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アジア失速という悲しい現実

2012-07-25 16:24:42 | 騙マスメディア

アジア失速という悲しい現実

日本企業、成長戦略見直しも

2012年7月25日(水) 阿部 貴浩

 「中国市場の動向は、本当に読めない」と日立建機の幹部はため息を付いた。中国の油圧ショベル市場で高いシェアを持つ同社だが、2011年春に販売台数が前年同期を下回ってから、実に1年以上にわたって不振が続いている。世界の建機市場をけん引してきた国だけに影響は深刻だ。

 原因は中国の金融引き締めにある。沿岸部を中心とした不動産の急激な値上がりなど、物価の上昇を抑制しようと、中国の金融当局は昨年から幾度も金融引き締めを繰り返してきた。消費者物価指数は徐々に低下し、一定の成果を挙げたが、副作用として資金が目詰まりを起こしたわけだ。

 マンション建設のような民間工事から道路など社会インフラまで、経済発展が続く中国では様々な建設計画があるが、金融引き締めで資金確保が難しくなった。工事が始まらないのだから、当然ながら建設機械の需要も減少することになる。

 金融引き締めのもう一つの副作用として、肝心の経済成長自体の鈍化を挙げることができる。7月13日、中国の国家統計局が発表した4~6月期のGDP(国内総生産)は、前年同期に比べ7.6%のプラス。低成長の日本からすれば羨ましいほどの成長率ではあるが、四半期のGDP成長率が中国で8%を下回るのは、ほぼ3年ぶりの事態になる。

 このままでは、長期的な政策の見直しを余儀なくされると見て、中国の金融当局は金融引き締めの方針を転換し、今では利下げなど金融緩和に舵を切っている。しかし、その成果はまだ見えていない。国内消費の伸びが鈍化しているうえ、債務危機が続く欧州向けの輸出が減っていることもマイナス要因だ。

景気減速、幅広い産業に波及

 コベルコ建機で中国市場を統括する瀧口和光・専務執行役員は「金融緩和の影響が、工事の現場まで届くのに時間がかかるのだろう」と見ている。建設計画が認可されても、資金不足で着工できない現場は、今も多く残っているという。

中国の建機販売は依然として苦戦している

 「金融機関の貸し出し姿勢は厳しく、今でもなかなか工事資金を確保できていない」(瀧口氏)のが実態だ。コマツの野路國夫社長は「中国で建機の需要が回復するのは早くても2013年になりそう」と慎重だ。

 建機需要は景気の先行指標と言われる。建機の販売が増えるということは、公共工事や民間工事が活発に進んでいることを意味するからだ。中国で建機の需要が急減してから既に1年以上が経過しており、この法則に従って、中国経済の成長は鈍化した。

 最近は建機以外の業界にも、じわりと影響が広がっている。

 例えば工作機械。中国向け受注額は6月に、前年同月比で2ケタの落ち込みになった。自動車も、6月の新車販売台数こそ前年同期比で10%近い伸びになっているが、1~6月の累計で見ると3%弱の伸びにとどまる。

 経済成長の鈍化を警戒して買い控えが起きていると見たか、消費刺激策として燃費の良い小型車に対し補助金制度の導入を打ち出すなど、中国政府はてこ入れに躍起だ。それでも東芝テックの鈴木護社長は「事務機の販売が前年同期を下回るようになった。一時的なものなのか、しばらく注意する必要がある」と言う。

上がるハードル

 2012年3月期、日本企業は東日本大震災やタイの洪水で深刻なダメージを受けた。円高も収益を圧迫し、上場企業の業績は3年ぶりに減益を余儀なくされた。その反動もあり、2013年3月期は22%の経常増益(金融除く)を見込んでいる。

 自動車各社は円高という悪条件は変わらないが、満足に生産できなかった前期のうっ憤を晴らすように、「かつてない大増産をかける」(ホンダ)と意気込む。

 ソニー、パナソニック、シャープの家電3社は薄型テレビの販売不振で前期に軒並み巨額の最終赤字を計上した。このうちソニーとパナソニックは今期に黒字転換を計画している。テレビ事業の苦戦は変わらないが、販売機種の絞り込みなど固定費圧縮を進め、白物家電などほかの製品でテレビの赤字を補う計画だ。

