記事の紹介です。
欧州、難民増加危機でも非情な現実
2015/4/21 14:00年明けにパリで仏週刊紙シャルリエブドがテロリストの襲撃を受けて12人が亡くなったとき、同情し抗議する200万人以上の人々がフランスの街頭に繰り出し、デモを行った。これと同様の大衆による感情のほとばしりが、週末に地中海を渡ろうとして溺死した数百人の移住志望の難民に対して起こることは考えにくい。
エーゲ海で遭難した難民の救出に当たる人々(20日、ロードス島付近)=APしかしながら、惨事の規模の大きさや、その数の裏側にある人々の物語を目にし、欧州の政治家はこれまで無視したがってきた問題に対してようやく重い腰を上げるかもしれない。欧州連合(EU)の外相らは20日にブリュッセルでこの問題について協議し、イタリアによるEU首脳会議の緊急開催の要求を受け入れた。だが依然として、(対策を)実行に移すのは困難かもしれない。というのも、欧州が直面する3つの選択肢に魅力がなく、政治家はその問題を引き受けたがらないからだ。
監視強化に及び腰
このような悲劇は許されず、防がなければならないというのが人間として自然な反応だ。よって、1つ目の選択肢は監視を強化し、より多くの移民を救助することだ。EUからの圧力を受け、イタリアは海難救助作戦の縮小を決断した。その結果、公海での死者数は増加している。今後、救助の規模を元に戻すよう圧力がかかることは明らかだが、今でさえ、EUがその決定を行うとは私には思えない。
カトリック教会やその他の場所で行われた人道問題に関する議論は、弱者を保護することは欧州の道徳上の義務であり、豊かな大陸であれば地中海を渡ろうとする人数ぐらいは容易に吸収できるというものだった。例えば、昨年はEUの総人口5億人に対し、難民21万9000人が地中海を渡ることに成功した。
これまでEU首脳は、監視強化が、進んで海を渡るリスクを冒す難民を増やすことにつながると危惧していた。また、不法か合法かを問わず、移民(の増加)により反移民のポピュリスト(大衆迎合)政党が欧州全域で力を増すことも分かっている。
だがこれは欧州に限った反応ではない。オーストラリアではアボット首相が海を渡って同国に侵入しようとする不法移民の「船を阻止する」と公約している。ここ1週間では南アフリカでもアフリカのあらゆる地域から来た数百万人の不法移民の一部が襲撃されて死亡し、厳しく非難されている。また、オバマ政権も含め米国の歴代政権はメキシコとの国境警備の強化を公約してきた。
より寛容な政策を行っている国々もある。ヨルダン、レバノン、トルコはシリア内戦から逃れた数十万人もの難民を受け入れてきた。ただ、そのうちのほんのわずかしか欧州に入ることは許されていない。
■「公平な分担」が不明
2つ目の選択肢は欧州内での負担の共有だ。特に必死でやって来るシリア移民の流入に関して、各国の受け入れに対する反応は異なる。ドイツとスウェーデンは何千人も受け入れているが、英国は数百人の受け入れにとどまっている。
今後はより大きな負担の共有と、EUの全28カ国の間での難民受け入れに関する公平な分担が求められるだろう。ただし、これに関する合意についてさえも定かではない。政治家が分担にあたり将来的な難民数を把握していないため、「公平な分担」への合意とは最終的に何をすることなのかが分からないのだ。
3番目の選択肢は、リビアに重点的に取り組むことだ。北大西洋条約機構(NATO)の後ろ盾でカダフィ政権が崩壊した後、統治体制が崩れたことで、同国には人身売買の完璧な拠点が形成された。イタリア政府はリビアへの軍事介入もあり得ると話したことがあるが、そこにはおそらく港湾を管理し、人身売買の経路を断つ狙いがある。しかし、最近の欧米による中東への介入により、各国はこの選択肢を考慮することを極度に渋っている。リビアは人身売買のみならず残忍なイスラム過激派の温床にもなっている。もし情勢の安定化のためにリビアに欧米の軍隊を送り込んだら、すぐさま殺害されるか人質に取られてしまうだろう。
リビアは単にこの問題の終点でしかないという認識もある。地中海を渡る難民の多くは、エリトリアやナイジェリア、スーダン、南アジアのほか、戦時下のシリアやイエメンなどのさらに遠くの国々から来ている。リビアからのルートを断つことは当面は効果的だろう。ただそれは結局のところ、その問題を他の場所に移すだけなのかもしれない。
By Gideon Rachman
(2015年4月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO85937570R20C15A4000000/
記事の紹介終わりです。
■ Site Information ■
■ 2009年7月9日
「我が郷は足日木の垂水のほとり」 はじめました。
本稿はその保管用記事です。
■ 2010年3月2日
人気blogランキング(政治)にエントリーしました。
人気プログランキングに戻るには、ここ を クリック して下さい。