ヲノサトル責任編集・渋東ジャーナル 改

音楽家 ヲノサトル のブログ

音楽を"売る"戦略とは。

2012年10月28日 | レビュー


前回の「音楽は、売れるか。」にはtwitterでもFacebookでも予想外の反響をいただきました。

中には否定的というか、「いやオレは今でもCD買い続けてるし?」とか「必ずしも音楽の聞かれ方が"断片化"してるとは思わない」という意見も。

まあ確かに、ひとくちに"オーディエンス"と言っても、必ずしも年齢や環境に左右されず、様々な聴かれ方が混在しているのが、現状かもしれません。

そういった個人差は当然としても、音楽の聴かれ方の「全体像」としては明らかに10年前20年前とは全てが変わってきている。

実際に様々なケースで音楽を商品化し、それがどのように流通していくかを「届ける側」からリアルタイムの数字で俯瞰していると、肌でそう感じざるをえないのです。

まあ当方は評論家ではないので、これ以上は自分の創作と発表の活動方針で示していくほかありませんが…



そんなことを考えていたら、早速また新しい本が出ました。

山口 哲一 , 松本 拓也, 殿木 達郎, 高野 修平
ソーシャル時代に音楽を“売る"7つの戦略
“音楽人"が切り拓く新世紀音楽ビジネス

リットーミュージック, 2012





「顧客を説得する5つの方法」「人生で損をしている人の9つの理由」(←今てきとうにでっちあげました)みたいなハウツー系とか自己啓発系の新書的なタイトルですが、読んでみたら内容がやけに具体的。

たとえば、前に紹介した音楽の明日を鳴らす ~ ソーシャルメディアが灯す音楽ビジネスマーケティング新時代~で挙げられていたキーワード「共有」「共感」「共鳴」も、本書には頻繁に出現します。

しかしここでは単なる状況分析で終わらず、「共感」一つとっても「驚きの共感」「規模観への共感」「限定観への共感」等と詳細に分類し、それを喚起する具体的なニュースの見出しを列挙。従来は「必要な情報が伝達できれば良い」レベルだった広報も、今ではきめ細かく「この媒体では、どの種類の"共感"を得るか」ピンポイントにフォーカスしないと成功しない事が、よくわかります。

あるいはミュージックビデオについても、どのようにインフルエンサー(情報を拡散してくれるコアな人物)を巻き込み、どのようなルートで情報を拡散していったか、実際にそれを行って成功したインサイダーの事例を紹介。作品としてのMV(ミュージックビデオ)と営業ツールとしてのPV(プロモーションビデオ)の違いを自覚する事が成功のカギ…という指摘がリアルです。

…といった具合に、単なる評論や現状分析ではなく、音楽の「作り手」「送り手」目線での、徹底的に具体的で実践的な内容になっているところが、本書の値打ち。

わかった。音楽ビジネスにSNSが不可欠な事はもうわかった。それで、どないせいっちゅうんや!…と半ば開き直り、半ば途方にくれているミュージシャンや制作サイドの人間は、とりあえず2012年現在のテキストブックとして読んでおいて損のない内容と思われます。

また逆に、「そういえば最近、なんとなくSNSで新譜の事を知ったり、ニコ動やYOUTUBEで音楽聴いてることが多いなあ…まあ無料だしなあ…」なんて思ってるリスナーの方も、実はどのような戦略がアナタにその音楽を届け、どうやってアナタからお金を得ようとしているのか、音楽産業とメディアの立てている戦略が、裏側からよくわかる一冊でもあるのですね、実はこれ。


【関連項目】
音楽は、売れるか。(2012年10月17日)
音楽配信と電子出版のマリアージュ(2012年02月07日)




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