斉東野人の斉東野語 「コトノハとりっく」

野蛮人(=斉東野人)による珍論奇説(=斉東野語)。コトノハ(言葉)に潜(ひそ)むトリックを覗(のぞ)いてみました。

断想片々(19) 【ていねいな説明】

2020年11月01日 | 言葉
 残念ながら日本の新しい首相は期待されたほど有能な人物ではないようだ。30日の参院代表質問では学術会議の任命拒否問題を問われて「総合的、俯瞰的に」「推薦通りに任命しなければならないわけではない」ばかりを繰り返す。顔も上げず役人の書いた答弁原稿を読むだけなら、小学生にも首相が務まるだろう。機転を利かせた丁々発止の論戦など、この先も期待できそうにない。
 自民党の世耕弘成参院幹事長は「淡々と答える菅首相らしい答弁だった」と評価したらしい(31日付読売新聞朝刊)。苦笑させられる解説だ。単調な言葉の繰り返しでは、力を入れたくとも入れようがあるまい。結果、メリハリに欠けて「淡々と」読み上げるだけ、になってしまう。

 人文・社会科学系候補の狙い撃ち。旧帝大系「偏り」の誤認。「国税10億円投入」を根拠とする無見識ぶり。「推薦により首相が任命する」の我田引水的な解釈--。国民の疑問の声は山ほどあるが、声が届かないのか、それとも知らぬふりか。任命拒否理由を国民が受け入れるはずはないと承知だから、ダンマリを決め込むよりテはないのか。

 ある自民党幹部は「任命拒否の理由を明かせないのは、過去の犯罪・違法行為歴や、破廉恥な行い、学問研究上の問題行為など、公開すると本人の不利益になる場合があるからだ」と説明していた。しかし、これほど失礼な言い方もない。コトバを裏返せば「任命拒否した6人には、違法行為や破廉恥行為があった」と、暗に言っていることになる。

 日本経済新聞が10月23-25日に実施した世論調査では、70パーセントの国民が菅首相の説明を「不十分だ」と答えている。菅首相があくまで「国民の声を代表して任命を拒否した」というポーズを続け、一方でなお70パーセントもの国民の「説明は不十分」の声を無視するなら、ご都合主義の極みと言うべきだろう。官房長官時代の口癖だった「丁寧(ていねい)な説明を」が、首相になった途端に聞かれなくなった。政府への信頼は薄れるばかりだ。

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