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沖縄の海兵隊はなぜ必要か? 軍事的側面の検討

1996年12月08日 06時06分28秒 | 保管記事


 

  記事の紹介です。

 

96.12.8

 

沖縄の海兵隊はなぜ必要か? 軍事的側面の検討

山口 昇


[沖縄の海兵隊を巡る論争]
沖縄の米軍基地を巡る最近の議論、なかんづく95年9月の不幸な少女暴行事件を契 機とする論争の中で、沖縄の米軍や米軍基地を存続させるべきか否かという点について 数多くの論点が提起されてきた。ことに海兵隊については、日米双方の専門家の多くが、 様々な理由をあげて速やかに撤退すべし、あるいは少なくとも大幅に兵力を削減すべし との議論を展開してきた。政治的側面に着目すれば、日米両国の安全保障関係を長期的 かつ安定的なものとするためには、米軍の駐留により沖縄県民が被っている負担を軽減 し、中央政府と沖縄との間に存在する緊張を緩和することは避けて通れないとのコンセ ンサスがあるように見受けられる。軍事的側面に関しても、沖縄の海兵隊の役割や必要 性について種々の指摘がなされているが、その論点を総括するとおおむね以下のような ものとなろう。
1) 冷戦終了後、北東アジアにおいて大規模な戦力を維持する必要はない。

2) 以下の理由から、近い将来における地域危機、例えば朝鮮半島有事のような事態に 際して、沖縄の海兵隊はあまり有効ではない。

長期間陸上戦闘を行うには、あまりに小規模かつ軽装備であること
使用できる水陸両用戦艦艇が限定されており、師団級の部隊が存在することに 意味がないこと
強襲上陸は受け入れ難い多くの犠牲を伴うものであり、現代戦における重要性 が減少したこと
比較的小規模の強襲上陸を必要とする状況が生起する蓋然性が低いこと
3) 中長期的な視点からは、朝鮮半島の統一は必至であり、朝鮮有事対処という在沖縄 海兵隊の主要な任務は意味を失う。
4) 沖縄海兵隊が果たす役割は、ハワイ、オーストラリア、米本土といった他地域に駐 留する部隊及び米軍施設区域へのアクセス(利用権)確保によって代替できる。

5) 米国による地域安定のためのプレゼンス及び危機対処能力は、本地域に駐留する海 空軍部隊によって達成可能であり、陸上戦力の駐留はもはや必要でない。

以下、沖縄の戦略的重要性を概観した後、上述の論点に関する軍事的側面からの私論 を提示することとしたい。

[沖縄の戦略的重要性]
日米関係の歴史の中で、沖縄は常に戦略的重要性という文脈の中で扱われてきた。1 853年、ペリー提督が日本に来訪した際、その主要な目的は、米国にとっての中国へ の足がかりとなる中継点を確立することにあった。歴史的な東京(当時の江戸)湾への 航海に先立ち、ペリーの艦隊は、石炭と水の補給点を確保するために沖縄に寄港した。 これは、日本本土に対する航海の最終的な準備という面もあったが、仮に日本が開国を 拒否した場合に、米国の商船のための代替港を確保することを狙いとしたものであった。
第二次世界大戦間、沖縄の戦略的意義は、日米両軍にとって関心の的であった。帝国 海軍は当初沖縄及び南西諸島を艦隊の南方作戦のための前進基地とみなしていた。後に、 米国の潜水艦が日本にとって最も重要であった南西航路に対する決定的な脅威を及ぼす ようになってからは、琉球列島に所在する海軍航空基地は対潜水艦戦のために重要な意 義を有することになった。一方米軍にとっては、沖縄は来るべき日本本土侵攻のための 最後の飛び石としての地位を有していた。また、日本本土から沖縄までの距離は、約3 50マイル、当時戦略爆撃機のための基地であったマリアナ諸島に比べて、約1/4で あったため、対日戦略爆撃の効果を著しく強化するという意味もあった。実際、沖縄陥 落から終戦までの数ヶ月間、米陸軍航空隊は、6000ソーティ以上の爆撃機を沖縄か ら発進させ、九州爆撃に任じさせた。

