立秋が過ぎて、朝の風が涼しく感じる。
家族を駅まで送って来た。
◆日本経済新聞より
金メダル最多27個 日本勢の「戴冠」記事まとめ読み
Tokyoオリパラ
2021年8月9日 5:00
8日に閉幕した東京五輪で、日本は1964年東京、2004年アテネの両五輪を上回る史上最多の金メダル27個を獲得しました。優勝を決めた試合での日本選手・チームの戦いぶり、頂点に至るまでのドラマなどを描いた「戴冠」記事をまとめました。
第2日
高藤「金」、リオの無念晴らす 忍耐覚えて飛躍
柔道男子60キロ級決勝で相手を攻める高藤直寿㊧
捲土(けんど)重来の思いが、日本武道館で結実した。「みんなに支えてもらって、この結果がある」。笑顔は正座で一礼して畳を降りるまで。二人三脚で歩んできたコーチ、練習パートナーと抱き合うと、あとは涙があふれ出た。
第3日
阿部一、強くずぶとく戴冠
金メダルを決め報道陣に向かって"1番"と指を立てる阿部一二三
控室で妹の優勝を見て「闘志しかなかった」とスイッチが入った。先に技ありを奪ったマルグベラシビリとの決勝は、無難にやり過ごせば金メダルが転がり込んでくる状況。だが阿部一は残りの2分を一本を取りにいくことに費やした。
包囲網かいくぐった阿部詩
金メダルを手に笑顔を見せる阿部詩
一本を告げるブザーが鳴ると、消耗戦で紅潮した顔をさらに赤くした。くしゃくしゃの泣き顔の裏には徹底マークから解放された安堵感もあったのだろう。強者だけが持つ苦悩を乗り越えた先に金メダルがあった。
スケボー堀米雄斗、新時代の飛翔 大技で圧倒し初代王者
男子ストリート決勝で最後のトリックを成功させ雄たけびを上げる堀米雄斗
格好良さやオリジナリティーが重視されるスケートボードで、この日の堀米は間違いなく1番の喝采を受けていた。世界のトップスケーターが自らの技を持ち込み、披露し合う舞台。その初代王者の栄誉に浴すと、関係者と抱き合い、ライバルと健闘をたたえ合った。
大橋、初舞台で悠々「金」 戦略的中、圧巻のスパート
女子400メートル個人メドレーで金メダルを獲得し、ガッツポーズする大橋悠依
ずっとこの瞬間を待ちわびていたのかもしれない。仲間たちが前日の予選で次々敗れ、急きょ一身に集中したスポットライトを気持ちよさそうに浴びて、大橋は生き生きと泳いだ。「正直信じられない。すごく楽しいレースができた」。プールから上がると、夢からさめたように顔をくしゃくしゃにした。
第4日
卓球悲願の金 水谷・伊藤、ミス恐れぬ勇気で牙城崩す
混合ダブルスで中国ペアを破って金メダルを獲得し、喜ぶ伊藤美誠㊧と水谷隼
長く全日本選手権が開催されてきた「聖地」東京体育館で日本卓球界の悲願が成就した。水谷・伊藤組が2019年世界選手権覇者の中国ペアに逆転勝ち。1988年ソウル五輪で卓球が採用されて以降、全種目を通じて初の金メダルを日本にもたらした2人は笑顔で抱き合い喜びを爆発させた。
13歳の五輪初代女王、西矢「スケボーは楽しい」
女子ストリート決勝の演技後、喜ぶ西矢椛=共同
歓喜の涙が乾くのはあっという間だった。「うれしいです」「やっぱりうれしいです」。初代五輪女王となった喜び、日本史上最年少の金メダリストとなった感慨を語る西矢は素っ気なく、笑顔はどこかぎこちない。そこには13歳の年相応のはにかみに加えて、勝利至上主義と一線を画すスケートボーダーの思いが垣間見える。
柔道・大野、必然の連覇 信条体現「歴史作った」
男子73キロ級決勝でジョージア選手と対戦する大野将平=ロイター
シャフダトゥアシビリを渾身(こんしん)の足技で転がした時、試合時間は9分半を経過しようとしていた。普段表情を変えぬ大野が珍しく、かっと歯を食いしばるような、鬼気迫る表情を一瞬見せる。「苦しくて、つらい日々を凝縮したような、そんな一日の戦いでした」。真の強者との濃密な戦いは、最後の壁にふさわしかった。
