ブラジルには最低賃金(Salario minimo)というのがある。これは雇用者が従業員に支払うべき、最低限の月給である。
ブラジルでは、この制度自体は1940年から既に施行されている。しかし、ブラジルは超インフレの時代を80年代に経験しており、この最低賃金が重要性・実効性を持ち始めたのは、大蔵大臣フェルナンド・エンリキ(後に大統領)が導入したレアル計画が施行された1994年からと言える。
以下に、その金額を示す。
1994年 64.79レアル(70.96ドル相当)
1998年 120レアル(108.89ドル相当)
2011年 545レアル(313.22ドル相当)
ブラジルにはこの最低賃金で働いている労働者が120万人以上もいる。家政婦や清掃関連のお仕事に就いている人は、大抵がこの最低賃金をもらって生活している。
従って、彼らにとって最低賃金の金額は死活問題であるほか、企業経営者にとっても人件費の増加につながる重要な問題である。また、もう退職した年金受給者にとってもこの金額が大きく影響してくるなど、あらゆる経済指標に関わってくるので、ブラジルでは毎年慎重に決定されるのである。
日本も高度経済成長時代に「所得倍増計画」なんていうのがあったが、ブラジルの最低賃金もドル換算で計算してここ17年で4倍以上に増えている。それはブラジルの最貧民層の底上げがされたことを示しており、ブラジルという国全体が確実に経済成長を遂げていることを意味している。
ただ、実際にはこの最低賃金でブラジルにおいて暮らすことは不可能に近い。政府関係機関の調査によれば、必要最低額は2222.99レアル(1277ドル相当)と試算されている。
食費・電話代・通信費・家賃・電気水道代・交通費・医療費など、すべてにかかる生活費を試算すると、1人で暮らす際に必要な最低金額はその位かなと納得する。でも、この金額は政府が保証する最低賃金の4倍以上に当たる。そのことからも最低賃金で暮らす事が不可能であることを誰の目から見ても明らかなのである。
因みに、1277ドルを1ドル82円で計算すると、104714円と10万円を超し、日本円でも結構な金額になる。つまり、ブラジルは日本人が思っている以上に物価が高いのである。
日本には最低賃金は月額では決められていない。最低の時給は決められており、県や業種によって違うそうだが、全国平均は730円だそうだ。これを1週間に40時間、1か月で160時間勤務したと想定して計算すると、月給は116800円となる。
一見すると、この金額だけで日本で一人暮らしする事も相当難しいように思われる。
そして、よく問題になるのが、生活保護を受けている人の支給額が最低賃金の額を上回っている事実である。47都道府県のうち12の県で、生活保護の支給額が最低賃金より高いそうだ。
「働いている人が働かない人より給料が低い。」
何なんだ。日本という国は。
ブラジルにも生活保護制度(Bolsa Familia)はある。これは1人当たりの月給が70レアル(3500円相当)にも満たない貧困家庭に、食事補助の名目で最大で1家族当たり242レアル(1万2千円相当)を補助する制度で(*1人では最大で140レアル)、ブラジル全体で1200万人が裨益している。
でも、1か月140レアルでは、1日に1回食事をしてただ生きているだけという状態である。「働かない人が働いている人より給料が低い。」なんてことは絶対に起こらない。
「働かざる者食うべからず」なのである。
この食事補助の支給額に妥当性があるかはともかく、ブラジルと言う国は社会格差が大きい事を考慮したその他の公共サービスが意外としっかりしている。
まず、公立の学校は小中高、大学まで全部無料である。さらに、病院は国家無料診察制度(SUS)を利用すれば、診察・手術代なども無料である。もちろん難易度の高い手術などは、手術の実施までに何年も順番待ちをする必要があったりするなど、利便性には欠ける。しかし、日本ではどんなに待ってもお金がなければ手術を受けられないのだから、貧しい人にも優しい慈悲深い国と言えるだろう。
日本、ブラジル。それぞれいい所も、悪い所もある。
世の中にパラダイスなんてない。
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