第二次大戦終了後、冷戦が顕著になってきた時期、日本列島から沖縄を経てフィリピ ンにいたる一連の島嶼線は、ソ連及び共産中国に対峙する西側の前線の一部となった。 1956年の下院軍事委員会に対する報告書は、特に海空軍の観点から、大戦後のアジ ア・太平洋地域における沖縄の戦略的価値を指摘している。この報告によれば、沖縄は、 黄海及び日本海を扼し、極東基地からの出口を封じ込める上で海軍作戦上最適の位置に あるとされている。空軍の観点からは、沖縄は、中国大陸から約500マイル、東京及 びマニラ約825マイルという北西太平洋の主要都市への近接性という特性を有してお り、米戦略空軍の守備範囲を拡大する前進基地として意義がある。朝鮮戦争及びベトナ ム戦争においては、沖縄の米軍基地は、後方支援及び航空作戦のための基盤として、ま た戦場への展開に先立つ地上部隊の作戦準備地域としての重要な役割を担っていた。 1969年に、1972年中の沖縄返還が発表された際、ニクソン大統領と佐藤首相 による共同声明の中で、特に「韓国の安全は日本自身の安全にとって緊要(essential) である」旨言及された。  この条項は、台湾条項の「日本の安全にとって極めて重要な 要素(most important factor)」であるとの表現に比較して強調度が高いことから、朝 鮮半島有事に際しての米軍の沖縄へのアクセスとその使用を確実にするために言及され たものと受け止められている。

これまで述べてきた沖縄の戦略的重要性は、見通し得る将来においても意味があると 思われる。朝鮮半島における不測事態発生に際しては、在沖縄米軍及びその基地は、事 態収拾のため再び必要になるっだろうし、これがまたそのような事態を抑止するための 要因でもある。シーレーン防護という視点、とりわけ、湾岸地域及び東南アジアに通じ る日本の生命線を確保するという意味において、沖縄の重要性は、1945年以前の帝 国海軍の戦略家が考えたのと同じである。また、今日、沖縄を含め、日本各地に駐留す る米軍は、西太平洋からインド洋を経て中東に至る地域を安定化させるとともに、これ らの地域における危機に対処するための米国の努力の中で極めて重要な役割を有してい る。

[地域安全保障のための米海兵隊の能力]
米海兵隊の任務は「前方の海軍基地を確保または防衛するため、あるいは海軍作戦の 遂行に不可欠な地上作戦を実施するため、艦隊とともに行動する部隊に対し、支援航空 部隊とともに諸兵科連合の艦隊海兵隊を提供すること」にある。  海兵隊は通常、特定 の作戦上の要求に合致するよう柔軟に編成される。このように編成された部隊は、海兵 空地任務部隊(Marine Air Ground Task Force: MAGTF)と呼ばれ、小規模なものとして は、増強された大隊規模の海兵遠征部隊(Marine Expeditionary Unit: MEU)から、大部 隊としては、1ないし数個の海兵師団及び海兵航空団からなる海兵遠征軍(Marine Expeditionary Force: MEF)までの様々な部隊がある。それぞれのMAGTFは、司令部、 地上戦闘部隊、航空戦闘部隊及び後方支援部隊から構成され、部隊規模に応じ、限定さ れた期間、独立した作戦を遂行することができる。
このように、任務に応じて編成され、自己完結性を保持し、迅速に展開し得る海兵隊 は、短期間の水陸両用襲撃作戦から大規模な強襲上陸にいたる様々な作戦を遂行する能 力を有している。これにより、MAGTFは、①公海上における継続的なプレゼンスの 維持、②人道援助活動及び災害救援活動、③固有の後方支援を活用した沿岸部における 陸上戦闘、④海岸堡の確保による後続部隊受け入れ、⑤爆破、隠密偵察、人質救出、航 空機及び乗員の救出といった特殊任務、及び⑥その他の作戦を遂行することができる。 MAGTFの特性上、特に重要な点は、その指揮統制能力である。前述したように、 MEF(海兵遠征軍)は、固有の航空戦力及び兵站支援能力により、数個師団を伴う大 規模な作戦を主催することができる。また、MEFは、統合作戦すなわち陸海空軍及び 海兵隊の4軍種の戦力を総合して発揮する作戦を遂行する能力を有している。危機に際 しては、このような統合作戦を指揮統制できるMEF司令部が空路、作戦地域に展開し、 後続部隊を受け入れつつ、これに引き続く戦闘あるいは非戦闘行動に向けた準備を開始 する。湾岸戦争当時、陸軍の1個機甲旅団がIMEF司令部の隷下に置かれ、2個の海 兵師団とともに作戦したのは、統合作戦の一例である。このような能力は、例えば19 92年のバングラデシュにおける人道援助活動といった平時任務においても発揮されて きた。バングラデシュをおそった台風の直後、スタックポール少将が率いるIIIMEF司 令部が沖縄から作戦地域に空路展開し、バングラデシュ政府及び他国の援助部隊との調 整を進めつつ、約8000名の海兵隊員及び陸海空軍兵士からなる後続部隊を受け入れ、 そしてこれらの統合任務部隊(Joint Task Force: JTF)の行動を指揮統制した。 IIIMEFは、沖縄、岩国及びハワイに所在する1.5個歩兵連隊及びその他の隷下部 隊から構成されている。IIIMEFは、3個歩兵連隊を基幹とする他のMEFよりも小規 模ではあるが、その指揮統制能力は、航空部隊及び後方支援部隊を含む、数個師団規模 の作戦を統制する完全なものである。例えば、朝鮮半島有事の場合、IIIMEFは、司令 部が戦場の近傍に所在しているということもあって、危機の当初から上陸作戦や一般の 地上作戦を独立的に遂行する上で極めて重要な役割を果たし得る。このような初期対応 能力は、後続するMEFや陸軍の軍団のような大部隊の増援を受け入れる上でも重要な 役割を果たすものである。

