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キトラ古墳

2016-10-16 13:57:49 | 日記
現存する世界最古の本格的な星図的とされる奈良県明日香村のキトラ古墳(特別史跡、7世紀末~8世紀初め)の天文図。奈良文化財研究所(奈文研)の調査で、その描き方が明らかになりつつある。星座の形や位置は、狭い石室の天井に原図をなぞりながら転写していた可能性の高いことが確認された。ところが、一部の星座には下書き線が描き直された痕跡もみつかった。飛鳥時代の絵師は、なぜ下絵を描き直さなければならなかったのか。
 天文図は石室内の天井石に塗られた漆喰(しっくい)の上に、中心を同じくした大きな三つの円と、北西にずれた円の計四つの円が描かれた。その円の中に350個以上の金箔(きんぱく)を貼り付け、その金箔を朱線でつなぎ、74個以上の星座を表現した。
現存する世界最古の本格的な星図 奈文研は2014年から、天文図について詳細な調査を実施。若杉智宏研究員が、再現実験などを通じて描き方の復元を試みた。①大きな四つの円をコンパスの原理で描く②和紙の裏に木炭やベンガラなどを塗った、カーボン紙のような「念紙(ねんし)」を使って、原図と一緒に漆喰の上からなぞりながら星座を下書きする③下書き線と原図を参考に金箔を貼る④金箔を結ぶ朱線を描き、星座を仕上げる。
 飛鳥時代には和紙は貴重で、仏教の経典や法律などの重要文書を書き写す場合がほとんどだった。天文図を描いた際にも原図の裏に直接色料を塗って転写する方法のほか、原図の下に念紙を重ね、上からなぞった方法もあったとみられる。
 一方、一部の星座では下書きが朱線より一回り小さく描かれたり、朱線とは異なる位置にあったりするなど、描き直したとみられる痕跡がみつかった。絵師は原図をなぞって星座を転写したのに、あえて下書きを描き直したのはなぜか。
 この謎について、若杉さんは天文図の描かれた作業環境に注目する。天文図は高さ1・2メートル、幅1メートルの狭い石室の天井に描かれていた。金箔の多くは直径約6ミリ、星と星を結ぶ朱線の長さは約4センチ~1ミリにすぎない。「絵師は常に上を向いた状態で細かい作業を続けた。星座の大きさは5センチ以内と小さく、絵師がミスした可能性もあるのでは」
 ログイン前の続き宮島一彦・元同志社大教授(東アジア天文学史)は、中国の本格的な星図に描かれた星の数が約1400個、星座の数は約280個に上ることを指摘。大量の星を小さな石室の天井に描けば、小さな星座がひしめきあうことにもなる。「星の数を減らし、そのすき間を埋めるように、星座を大きく修正し、見栄えをよくしたのでは」
 一方、来村(きたむら)多加史・阪南大教授(考古学)は「天文図は複数の絵師が描いたとみられるが、若手の下書きを見た現場監督が感性を重視し、大きく書き換えさせたのでは」とみる。(渡義人)
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 〈キトラ古墳〉 奈良県明日香村にある石室内に極彩色壁画が描かれた古墳。1983年と98年、2001年の調査で、方角の守護神「四神(しじん)」(青竜〈せいりゅう〉・白虎〈びゃっこ〉・玄武〈げんぶ〉・朱雀〈すざく〉)や獣頭人身の「十二支像」、「天文図」の壁画がみつかった。著しい劣化のため、すべての壁画が石室からはぎ取られ、村内の仮設施設で修理されてきた。朝日新聞デジタル版より

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