ここに【言ほき】をまをさく
「恐(かしこ)し。命(みこと)のまにまに易(か)へ奉(まつ)らむ」とまをしき
また其の神のりたまはく
「明日(あす)の旦(あした)、浜にいでますべし。易名(かへな)の【幣(いやしろ)】献(たてまつ)らむ」
とのりたまひき
故、其の旦(あした)、浜にいでませる時、鼻やぶれたる入鹿魚(いるか)既に一浦によれり。ここに御子、神に白さしめて云りたまはく「我に御食(みけ)の魚を給へり」とのりたまひき
故、また其の御名を称へて
【御食津大神(みけつおほかみ)】と号(なづ)けき故、今に【気比大神(けひのおほかみ)】といふ
また其の入鹿魚の鼻の血臭かりき。故、其の浦を号けて血浦といひしを、今は都奴賀(つぬが)といふ
★言ほき
言葉で祝福する
★幣(いやしろ)
※謝意を表すしるしの贈物
★御食津大神
この神を祀る海人部らが海産物を朝廷に貢上したことが背景にあって、朝廷側からつけられた名
★気比大神
け→食
ひ→霊
■神託を受けて建内宿禰は、その神を祝福して「恐れ多いことです。ご神託のとおりに御子の名を変えましょう」と申し上げた
するとその神は「明日の朝、浜にいらっしゃい。名を変えたしるしの贈物を差し上げよう」といわれた
翌朝、皇太子が浜にお出ましになると、鼻の傷ついたイルカが浦いっぱいに集まっていた
御子は神に申し上げた
「大神は私に食料の魚を下されたのですね」
それゆえ、その大神の名前をほめ称えて御食津大神(みけつおおかみ)と名づけた。そして今では気比大神と呼んでいる
また、浜に打ち上げられたイルカの鼻の血が臭かった。それゆえ、その浦を名づけて血浦といったが、今は角鹿(つぬが)と呼んでいる