前方展開部隊及び後続部隊による迅速な対応のためには、戦略輸送力と装備・補給品 の事前集積が不可欠である。この点、海兵隊は、13隻の事前集積船を3個の事前集積 (Maritime Prepositioning Force:MPF)船団に編成し、地中海、太平洋及びインド洋に 配置している。それぞれのMPF船団は、17300名の規模の海兵部隊のための装備 及び30日分の補給品を搭載して遊弋することにより、MAGTFが危機に対応するた めの時間を数週間から数日にまで短縮するという重要な役割を果たしている。これに対 応する人員と特定の装備品は、約250ソーティの輸送機により空輸される。現在3個 の船団のうち一つはグアムを母港とし、沖縄に駐留するIIIMEFの支援を主要任務とし ている。MPFが適切に配置されていることを前提とすれば、朝鮮半島有事の場合には、 沖縄から韓国に向けての250回の空輸(片道の行程約1時間半)により、火砲、戦車、 戦闘工兵、ヘリコプター及び固定翼航空機を保有する、増強歩兵連隊基幹の戦闘部隊を 展開させることができる。しかもこの部隊は、30日分の補給品を保有する後方支援部 隊に支援されているのである。この事前集積船団は、海兵隊があまりに軽装備であるた め、地上戦には不向きであるとの疑問に対する回答でもある。各船団は、最大戦車90 両、軽装甲車75両、強襲上陸用車両375両及び155ミリ砲90門を積載できる。 事前集積船に支援された海兵隊は、いかなる意味においても軽装備の部隊ではない。

[緊急対応及びプレゼンスにおける海兵隊の役割]
MEU(海兵遠征部隊)もまた、小規模とはいえMEFと同様のMAGTFであり、 通常1個の歩兵大隊を中心に構成される2200名規模からなる、空地作戦及び支援能 力を有する統合部隊である。沖縄に所在する31MEUは、佐世保を母港とする4隻の 水陸両用戦艦艇に支援され、常時作戦可能な即応上陸部隊としての任務を有している。 MEUは、水陸両用戦能力及び通常の地上作戦能力に加えて特殊作戦能力を有しており、 小規模ながらバランスのとれた多様な任務を遂行できる編成となっている。その任務に は、①空海からの強襲作戦による後続部隊のための海岸堡または着陸地域の確保、②脅 威下もしくは非脅威下での救出作戦、③テロ、ゲリラ、海賊のような低烈度の脅威への 対処、④平和維持活動、⑤人道援助活動などが含まれる。
この小規模ではあるが能力の高い部隊を常時洋上に維持するためには、戦闘部隊をロ ーテーションさせ、即応性維持のための訓練を行い、兵員の生活水準を管理し、そして 部隊に兵站支援を与える機能が不可欠である。このためには、比較的高いレベルの司令 部及びMEFあるいは特別に強化された旅団規模の部隊を必要とする。例えば朝鮮半島 統一後のような比較的安定した情勢の下では、前述のような師団規模の部隊はもはや不 要であるとの議論がある。しかしながら、大規模地上作戦が必要とされないような状況 にあっても、海上プレゼンスを効果的かつ経済的に維持するためには、地域内にMEF のような上級司令部を保持することが依然として必要なのである。