第5日
ソフト、13年分の思い結実 北京に続き米破り連覇
決勝で力投する上野由岐子
歓喜の瞬間は笑顔だった上野が宇津木監督と抱き合って泣いていた。監督も涙が止まらない。「プレッシャーに押しつぶされちゃうんじゃないかという監督の姿を見てきた。恩返しができて本当によかった」。師弟関係の2人が過ごしてきた日々が胸に去来し、万感の思いがあふれ出た。
粘りの永瀬、真骨頂 延長戦を4度制し頂点へ
男子81キロ級決勝の延長で技ありを奪い、優勝した永瀬貴規㊦=共同
延長1分43秒、足車で元世界王者のモラエイ(モンゴル)を転がして、我慢、また我慢のタフネス勝負に決着をつけた。銅メダルに終わった2016年リオデジャネイロ五輪の雪辱を果たし、「僕の長所は気持ちで折れずに攻め抜く姿勢。それが生かせた」と胸を張った。
第6日
19歳橋本、エースの証明 体操個人総合で日本3連覇
男子個人総合で優勝した橋本大輝=ロイター
舞台が大きくなればなるほど、重圧が強ければ強いほどまばゆい輝きを放つのは、紛れもなくスターの資質だろう。団体総合決勝に続いて、ここぞの場面で最高の演技を披露する橋本の胆力には恐れ入る。体操男子で史上最年少となる19歳の個人総合王者は「人生で一番うれしい瞬間は言葉では表せない」と喜びをかみ締めた。
周到な準備、戦略通りの会心レース 競泳・大橋が2冠
女子200メートル個人メドレーで優勝、舌を出して喜ぶ大橋悠依
勝負師としてのしたたかさが詰め込まれた、隙一つない盤石の泳ぎだった。ラスト3メートルで隣のウォルシュ(米国)を差し、タッチ差の争いを制した大橋は、水中から顔を出すと舌をぺろり。「2冠は頭に少しあった。楽しんでレースができた」と堂々語る姿は、すっかり女王のたたずまいだ。
16分の死闘制して頂点へ 柔道・新井、気迫みなぎる金
女子70キロ級で金メダルを獲得した新井千鶴
大願が成就すると、世界大会で勝っても負けても涙しがちな新井の顔から、笑みがこぼれた。一時は嫌気が差した柔道を、心底楽しそうにやっていた。
第7日
ウルフ、死闘制して金 「泥臭い柔道」を貫く
金メダルが決まり、喜ぶウルフ・アロン
渾身(こんしん)の大内刈りで趙グハムについに引導を渡した。死闘を制し、日本代表監督の井上康生が勝って以来、遠のいていた100キロ級の覇権を奪回。大きなガッツポーズの後、男泣きに泣いた。
柔道・浜田、真骨頂の寝技さえる 一芸極めて金メダル
金メダルが決まり、笑顔を見せる浜田尚里㊨
世界1位のマロンガをも開始1分9秒で仕留めた決勝は、試合はこれからか、と錯覚するほど涼しい顔で勝ち名乗りを聞いた。4試合、要した時間はわずか7分42秒。当代きっての「寝技師」が新旧世界王者をなで斬りにし、頂点に駆け上がった。
第8日
フェンシング4剣士、悲願の金 強国に臆せず疾風の攻め
金メダルを獲得し、笑顔の(左から)加納虹輝、見延和靖、宇山賢、山田優の日本チーム
決闘がルーツのエペは世界の猛者が集まり、団体は強国がそろう。やるか、やられるか。「キング・オブ・フェンシング」を懸けた険しい道のりを、日本は見事に頂上まで駆け上がった。
攻めた素根、柔道最重量級制す 磨いた組み手で圧倒
女子78キロ超級決勝でキューバのオルティスと攻めあう素根輝㊧
決勝は五輪で金銀銅のメダルをそろえる実力者オルティスを攻め続け、最後は圧に屈した元女王がたまらずしゃがみ込んだ。掛け逃げの指導で勝負あり。座右の銘の「3倍努力」を原動力に21歳は頂点をつかみ、涙で顔をくしゃくしゃにした。
第12日
