エヌのブログ - 永田町激動記 & 東日本大震災記録

2011.8.30新首相誕生に伴い、≪エヌのブログ - 東日本大震災記録≫を、( ↑上記↑ )に改題

3・11 新たな文明創れ - 細川護熙元首相

2011-04-14 19:43:16 | オピニオン / 文献
3・11 新たな文明創れ - 細川護熙元首相
朝日新聞 (2011.04.13 朝刊 オピニオン・インタビュー)


大震災という未曾有の危機に、日本政治はどう向き合うべきか・・・。18年前の非自民連立政権のトップとして政治改革を実現し、「質実国家」というスローガンも掲げながら、わずか8ヶ月で政権の座を去った細川護熙元首相。今の政治をどうながめているのだろうか。神奈川県湯河原町の庵を訪ねた。


・・・大地震、大津波、そして原発事故に何を思いましたか。

「東北大などで教鞭をとったジェームス・カーカップという英国の詩人・思想家が40年前、日本についてこう述べています。『経済の破綻・壊滅的な地震が、日本にかってなかったような深刻な試練をもたらすだろう』『誰もかれも、ゼロから再出発するのでなければ日本は精神的にも、文化的にも立ち直ることができないだろう』と」

「詩人の直感ですが、今日の事態をよく予見しているのに驚かされます。単なる復旧・復興ではなく日本をリセットして再生するという覚悟でないと立ち直れないでしよう」

・・・原発事故は、私たちの繁栄が拠って立ってきたものが脆弱だったことを示しています。

「原発は安全だといわれて、それを信じ込んでしまったのが愚かだった。チリ地震で実際にあれだけの被害があったのに、今回の津波は想定外だったと寝言のようなことを言っている。これは人災ではなく、ある意味で、犯罪だといってもいい」

「東北に限らず、日本中どこでも中央集権的なインフラに頼ってきた。そういう脆弱性に正面から向き合おうとしてこなかった。それも人災だったという深刻な反省が必要ではないか」

・・・復興には政治の構想力が必要ですね。

「世界に向けて、東北を先端的なモデルとしてデザインしていかなければ。関東、阪神淡路の大震災との大きな違いは、あれだけ広大な地域が塩害や放射能にやられて数十年は農業も漁業もできない可能性があるということです。東北は親潮と黒潮が出合うところ。豊富な水に恵まれている。縄文時代から丘陵地帯に人が住み、柳田国男は『日本の原風景』といった。21世紀を飛び越えた22世紀の東北創り、新しい日本の文明創りといった大風呂敷を広げなくてはいけない。堤防もより高くするとか、そういう話でとどめてはいけない」

・・・管直人首相の危機管理を見て、どんな印象をお持ちですか。

「管さんも大変だろうが、人の動かし方がどうなのかなと思う。対策会議や対策本部をいくつもつくるより、首相官邸にいる事務の官房副長官を中心に各省の精鋭でことにあたるという、本来のやり方でなぜできないのか。組織というものは、常にシンプルが良い」

「民主党政権では『政治主導』を振りかざすのが気になります。私は『政治主導』なんて言ったことはありませんが、政治が主導するのは当たり前、言わずもがなの事です。政治家が大きな方向性を示して、あとは官僚にどれだけやる気になってもらうかということです」

「首相はオーケストラの指揮者なのに、だれもそちらを見ていないというのはまずい。首相がどっしり落ち着いていないと国民も安心感をもてない。中国の『詩経』に『われ明徳を懐(おも)う。 声と色とを大にせず』とあります。要するに問われているのはパフォーマンスなどでなく、リーダー自身だということです」

・・・指導者が何を打ち出すかが大事ということですが、そういえば、細川政権では「質実国家」という考え方を示しました。経済成長を目指すだけでなく、質素で身の丈に合った生活を目指そうというものでした。

「江戸時代でも戦後でも思い起こして、今こそ質素な暮らしに戻ることを考えるべきでは。コンビニは24時間営業している。テレビも夜通し、やっている。そんなことは、やはりおかしい。無用の贅沢と浪費を憎む精神を日本人が再び自覚して涵養していくならば、日本は欧米が刮目する文明国になるでしょう。それが質実国家だと思う。ある意味で、いい機会だと思います。バブルとか経済成長とかいう中で、みんな身の丈にあった暮らし方を忘れてきましたから」

・・ボランティアも寄付も注目されています。

「阪神淡路大震災以来、ボランティア活動のネットワークは大きな力になってきました。寄付も随分集まっているようです。世界の誇れる日本国民の善意ですが、ただ、それがどう使われているかがよくわからない。食料なのか、仮設住宅なのか、道路なのか、目に見える形にしてもらいたい。いつも思うのだが、それがないとせっかくの善意がなえてしまう」