また、地域の安定のための米国の前方プレゼンス及び域内の不測事態に対処する即応 能力は、海空軍のみで保持し得るという議論がある。しかしながら、このような論点は、 現代戦における統合作戦の重要性を見逃しているように見受けられる。1958年、ア イゼンハワー大統領は「陸、海、空個別の戦闘はもはや過去のものである。今後我々が 戦争に臨むことがあるとすれば、すべての軍種を統合し、集中した一つの力をもって闘 うことになるであろう」と述べている。  40年前に同大統領が指摘したように、現代 の戦場においては、空地及び海上部隊により適切に編成された統合部隊が必要なのであ る。横須賀及び佐世保を母港とする第7艦隊は、これまで強力な海上プレゼンスと緊急 対処能力を維持し続けてきたが、これは、空母搭載の航空戦力、水上・水中戦闘能力及 び水陸両用の地上戦力によりなされてきた。例えば、平時あるいは危機において艦隊は 非戦闘員を救出・後送することができるが、このような作戦においては、陸上において 避難する市民を防護し、収容・誘導し、統制するための兵士が必要である。地域的な海 上プレゼンスを維持するためには、艦隊に同行する陸上戦闘能力が不可欠であり、これ は、近傍に所在する海兵隊によってより効果的に達成されるのである。

さらに、海兵隊が、地面に足をつけた兵士の集団であるという事実は、我々がこれま で考えてきた以上に重要なことである。アジアに対する米国のコミットメントを確証す る上で、最大の手段である前方展開地上戦力は、現在、韓国に駐留する第8軍と日本に 駐留するIIIMEF以外にはない。これらの地上戦力は、軽快に展開・撤収を行うことが できる海空部隊と異なり、いったん投入すれば、撤退は容易でなく、またそれ故に投入 に際して重大な決断を要するものである。陸上戦力の存在は、日本及び周辺地域に展開 する太平軍の海空部隊のプレゼンスを著しく強化する要因である。朝鮮半島統一後の状 況を考えた場合、在韓米陸軍の駐留を継続することが難しいことは容易に想像できる。 朝鮮半島に陸軍のプレゼンスがない状況において域内唯一の陸上部隊となるであろう沖 縄の海兵隊は、本地域に対する米国のコミットメントを確実なものとする上で、現在以 上の重要な役割を果たすことになろう。

[上陸作戦能力の軍事的意味]
米陸軍の重師団や大量の兵力を有する北朝鮮陸軍などの重装備陸軍部隊に比較して、 海兵隊の上陸作戦能力は微々たるものであり、危機に際してほとんど意味を持たないと いう批判がある。しかしながら、比較的小規模であっても、海上に存在する強襲部隊は、 敵にとっては、後方地域のあらゆる正面に対する上陸作戦に対して準備しなければなら ないという理由から、敵部隊の相当な部分を拘束するという効果をもたらす。1992 年の湾岸戦争において、2個海兵師団及び1個陸軍機甲旅団を基幹とする米海兵隊主力 は、南側からクウェート市に対して陸路攻撃した。その間、1個海兵旅団は、クウェー ト沖に洋上展開し、イラク防御部隊の東翼と後方に脅威を与えた。その結果、この旅団 は上陸作戦を行うことなく、イラク防御部隊を海岸正面の陣地内に拘束し、結果的に南 側からの主力の攻撃を容易にする役割を果たした。
MEUによって確保される海岸堡は、より規模の大きい旅団規模の海兵部隊によって 増援・拡大され、MEFあるいは陸軍の軍団・師団といった大規模の後続部隊の作戦準 備地域となる。戦域に対する迅速な兵力集中を必要とする状況においては、このように 段階を追って戦闘力を蓄積していくことが重要である。このような状況においては、時 間の遅れは兵士の生命をもってのみあがなわれるからである。1950年の朝鮮戦争の ように大規模な陸上兵力を必要とするケースを例にとれば、危機発生後直ちに、IIIME Fの司令部が空路現地に向かう一方で、すでに洋上展開している31MEUは、1両日 の間に戦域に到着する。グアムを母港とする事前集積船団は、1週間以内に現地に到着 し、沖縄、岩国、ハワイまたはカリフォルニアから空路進出する旅団規模の海兵部隊(1 /3個師団基幹に相当)に装備と補給品を提供する。インド洋に展開していた事前集積 船団は、2週間以内には到着し、空輸されるもう1個の旅団規模の部隊を支援する。こ の間、在日米軍基地から装備及び補給品が海路輸送されれば、さらに1個旅団規模の装 備が戦域に到着する勘定となり、合計すれば、約1個師団に相当する海兵部隊を基幹と する完全編成の1個MEFが、1~2週間の間に造成されることになる。

