるかにまっとうな精神科医であり、発言も信用できると思うが、1982年頃に同じ病院で働く20代の検査技師キャサリンの治療を始めてから人生の方向が大きく変わっていった。1年を越す標準的な精神科治療では彼女の神経症(強迫観念、恐怖症)は改善せず。博士が数百例の実施経験を持つ催眠療法を施すことになった。“過去に体験した人生”を思わせるような、年代や名前、出来事や周囲の状況などを詳しく、しかも多くを語っていった。催眠を受けるごとにキャサリンは改善していき、語る内容も繰り返しが多くなってきたため、1984年頃には治療を終了している。色々と面白い“過去世”や数人の“マスター”からの訓示も出てくるが、特に興味を引いたのは第5章にある「ロバート・ジェロッド(Jarrod)があなたの助けを必要としている」とキャサリンがワイス氏に言った下りである。
さて、『Discovering the Soul(「魂の発見」くらいの訳?)』を紹介したい。ロバート・ジャーモン(Jarmon)著、1997年発刊。副題は「ある精神科医と彼の患者の驚くべき発見」。氏は長年内科医として働き、精神科実習を受けてニュージャージ-で開業し、1987年から精神科治療に特化した。おもに退行催眠を使い、肥満や喫煙などの現在の問題を解決してきた。義母の死の際の不思議な現象、死んだ夫が訪ねてきたと訴える患者、1300度はあろうかという燃える石炭の上を裸足で歩く儀式への参加などを通して、徐々に神秘的なものに対して心が開かれていった。1986年、婦人科的な訴えのあるアンナという30代の看護師に催眠療法を施行したところ、19歳のエリザベスのことを語り始めた。10回ほどの人生を語って改善していったが、蝶で飾られる「癒しの寺院」で働いていたとも話す。この頃ジャーモン氏はワイス氏の『前世療法』を読んでいた。両氏の父親には共通点が多く、義母二人も同じ病気で亡くなっていた。また育ったところも5マイル離れているだけであり、本には「ロバート・ジェロッドが助けを求めている」とも書かれていた。このため早速ワイス氏に電話をして会うことになった。患者のアンナは催眠下で「ワイス博士は年上の上級治療者。ジャーモン医師と一緒に働いている。神殿には柱があり、裏には庭園があり、長い白いローブを着ていた」と語り、ワイス氏が思い出した自身の“過去世”と共通点が多かった。
以降もジャーモン氏は、ワイス氏と連絡を取りながら催眠療法を使って多くの患者を治療していき、様々な神秘現象を体験して行ったが、最後に“憑依とその治療”についての氏の意見を紹介したい。
30代のクリスという男性。不安、自己不信、夫婦不和の改善のための受診であったが、「邪悪なものが頭を支配する」という訴えもあった。教会で聞いたことのある悪の勢力と関係があるかも知れないため、司祭に相談するようジャーモン氏は伝えた。
数日後の催眠セッション中、態度が急に変わり、「彼は私のものだ!」「私は離れない!」などと怒ったように話す。憑依の除霊で博士論文を書いた友人の臨床心理士のアドバイスを思い出し、「神の光が届きますように」「光の中に行きなさい」と諭すも「私は去らない!」と返答。催眠状態から徐々に現実に引き戻したが、患者は心の中のものを追い出したいと考えていた。
祭司の立ち合いは拒否されたが、後日、看護師の協力を得て拘束具を準備し、催眠誘導は上記心理士が行った。クリスは奇妙な声で「私はグレゴリー。私は幸せ、ここに残る」という。光の中に戻ることを伝えるも怒り出す。聖水を顔にかけ、十字を切り、神の愛を伝えると、激しい衝突のあと急に静まり返り、「それは去った」とクリスは語った。4時間かけて憑いていると思われる残りの6人も去るよう説得した。その後1年間はクリスは穏やかであり、3年後はフラストレーションはあるものの怒り出すことはなかった。多重人格の恐れはあるものの、時間がかかることなどから勧めれる治療法ではなく、ジャーモン氏の肩についている天使も「ほっておけ、他に餌はある」と言っているらしい。
バチカンでは今でもエクソシストが活動していると聞く。聖書には憑依と除霊の話がよく出てきており、キリスト教の世界では医療と宗教が各々の役割をもって共存しているのであろうが、本邦ではどうなのか?宗教がない分、すべてが医療に押し込まれている可能性があり、もしあるとすれば前世よりは憑依の方が重要なのかも知れない。