 こうした経営戦略の大前提となるのがアジア市場の成長になる。トヨタ自動車は今期、アジア地区の新車販売台数を178万台と、前期比34%の増加を見込む。所在地別の営業利益では前期にアジアが北米を抜いて稼ぎ頭となっている。今期は北米で増産を進めると同時に、アジアでさらに利益を増やし、全体として1兆円の営業利益を稼ぎ出す計画だ。

 前期の6倍近い2600億円の営業利益を目指すパナソニックは、中国とアジア地域で11%の増収(現地通貨ベース)を計画する。エアコンや冷蔵庫といった白物家電の販売をアジアで拡大していく方針。北米や日本の増収率は前期比微増と見ており、業績回復のけん引役と位置づけるのは、明らかにアジアだ。

 市場の成長スピードと合わせて業績を伸ばすのは、さほど難しくない。しかし、市場のスピードが鈍化する中で、それを上回る速度で成長しようとすると、途端にハードルが上がる。

 競合他社から顧客を奪うだけの競争力が必要になるからだ。実際に中国の建機市場で需要が縮小すると、地場メーカーとの競合が激化するようになった。ある建機メーカーの幹部は「地場メーカーとの際限ない価格競争には、とても付き合っていられない」とこぼす。

インドネシアも先行き不透明

 成長のスピードが減速しているのは、中国だけではない。インドも成長率の鈍化が鮮明になっている。

 8%程度のGDP成長を続けてきたインドだが、今年1~3月は5%台にまで低下した。インフレ抑制のために金融引き締めをして、内需が落ち込むという構図は中国と同じだ。

 東南アジアで高い成長を続けていたインドネシアにも、にわかに暗雲が垂れ込めている。2億4000万人の人口を抱え、資源も豊富なインドネシアは、日本企業にとって大きな収益源となっている国だ。

日本車はインドネシアで高いシェアを握る

 自動車で市場シェアトップなのはトヨタ、2輪車はホンダになる。4輪車、2輪車とも市場の大半を日本勢が押さえている稀有な国だ。薄型テレビなど家電製品は韓国勢が強いが、日本勢も経営資源を集中投下して市場拡大に躍起になっている。建機各社にとっても資源開発が進むインドネシアは、大切な市場だ。

 しかし、今年になって様々な規制が導入されて、雲行きがおかしくなった。ニッケルなど鉱物資源の輸出に20%の関税をかけ始めたほか、自動車や2輪車を購入する際のローンに一定の頭金を義務付けるようになった。この影響でホンダは2輪車の販売計画を下方修正した模様だ。

 コベルコ建機の幹部は「現時点で、まだ販売に悪い影響は出ていない」としながらも、「先行きが不透明になってきた。慎重に販売動向を見ていく必要がある」と話す。建機の販売が減少するようになれば、いずれ中国のようにインドネシアの経済成長に急ブレーキがかかる事態になりかねない。

 経済のグローバル化によって、世界のどこかで来した経済の変調が、日本にとっても対岸の火事ではなくなってきた。欧州の債務危機は欧州地域での売り上げ減少という直接的な影響だけでなく、アジア経済の成長鈍化という間接的な形で、じわじわとダメージを与えつつある。

 様々な試練を乗り越え、今年こそ成長路線へ回帰しようとしている日本企業だが、今度はアジア経済の失速という厳しく、そして悲しい現実に直面することになった。これを克服して成長力を取り戻せるのか、企業にとって大きな課題になりそうだ。

著者プロフィール

阿部 貴浩(あべ・たかひろ)

日経ビジネス記者。日本経済新聞で中堅・ベンチャー企業部や証券部、名古屋編集部などを転々とし、2011年春から日経ビジネス編集部の片隅に席を見つける。製造業とのかかわりが長く、自動車や機械、造船など「物づくり企業」を幅広く担当。メーカーのおじ様方と飲みに繰り出しては経済実態とかけ離れた円高に憤り、震災復旧の苦労話に涙ぐむ。いつの間にやら会社近くの「六本木・麻布」より「神田・新橋」を好むようになった。



このコラムについて

記者の眼

日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。

 


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