このような場合、前方展開部隊の地理的位置が決定的な要因となり得る。沖縄から韓 国までは空路約1時間半であり、米国西海岸からの飛行時間は約12時間である。17 300人の兵員を事前集積船と合流させるために空輸するケース(全所要約250ソー ティ)を考えてみる。沖縄からであれば、50機の輸送機をもって5回輸送すれば所要 を満足できる。昼夜兼行であれば一日でも可能である。一方、西海岸からの輸送を考え ると最大3日に2往復となり、50機を約1週間連続使用するか、250機を一挙に使 用することが必要となる。現在米国は、313機の戦域間輸送機(C―17×22機、 C-141×187機、C-5×104機)を保有しており、2006年には、224 機( C―17×120機、C-5×104機)を保有する計画である。  この輸送力 は強大ではあるが有限であり、必要とする戦場に迅速に兵力を集中するためには、効率 的に運用しなければならない。陸軍の82空挺師団の空輸所要は、師団全体で約100 0ソーティ、旅団で約300ソーティ、大隊で約50ソーティであることを考えて見れ ば、沖縄に駐留することによって生まれる輸送機の余剰には大きな意味がある。

[関与戦略における海兵隊の役割]
海兵隊の役割は平時においても大きい。沖縄の3MEFは、92年のバングラデシュ の災害に際しては中心的な役割を果たしているし、阪神淡路大震災に際しても空輸や工 兵支援を通じて災害救援活動に貢献した。この他、海兵隊は94年以降、キューバに所 在するグアンタナモ米軍基地においてキューバ難民の統制に任じている他、95年のボ スニアにおける撃墜機パイロット救出作戦を遂行する等、戦闘以外の行動での海兵隊の 貢献にはめざましいものがある。
このような能力は、地域的な信頼醸成にも役立ってきた。96年8月、沖縄に司令部 を持つ31MEUは、揚陸強襲艦ベローウッドに乗艦してウラジオストックに赴き、災 害救援・人道支援任務に関する米ロ共同訓練を行った。「海からの協力」と名付けられ たこの演習は、米海兵隊とロシア海軍歩兵部隊との間で実施される定期的訓練の第3回 目である。  このような活動は、ARFの下で進められつつある様々な信頼醸成措置と ともに、地域的安定をもたらす上で、今後さらに重要性を増すものと思われる。

[結論]
海兵隊の重要性
一言でいえば、アジア太平洋地域の安定及び安全保障のためには、見通し得る将来、 海兵隊が域内に所在することが必要である。沖縄に駐留する海兵隊は、地域に適合する よう訓練されており、危機に際して迅速に対応行動をとり、必要に応じて速やかに兵力 を造成し、また増援部隊を支援する能力を有している。短期的には――特に朝鮮半島に おける南北間の緊張が続く間は――、大規模地域紛争を抑止し、あるいはこれに対処す るために、IIIMEFが現在の戦力水準を維持しつつこの地域に駐留することが必要であ る。中長期的な視点に立てば、たとえ朝鮮半島の問題が平和裡に解決し、大規模地域紛 争の可能性が遠のいたとしても、西太平洋から東南アジアを経て湾岸に至る地域には、 依然危機発生の可能性は残るとみるべきである。南沙諸島を巡る領土係争、東シナ海、 南シナ海において頻発する海賊行為、湾岸地域に存在する種々の不安定要素などは、今 後引き続き米国の前方展開戦力による抑止力と緊急対処能力とを必要とする要因である。