「成長感じた」橋本、鉄棒でも驚異の安定感で金メダル
鉄棒の演技をする橋本大輝
「勝つ自信しかない」とまで言い切っていた種目別鉄棒の演技。確かにこの決勝でも実力は抜きんでていた橋本だが、その力を出し切ることは容易ではない。「彼の持っている強さは本物だな」。水鳥寿思・日本代表監督が感嘆する通り、何食わぬ顔で演じきり、にこやかにガッツポーズを繰り返すところに底知れぬ強さが表れていた。
ボクシング入江聖奈「金」、初出場で一気に歴史の扉開く
女子フェザー級決勝でフィリピン選手を破り、喜ぶ入江聖奈
「ブルー(青)コーナー……」。勝者のコールを聞いた瞬間、入江は飛び上がって喜んだのもつかの間、すぐ泣き顔になった。日本女子ボクシングの歴史的先陣を切って立った五輪のリング。負け知らずで一気に頂点まで駆け上がった。
第13日
レスリング・川井友香子が金の大輪 姉に並んだ努力の虫
金メダルを獲得し、喜ぶ川井友香子
8年前、東京五輪が決まったころには、マットに上がることすら遠い夢と思っていたレスラーが、大輪の花を咲かせた。
スケボーパーク、真夏のさくら満開 四十住が初代女王に
決勝の演技をする四十住さくら
この日に合わせ、明るさまで計算して染めたという「さくら」色の髪をたなびかせ、四十住は自由気ままに滑った。「(桜が)咲きましたね。まだ夢で滑ってるような感じ」。僅差の戦いを終えたばかりにもかかわらず屈託なく笑う姿からは、勝負を二の次に楽しんでいる様子が伝わってくる。
第14日
レスリング川井梨、円熟の五輪連覇 隙見せず勝負に徹す
レスリング女子57キロ級で金メダルを獲得した川井梨紗子
62キロ級を制した妹、友香子の戦いをみて「あんな試合を見せられたらやるしかない」と川井梨は腹をくくった。欧州王者のクラチキナとの決勝も、隙一つ見せなかった。
第15日
空手・喜友名 信念の拳、金メダルに届く
優勝した喜友名諒の演武=共同
まるで金剛力士像のようないでたち。ひとにらみで敵を追いやるような鋭い眼光を放ち、力強い拳で静寂を切り裂く。決勝の喜友名の演武は、日本武道館の空間全てを支配しているかのようだった。
レスリング向田、逆転の金メダル 残り15秒の〝決勝点〟
婚約者の志土地翔大コーチ㊨と金メダル獲得を喜ぶ向田真優
ポイントは4-4、ラスト15秒。追いついた側の向田はルール上、このままでも優勝だったが、そんな勝ち方を潔しとしなかった。「最後は自分の攻めで上回ろう」。低空タックルを返されそうになりながら場外に押し出し、勝利を決定づける勝ち越しの1点。「逆転負けの女」という不名誉な異名を過去のものにした。
第16日
信頼と結束の侍ジャパン 球界の歴史に刻む初の「金」
米国を破って金メダルを獲得し、喜ぶ日本ナイン=共同
正式競技として初の金メダルを懸けて野球の母国と争う。日本にとって最高の舞台が整った。一段と緊張感が高まる決勝。悲願の頂点に導いたのは、日本が誇る投手陣だった。
本能のタックル 乙黒拓、いらだち抑え逆転V
勝って喜ぶ乙黒拓斗
猫にも例えられる動物的なレスリングが、土壇場でさく裂した。前半終了間際に2-2に追いつかれ、このままいけばアリエフに金メダルを譲ることになる。後半残り1分のタックルから約30秒続いた攻防でバックを取り逃し、万事休すの気配が漂った。
わずか1分36秒で金 レスリング須崎、最強の証明
金メダルを獲得した須崎優衣
世界中のアスリートが覇を競う五輪の舞台だが、須崎にとっては大リーガーが草野球に出場するようなものかもしれない。決勝の相手、孫亜楠も敵ではなかった。開始1分すぎ、片足タックルでやすやすとバックに回ってまず2点。足に組みつくと「自信をもってかけにいった」というアンクルホールドで、相手の体を4度回して1分36秒でケリをつけた。
