『バラ色の人生』は、1974年にTBS系列で放映された連ドラ。東京のオンボロアパートの住人たちの人生模様を描いている。
ムスタキはフランスのシャンソン歌手でジョルジュ・ムスタキ。彼の『私の孤独』なる歌がドラマのテーマソングに使われた。そればかりか、彼の歌の多くがBGMとして効果的に使われている。
33年前の話で、僕が一生を労働運動に捧げようと決意して、労働組合の書記に飛び込んだ年で、弱冠25歳だった。主人公は、寺尾聰演じる版画家志望の美術学生、一作君。24歳の設定。主人公が自分とほぼ同年齢というのも感情移入し易かったのかも知れない。
ムスタキは、このドラマで初めて知り、いかれてしまった。来日コンサートには3回行き、手に入るレコードはほとんど集めた。
ヒロインは二人いて、一人は一作君と同郷(長野県)の同級生、静江ちゃん。仁科明子が演じる。初々しい清純な乙女の役柄。もう一人は、一作君の部屋に転がり込む謎の女性、さくらさん。香山美子が演じる。こちらは、妖艶な成熟した大人の女性。この二人のキャラは対比的に設定されている。僕は、どちらにも、ぞっこん惚れこんだ。
毎回、欠かさずに観た。しかし、最終回は残業で時間に帰宅できず、自宅に電話して姉にテレコに録音してもらった。だから、最終回は僕にとってはラジオドラマなのだった。まだ、ホームビデオは一般家庭に普及していなかった。
このドラマはビデオにもDVDにもなっていない。最終回は、僕にとって永遠の幻の最終回で終わるところだった。ところがである。ミクシィのコミュのメンバーの一人がビデオ録画していたのだ。コミュのメンバーの計らいで、最近、それをダビングしたのをお貸しいただいた。
ついに、幻の最終回を33年の歳月を経て、観ることができた。そして、第1話から全部を通して観た。今観ても、全く古さを感じさせない。現在、2回目の鑑賞中。
一作君の悪友である森本レオ演じる清太郎と一作の会話は、まるで漫才で腹を抱えて笑う。一作と清太郎のキャラも対比的に設定されている。一作は朴訥、純情、優柔不断。清太郎は、要領が良く、お調子者、軽薄でプレイボーイ。とにかく、人物の一人ひとりのキャラクターがしっかり魅力的に造形されている。
コメディでもあり、哀切なラブストーリーでもある。そして味わい深い人間ドラマ、人生ドラマである。脚本は、ベテランの高橋玄洋さん。と言っても、この当時は油の乗り切った時期であったろう。高橋さんと言えば、僕が脚本家デビューのきっかけになった読売テレビゴールデンシナリオ賞最優秀賞受賞の時、佳作に入選したのが高橋さんの息子さんだった。
新たに見直して、このドラマはフランス映画のテイストであることに気づいた。懐かしいフランス映画の香りだ。フランス映画は、人生を深くじっくりと描くところに特徴がある。だから、ムスタキのシャンソンが違和感なくピッタリとドラマにマッチしている。オンボロアパートの住人は、みんな貧乏人だが、何ともお洒落なドラマなのだ。
このドラマを観る時、ムスタキの歌と伴に、至福の時間が流れる。
「私は淋しくない、私の孤独と道連れだから…」
シャンソンは人生の詩。『私の孤独』こそシャンソン。
もちろんピアフの『愛の賛歌』も…モンタンの『枯葉』も…。
エトセトラ…。
http://jp.youtube.com/watch?v=QvFLBs9S8FY
たいへん、ぶしつけでありますが、この物語のヒロイン(香山美子さん)の正体は何だったのでしょうか、教えていただければ幸いです。中学生時代、飛びとびで観ていましたが、残念ながら中盤もラストも観れずに終わってしまいました。せめて、シナリオが出版されていたら・・・と思います。