・・・復旧・復興が始まる中で、政治の世界では、政策を進めるために民主党と自民党との大連立を求める声が出ています。

「限定的な課題を解決するために大連立を組むのは結構なことだと思います。ただその時、菅さんはおのれをむなしくして『正念場内閣』を作らないといけない。極端に言えば、首相は谷垣さん(禎一自民党総裁)でも、小沢さん(一郎元民主党代表)でもいいぐらいの度量がなければ。民主党から出そうという小さな了見では、うまくいかない」


< 強いリーダーは時代が呼び出す >

・・・管さんは「おのれをむなしくする」域に達していませんか。

「リーダーの資質で最も大事なことは,宋の『名臣言行録』にあるように『退を好む』ということです。ポストにいつまでも固執するような人には、国の大事は任せられない」

・・・時計の針を少し戻して、民主党政権について印象をお聞きしたい。政権交代から1年余り。民主党内の内紛もあって、立ち往生が続きました。総裁選で掲げたマニエスト(政権公約)の見直しもうまく進んでいません。民主党の混迷が震災への対応にも陰を落としています。

「政治とは畢竟、人を動かすことです。なのに官を追いやってしまった。官僚的なやり方には問題もあるが、これはという人物を用いて寛政の改革の松平定信のように、任せてやらなければ」

「それと、マニフェストなんてわざわざ言わなくたって、いまやらなければならないことは、誰が考えたって、はっきりしている。社会保障の見直しや財政再建などであることは明らかです。指導者は方向を明確に示して、タイムリミットを区切って、どれだけのコストをかけて、どういう方法でそれをやるか。それだけのことです。単純なことをわざわざ複雑にしている」

・・・米国をはじめ、外交でもつまずきました。

「外国との付き合いも、人との付き合いと全く同じだと思いますね。誠意を持って言うべきことは言う。ただ、『ノー』と言う時はチャーミングに。相手に『この野郎』と思わせてはいけない。ごく自然に付き合ったらいい。私はクリントン米大統領には随分、言い難いことも言いました。それでも人間関係はとてもよかった」

・・・マニフェスト問題では「堅持」を掲げる小沢氏と「見直し」を主張する管首相らとの対立になっています。

「私が首相の時も小沢さんとの『二重権力』と言われましたが、私自身は一度も感じたことはありません。コメ市場の部分開放も小沢さんとは意見が違ったが、私の判断で決めさせてもらった。小沢さんは、武村正義さんを官房長官からはずすべきだと何度も言ったが、私は受入れなかった。だれが何と言おうと、首相は自分の判断で決めればいいのです」

・・・そういえば、管・小沢対決となった昨年の民主党代表選で、細川さんは小沢さんを支持していましたね。

「トップになる人にとっては『無私』ということが、一番大事だと思う。つまり、物欲しそうであるが、ないか。小沢さんは、首相になりたいわけでもないし、そのポストにしがみつこうという気持ちもない」

「小沢さんについては、虚像が独り歩きしているとおもう。実際は大変ナイブーナ人で、説明もしないし、弁明もしない。だから誤解を受けやすい。しかしそれが彼の哲学なのでしょう」

・・・小沢さん、菅さん鳩山さん(由起夫前首相)という世代を超える政治家が出てきてもよさそうなものですが。

「小選挙区になって人材がいなくなったという人もいますが、そうは思いません。米国も英国も小選挙区だけれど、政治の人材がいなくなったという話は聞かない。吉田茂さんくらいから後は平和だったし、経済も順調だったから、政治のリーダーシップが必要とされなかった」

「リーダーは時代が呼び出すものです。そういう意味では今回の大震災のようなことがあって、強い指導者がもとめられるかも知れません。冒頭に引用した・カーカップも、日本が再出発できるかについて『かってない強力な指導者が出てこなければ日本は立ち直れないだろう』と書いています

< 「一内閣一仕事」 決着付けば退場 >

・・・ところで、細川さんが首相に就いた1993年から18年の間に、12人の首相が誕生しました。在任期間は細川さんが8ヶ月、平均では約1年半。短命政権が続いて、国益をそこねると言われています。

「私はそれについては、人様と考えが違うんです。昔から『長きを以って尊しとせず』というのが信念でね。要は何をやるかが問題なのであって、長い短いかは結果でしかありません。財政や社会保障など、これだけ難しい課題が山積していると、1人ですべて片づけられるはずはありません。『一内閣一仕事』全力で決着を付けて退場する。その結果、回転が速くなってもやむをえない。そういう時代もあるでしょう。仕方がない。問題は、何もミッション(使命)を果たさないまま、ズルズルと政権を続けることですよ。外国から『日本の首相はころころ代わってやりにくい』と言われるかも知れませんが、やるべきことをやれば必ず評価されると思いますよ」

「細川政権の役割は自民党からの政権交代を果たし、政治改革関連法案を成立させること。さらにコメ市場の部分開放でした。やるべき仕事を終えたので、退場したわけです。

・・・いまの話が、菅首相への一番のメッセージになったようにおもいますが・・・。

「さあ、どうかな。自分が可愛いうちは切腹はできませんよ」



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