家族を駅まで送って来た。
◆日本経済新聞より
金メダル最多27個 日本勢の「戴冠」記事まとめ読み
Tokyoオリパラ
2021年8月9日 5:00
8日に閉幕した東京五輪で、日本は1964年東京、2004年アテネの両五輪を上回る史上最多の金メダル27個を獲得しました。優勝を決めた試合での日本選手・チームの戦いぶり、頂点に至るまでのドラマなどを描いた「戴冠」記事をまとめました。
第2日
高藤「金」、リオの無念晴らす 忍耐覚えて飛躍
柔道男子60キロ級決勝で相手を攻める高藤直寿㊧
捲土(けんど)重来の思いが、日本武道館で結実した。「みんなに支えてもらって、この結果がある」。笑顔は正座で一礼して畳を降りるまで。二人三脚で歩んできたコーチ、練習パートナーと抱き合うと、あとは涙があふれ出た。
第3日
阿部一、強くずぶとく戴冠
金メダルを決め報道陣に向かって"1番"と指を立てる阿部一二三
控室で妹の優勝を見て「闘志しかなかった」とスイッチが入った。先に技ありを奪ったマルグベラシビリとの決勝は、無難にやり過ごせば金メダルが転がり込んでくる状況。だが阿部一は残りの2分を一本を取りにいくことに費やした。
包囲網かいくぐった阿部詩
金メダルを手に笑顔を見せる阿部詩
一本を告げるブザーが鳴ると、消耗戦で紅潮した顔をさらに赤くした。くしゃくしゃの泣き顔の裏には徹底マークから解放された安堵感もあったのだろう。強者だけが持つ苦悩を乗り越えた先に金メダルがあった。
スケボー堀米雄斗、新時代の飛翔 大技で圧倒し初代王者
男子ストリート決勝で最後のトリックを成功させ雄たけびを上げる堀米雄斗
格好良さやオリジナリティーが重視されるスケートボードで、この日の堀米は間違いなく1番の喝采を受けていた。世界のトップスケーターが自らの技を持ち込み、披露し合う舞台。その初代王者の栄誉に浴すと、関係者と抱き合い、ライバルと健闘をたたえ合った。
大橋、初舞台で悠々「金」 戦略的中、圧巻のスパート
女子400メートル個人メドレーで金メダルを獲得し、ガッツポーズする大橋悠依
ずっとこの瞬間を待ちわびていたのかもしれない。仲間たちが前日の予選で次々敗れ、急きょ一身に集中したスポットライトを気持ちよさそうに浴びて、大橋は生き生きと泳いだ。「正直信じられない。すごく楽しいレースができた」。プールから上がると、夢からさめたように顔をくしゃくしゃにした。
第4日
卓球悲願の金 水谷・伊藤、ミス恐れぬ勇気で牙城崩す
混合ダブルスで中国ペアを破って金メダルを獲得し、喜ぶ伊藤美誠㊧と水谷隼
長く全日本選手権が開催されてきた「聖地」東京体育館で日本卓球界の悲願が成就した。水谷・伊藤組が2019年世界選手権覇者の中国ペアに逆転勝ち。1988年ソウル五輪で卓球が採用されて以降、全種目を通じて初の金メダルを日本にもたらした2人は笑顔で抱き合い喜びを爆発させた。
13歳の五輪初代女王、西矢「スケボーは楽しい」
女子ストリート決勝の演技後、喜ぶ西矢椛=共同
歓喜の涙が乾くのはあっという間だった。「うれしいです」「やっぱりうれしいです」。初代五輪女王となった喜び、日本史上最年少の金メダリストとなった感慨を語る西矢は素っ気なく、笑顔はどこかぎこちない。そこには13歳の年相応のはにかみに加えて、勝利至上主義と一線を画すスケートボーダーの思いが垣間見える。
柔道・大野、必然の連覇 信条体現「歴史作った」
男子73キロ級決勝でジョージア選手と対戦する大野将平=ロイター
シャフダトゥアシビリを渾身(こんしん)の足技で転がした時、試合時間は9分半を経過しようとしていた。普段表情を変えぬ大野が珍しく、かっと歯を食いしばるような、鬼気迫る表情を一瞬見せる。「苦しくて、つらい日々を凝縮したような、そんな一日の戦いでした」。真の強者との濃密な戦いは、最後の壁にふさわしかった。
