そらはなないろ

俳句にしか語れないことがあるはずだ。

白い足

2008-09-15 23:51:23 | Weblog
土曜日

 渋谷でモツ鍋を食べる。

 隣のカップルの男の腕が太かった。だいぶ酔っている様子で、僕らの斜め後ろに座っているカップルを指さして、「あれは絶対に同伴だよ」とか言っている。言われた女は「同伴」の意味が分からなかったらしく、男がなぜか自慢げに「同伴」の意味を語り始める。

 そっと振り返って「同伴」カップルを見てみると、女の白い両肩が見えていて、確かにそのセクシャルさにはキャバ嬢と見られても仕方のない雰囲気が漂っていた。しかし、男の方はまだ若いようで、僕には、同伴でキャバクラに行くというよりは、キャバ嬢とその情夫のように見えた。

 隣の男は、マクドナルドは関西ではマクドと省略されることについて、またもや自慢げに語っている。「マックじゃ、マッキントッシュと区別つかないじゃん!」と、これまでに百万遍も語られたようなセリフをさも自分の発見ででもあるかのように得意げに話している。

 一緒にモツ鍋を食べていた華子氏によれば、「同伴」カップルはずいぶんすごい量の鍋を食べていたらしい。そういえば、好奇心にかられて振り向く度に、彼らの鍋には入れたてと思われる野菜が山盛りになっていた。

日曜日

 神楽坂での飲み会の前に紀の善でも行こうかと早めに飯田橋へ行ったら、夕暮の前にもう閉まってしまうようで、あてがはずれた。華子氏が不機嫌になる。

 飲み会は、俳句関係者やら現代詩関係者やらが集まるもの。ブログ見てるよ、などと声をかけられてどぎまぎする。

 白ワインの入ったグラスが、自分の不注意で肘にあたり、倒れそうになったが、なんとか寸前ではっしと掴み、倒さずに済んだものの、グラスの中の液体は慣性の法則に従って宙を流れてゆき、目の前に座っていたあみさんにかかった。慌てふためく。両隣からおしぼりや拭くものがわあっと集まってきて、僕はポケットからティッシュを出したが、申し訳程度に机を拭いたくらいで、あとは右往左往した。

 さきさんから「優夢のばかー!」と声が上がって、ほっとする。

 二次会のバーでは二階の窓際から見える神楽坂の風景を横目に、議論を聞いたり質問したりする。夜の神楽坂を、人が通り抜ける気配がする。僕はいつでもぼーっとしている。オリーブとともにマティーニを飲みほした。

 帰ろうとしているみんなを、「まだ帰りたくない!」と、「合コンの女の子のように」呼び止め(うん、確かに、あのときそういうふうにさきさんに突っ込まれた気がする)、マックで少しだけ話してから帰る。やっぱり僕はぼおっとしている。それで楽しいのだから、なおいけない。

月曜日

 華子氏と散歩をする。住宅街をふらふらと歩いていると、ミニスカートの女子高生が目の前に現れて、その足に見入る。ふくらみ方と締まり方に、あ、足だな、と思わせる何かがあった。

 どこへ向かうということもなくふらふらと歩くと、いつの間にかミニスカートを追いかける形になっている。ミニスカ、ずっと前にいるよね。そう言うと、華子氏は、うん、だって追いかけてるもん。こともなげに言う。そっか、そうだよな、と納得して、ぼんやりと追いかけることにするが、こちらは二人、相手は一人、必然的に動きの軽い相手がずんずん歩いていって、そのうちに見失ってしまった。

 偶然見つけた図書館に入り、それぞれ俳句の本をめくる。彼女は僕からレポート用紙を借りると、気に行った本のタイトルのメモをとっている。この図書館で本を借りる気はないらしい。僕は、本を開きながら、少し寝た。

 そろそろ日も暮れかけて、散歩も仕舞いになる。

 帰ってきて、彼女がメモしたレポート用紙を僕のカバンに入れていたことを思い出し、メモがなければ困るだろうと思ってメールしようと思ったら、レポート用紙からはきちんと彼女のメモしたページだけが切り取られていた。

 だから、結局、メールはしていない。