これらの危機はおそらく規模、烈度において現在よりは低いものとなろうが、海空戦力 とともに行動する陸上戦力、例えば第7艦隊と同行するMEUは依然重要であり、また このような大隊規模のMEUを効率的に維持するためには、その母体となる師団もしく は旅団規模の海兵部隊が域内に存在することが不可欠である。加えて、このような海兵 部隊は、地域をより安定的にするための信頼醸成のためにも有用である。前項で述べた 米ロ共同の災害救援・人道支援訓練は好例である。もしこのような訓練が拡大され、例 えば中国人民解放軍や自衛隊の部隊をも含む形で定期的に行われるようになれば、地域 の信頼醸成は大いに進展するであろう。日本が市場、資源供給地域及び海上交通路を含 む広範な地域の安定に依存していることを勘案すれば、これまで述べたことは、日本の 国益にとって死活的な問題である。

本稿は、海兵隊の役割とこれが沖縄あるいは日本周辺地域に存在することの意義を軍 事的に検討することを主目的としてきた。もとより、本稿は、海兵隊の他地域への移転 や、在沖縄海兵隊の規模縮小を無条件に否定するものではない。論理的にいえば、日本 本土への移転は選択肢であり得る。朝鮮半島統一後、北東アジアにより安定的な情勢が もたらされれば、オーストラリア、東南アジアあるいはハワイへの移転も考慮されるべ きオプションとなろう。また、技術革新による戦略空輸力の著しい進歩、あるいは海上 輸送の著しい高速化などが実現すれば、米本土からでも同様の役割を果たすことが可能 になるかもしれない。問題は移転がもたらす影響と実行の可能性である。沖縄や日本本 土と同様のインフラや接受国支援を新たな駐留先で得ることは可能か? そのために必 要なコストはどれほどか? 誰がそれを負担するのか? といった問題である。また、 日本周辺地域以外への移転を考える場合には、海兵隊とともに行動する第7艦隊の主力 が日本を母港としているという点、すなわち、海兵隊が第7艦隊と遠く離隔した地域に 駐留することによって作戦上の問題は生じないのか? という点にも着目すべきである。

さらに、海兵隊受け入れに際して各国が直面する国内政治上の問題は解決できるのか、 在沖縄海兵隊の規模縮小あるいは撤退が域内諸国にいかなるシグナルとしてとらえられ るのかといった視点も重要である。

安定駐留のための課題

これらの問題は、大いに検討に値するものである一方、回答が容易に得られるとは考 え難い。当面、我々が取り組むべき課題は、沖縄が担っている負担を軽減しつつ、海兵 隊にこれらの役割を引き続き担ってもらうための施策を推進することである。現在政府 間で行われている沖縄問題解決のための努力は、今後の日米関係を左右するだけでなく、 冷戦後のアジア太平洋地域の安全保障の行方にも大きな影響を与え得るものである。普 天間基地の移転問題を軟着陸させるためには、両国政府が引き続き総力をあげて取り組 むとともに、国民レベルでの理解を深めるための努力がことの他重要である。すなわち、 この問題が沖縄県民のみならず広く日本国民全体にとって、将来の日本の平和と安全を 左右するものであり、また、これを享受するための負担をいかに分担するかという点に ついての認識を深めなければならない。よりオープンな場での安全保障論議が必要とさ れる所以であり、このような議論の一助としたいというの点が本稿の狙いでもある。

当面海兵隊の駐留を安定的なものにしていくためには、日本国民の海兵隊に対する理 解と信頼感を深め、ひいては日本国民が日本の安全保障への寄与についての適正な評価 を共有するための努力が必要である。逆に、日本に駐留する海兵隊員の日本社会に対す る理解を深め、さらに駐留先である日本に対する愛着を高めることも有用である。この 点、外務省が昨年から始めた「在日米軍オリエンテーション・プログラム」や、12月 初旬に橋本総理夫人を始めとする婦人有志が主催して海兵隊員を東京に招待する「ウェ ルカム・マリン・プログラム96」は、草の根レベルでの努力として高く評価すべきで ある。  また、現在ローテーションによって維持されている歩兵部隊を常駐させるよう な施策も地元との関係を緊密化する上で考慮されて然るべきであろう。