第5日
ソフト、13年分の思い結実 北京に続き米破り連覇
決勝で力投する上野由岐子
歓喜の瞬間は笑顔だった上野が宇津木監督と抱き合って泣いていた。監督も涙が止まらない。「プレッシャーに押しつぶされちゃうんじゃないかという監督の姿を見てきた。恩返しができて本当によかった」。師弟関係の2人が過ごしてきた日々が胸に去来し、万感の思いがあふれ出た。
粘りの永瀬、真骨頂 延長戦を4度制し頂点へ
男子81キロ級決勝の延長で技ありを奪い、優勝した永瀬貴規㊦=共同
延長1分43秒、足車で元世界王者のモラエイ(モンゴル)を転がして、我慢、また我慢のタフネス勝負に決着をつけた。銅メダルに終わった2016年リオデジャネイロ五輪の雪辱を果たし、「僕の長所は気持ちで折れずに攻め抜く姿勢。それが生かせた」と胸を張った。
第6日
19歳橋本、エースの証明 体操個人総合で日本3連覇
男子個人総合で優勝した橋本大輝=ロイター
舞台が大きくなればなるほど、重圧が強ければ強いほどまばゆい輝きを放つのは、紛れもなくスターの資質だろう。団体総合決勝に続いて、ここぞの場面で最高の演技を披露する橋本の胆力には恐れ入る。体操男子で史上最年少となる19歳の個人総合王者は「人生で一番うれしい瞬間は言葉では表せない」と喜びをかみ締めた。
周到な準備、戦略通りの会心レース 競泳・大橋が2冠
女子200メートル個人メドレーで優勝、舌を出して喜ぶ大橋悠依
勝負師としてのしたたかさが詰め込まれた、隙一つない盤石の泳ぎだった。ラスト3メートルで隣のウォルシュ(米国)を差し、タッチ差の争いを制した大橋は、水中から顔を出すと舌をぺろり。「2冠は頭に少しあった。楽しんでレースができた」と堂々語る姿は、すっかり女王のたたずまいだ。
16分の死闘制して頂点へ 柔道・新井、気迫みなぎる金
女子70キロ級で金メダルを獲得した新井千鶴
大願が成就すると、世界大会で勝っても負けても涙しがちな新井の顔から、笑みがこぼれた。一時は嫌気が差した柔道を、心底楽しそうにやっていた。
第7日
ウルフ、死闘制して金 「泥臭い柔道」を貫く
金メダルが決まり、喜ぶウルフ・アロン
渾身(こんしん)の大内刈りで趙グハムについに引導を渡した。死闘を制し、日本代表監督の井上康生が勝って以来、遠のいていた100キロ級の覇権を奪回。大きなガッツポーズの後、男泣きに泣いた。
柔道・浜田、真骨頂の寝技さえる 一芸極めて金メダル
金メダルが決まり、笑顔を見せる浜田尚里㊨
世界1位のマロンガをも開始1分9秒で仕留めた決勝は、試合はこれからか、と錯覚するほど涼しい顔で勝ち名乗りを聞いた。4試合、要した時間はわずか7分42秒。当代きっての「寝技師」が新旧世界王者をなで斬りにし、頂点に駆け上がった。
第8日
フェンシング4剣士、悲願の金 強国に臆せず疾風の攻め
金メダルを獲得し、笑顔の(左から)加納虹輝、見延和靖、宇山賢、山田優の日本チーム
決闘がルーツのエペは世界の猛者が集まり、団体は強国がそろう。やるか、やられるか。「キング・オブ・フェンシング」を懸けた険しい道のりを、日本は見事に頂上まで駆け上がった。
攻めた素根、柔道最重量級制す 磨いた組み手で圧倒
女子78キロ超級決勝でキューバのオルティスと攻めあう素根輝㊧
決勝は五輪で金銀銅のメダルをそろえる実力者オルティスを攻め続け、最後は圧に屈した元女王がたまらずしゃがみ込んだ。掛け逃げの指導で勝負あり。座右の銘の「3倍努力」を原動力に21歳は頂点をつかみ、涙で顔をくしゃくしゃにした。
第12日
「成長感じた」橋本、鉄棒でも驚異の安定感で金メダル
