河北新報より転載
「命絶ち 声なき抗議」 福島・20代男性、過重労働の果てに…
過労死や過労自殺の抑止を国の責務と定めた過労死等防止対策推進法が、先の通常国会で成立した。福島県の20代男性は成立を前に2012年秋、東日本大震災からの復興需要で増大した仕事に追われ、上司からは度重なる〓責(しっせき)を受け職場で自ら命を絶った。「法律で歯止めをかけざるを得ない世の中が悲しい」と遺族は胸の内を明かす。
男性の車が自宅に大切に保管されている。息子の愛車を見詰め、父親が口を開く。「昔から車好き。責任感が強く、シャイな性格の子だった」
男性の会社は、重機の販売や修理を手掛けていた。こぢんまりとした職場で男性は最も若く、修理依頼への対応を1人で担当した。震災後、復旧復興事業に伴い重機の需要が高まり、12年夏以降は1カ月当たりの残業が100時間を超えた。
秋のある日、両親は会社を通じて男性の死を知らされた。眠るような穏やかな表情の亡きがらだった。遺書はなかった。
母親は悔やむ。「『会社を辞めたいなら辞めればいい』と言ってあげればよかった」。男性は亡くなる数カ月前から「仕事に行きたくない」と漏らし、あれほど好きだった車関連のDVDや雑誌に目を向けなくなった。
<会社の責任問う>
「息子にとっては命懸けの抗議だった。真相を明らかにし、会社の責任を問いたい」。13年夏、両親は労災申請に踏み切る。
男性の同僚らが両親の心情をくみ、勤務実態をつまびらかにした。労基署の調べに、他の従業員の前で上司が男性を「ばか」「死ね」と責めていたことなどを証言した。
ことしに入り、労基署は労災認定を出した。男性が長時間労働を強いられ、さらに上司からパワーハラスメントを受けていたと判断した。
両親は会社側から「上司の厳しい指導はあったが、忙しくてこうなったのではないか」と説明された。これまでに上司の謝罪はないという。
<防止法「一歩に」>
若い世代を取り巻く状況は深刻だ。内閣府の14年版自殺対策白書によると、15~39歳の各年代で死因の1位を自殺が占める。20代は死因の5割以上が自殺となっている。
両親の労災申請に携わった仙台弁護士会の弁護士は「男性は若く、上司に異議を唱えられなかった。同僚らは、男性を守りきれなかった後悔から実態解明に協力したのではないか」と指摘。
「過労死防止法の成立は、過労死や過労自死のない社会を実現するための一歩。国を挙げた具体的な取り組みが欠かせない」と訴える。
[過労死等防止対策推進法]過労死や過労自殺の防止を理念に掲げた初の法律。過労死などを「業務の過重な負荷による脳・心臓疾患を原因とする死亡や、強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺」などと定義。国が取るべき主な対策として(1)過労死などの実態調査、研究(2)国民への啓発(3)産業医の研修など相談体制整備-を挙げる。長時間労働などに対する規制や罰則は定めていないが、自治体や事業主に対策に協力する努力義務を課した。
(注)〓は口へんに匕
2014年07月16日水曜日