同様に、共同訓練などを通じて海兵隊と自衛隊との間の相互関係を強化していくこと にも大きな意味がある。これまで在日米陸海空軍がそれぞれ陸海空自衛隊との関係を強 化してきたのに比し、海兵隊には直接にカウンターパートがないことから、自衛隊との 関係が比較的希薄であった。この点、近年陸上自衛隊が海兵隊との関係を強化しつつあ ることは望ましい進展である。陸上自衛隊と海兵隊との実動訓練や指揮所演習への海兵 隊参加などは、近年逐次内容・規模ともに充実しつつある。将来は、PKOや人道支援 に関する幅広い分野をも視野に入れつつ、その充実を図っていくべきであろう。現在、 政府は、県道104越えの射撃訓練を本土内の演習場に移転すべく諸準備を進めている ところである。本土内演習場周辺の地元の協力が得られてこれが実現すれば、沖縄の負 担を軽減するだけではなく、広範な地域における地元社会との相互理解にも役立つもの である。演習場を共有することを通じて、陸上自衛隊との接触の機会を増やし、我々が いかに地域社会にとけ込みつつ訓練を行っているかを目の当たりにすることができれば、 海兵隊自身が安定駐留のための施策を進める上での参考ともなろう。高い練度と士気、 そして厳正な規律を保つ海兵隊員が地元社会の尊敬を勝ちとる機会ともなる。このよう な草の根レベルでの基盤の上に、日米両国政府の戦略的協調努力があってはじめて、同 盟関係が強固かつ両国の国益のために有効なものとなるのである。

沖縄からの海兵隊撤退論は数多い。例としてあげられるのは、“沖縄の海兵隊撤退構想”(ア ーミティジ元国防次官補とのインタビュー記事)(11月14日付朝日新聞); 森本敏、“さらばアメ リカ海兵隊”「ボイス」(96年12月号)、pp.160-167; 田岡俊次、“ハワイ移転論の現実性”「アエ ラ」(96年9月16日号)、pp. 13-15; Mike Mochizuki and Michael O'Hanlon, "The Marines Should Come Home: Adapting the US-Japan Alliance to a New Security Era," The Brookings Review (Spring 1996 Vol. 14 No. 2), pp. 10-13等である。

高橋実、“アメリカの極東戦略と沖縄、”「沖縄問題を考える」中野好夫編(東京:太平出版社、 1968)、pp. 75-76 下院軍事委員会特別分科会報告書(1956年6月8日)、「資料沖縄問題」岡村古志郎、牧瀬 恒三編著(東京:労働旬報社、1969)、pp. 5-19 より 「佐藤内閣総理大臣とニクソン大統領との間の共同声明」(昭和44年11月21日) 神谷不二、「戦後史の中の日米関係」(東京:新潮社、1989年)、 p.136 US Marine Corps, Concepts and Issues 1996, Chapter 1. 例えば、MEFは通常60日、MEUは15日間外部からの兵站支援なしで行動することが可能 Sylvia Rosas, "Military Sealift Command and Marine Corps MPS, A partnership Forward ... From the Sea," Marine Corps Gazette March 1996, pp. 23-26. Dwight Eisenhower, "Special Message to the Congress on Reorganization of the Defense Establishment" (April 3, 1958), Public Papers of the Presidents 1958 (Washington: US Government Printing Office, 1959), p. 274. Frank N. Schubert and Theresa L. Kraus, Cahpter 8 "One Hundred Hours,"The Whirlwind War: The United States Army in Operations DESERT SHIELD and DESERT STORM (Center of Military History, United States Army, Washington, D.C. 1995), http://imabbs.army.mil./cmh- pg/wwindx.htm. Department of Defense, Annual Report to the President and the Congress, March 1996, pp. 190-197. 31st MEU Public Affairs, 31st MEU Home Page, August 14, 1996 ARFの提唱する信頼醸成措置については、"Chaiman's Statement of the Second ASEAN Regional Forum," 1 August 1995, Bander Seri Begawan; and its appendix "ARF: A Concept Paper" 等を参照されたい 読売新聞(10月30日夕刊、11月3日朝刊)

http://www1.r3.rosenet.jp/nb3hoshu/yamagutikaihei.html

 

 

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