鉄棒の演技をする橋本大輝
「勝つ自信しかない」とまで言い切っていた種目別鉄棒の演技。確かにこの決勝でも実力は抜きんでていた橋本だが、その力を出し切ることは容易ではない。「彼の持っている強さは本物だな」。水鳥寿思・日本代表監督が感嘆する通り、何食わぬ顔で演じきり、にこやかにガッツポーズを繰り返すところに底知れぬ強さが表れていた。
ボクシング入江聖奈「金」、初出場で一気に歴史の扉開く
女子フェザー級決勝でフィリピン選手を破り、喜ぶ入江聖奈
「ブルー(青)コーナー……」。勝者のコールを聞いた瞬間、入江は飛び上がって喜んだのもつかの間、すぐ泣き顔になった。日本女子ボクシングの歴史的先陣を切って立った五輪のリング。負け知らずで一気に頂点まで駆け上がった。
第13日
レスリング・川井友香子が金の大輪 姉に並んだ努力の虫
金メダルを獲得し、喜ぶ川井友香子
8年前、東京五輪が決まったころには、マットに上がることすら遠い夢と思っていたレスラーが、大輪の花を咲かせた。
スケボーパーク、真夏のさくら満開 四十住が初代女王に
決勝の演技をする四十住さくら
この日に合わせ、明るさまで計算して染めたという「さくら」色の髪をたなびかせ、四十住は自由気ままに滑った。「(桜が)咲きましたね。まだ夢で滑ってるような感じ」。僅差の戦いを終えたばかりにもかかわらず屈託なく笑う姿からは、勝負を二の次に楽しんでいる様子が伝わってくる。
第14日
レスリング川井梨、円熟の五輪連覇 隙見せず勝負に徹す
レスリング女子57キロ級で金メダルを獲得した川井梨紗子
62キロ級を制した妹、友香子の戦いをみて「あんな試合を見せられたらやるしかない」と川井梨は腹をくくった。欧州王者のクラチキナとの決勝も、隙一つ見せなかった。
第15日
空手・喜友名 信念の拳、金メダルに届く
優勝した喜友名諒の演武=共同
まるで金剛力士像のようないでたち。ひとにらみで敵を追いやるような鋭い眼光を放ち、力強い拳で静寂を切り裂く。決勝の喜友名の演武は、日本武道館の空間全てを支配しているかのようだった。
レスリング向田、逆転の金メダル 残り15秒の〝決勝点〟
婚約者の志土地翔大コーチ㊨と金メダル獲得を喜ぶ向田真優
ポイントは4-4、ラスト15秒。追いついた側の向田はルール上、このままでも優勝だったが、そんな勝ち方を潔しとしなかった。「最後は自分の攻めで上回ろう」。低空タックルを返されそうになりながら場外に押し出し、勝利を決定づける勝ち越しの1点。「逆転負けの女」という不名誉な異名を過去のものにした。
第16日
信頼と結束の侍ジャパン 球界の歴史に刻む初の「金」
米国を破って金メダルを獲得し、喜ぶ日本ナイン=共同
正式競技として初の金メダルを懸けて野球の母国と争う。日本にとって最高の舞台が整った。一段と緊張感が高まる決勝。悲願の頂点に導いたのは、日本が誇る投手陣だった。
本能のタックル 乙黒拓、いらだち抑え逆転V
勝って喜ぶ乙黒拓斗
猫にも例えられる動物的なレスリングが、土壇場でさく裂した。前半終了間際に2-2に追いつかれ、このままいけばアリエフに金メダルを譲ることになる。後半残り1分のタックルから約30秒続いた攻防でバックを取り逃し、万事休すの気配が漂った。
わずか1分36秒で金 レスリング須崎、最強の証明
金メダルを獲得した須崎優衣
世界中のアスリートが覇を競う五輪の舞台だが、須崎にとっては大リーガーが草野球に出場するようなものかもしれない。決勝の相手、孫亜楠も敵ではなかった。開始1分すぎ、片足タックルでやすやすとバックに回ってまず2点。足に組みつくと「自信をもってかけにいった」というアンクルホールドで、相手の体を4度回して1分36秒でケリをつけた。