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小説 『クロノス・ジョウンターの伝説∞インフィニティ』 レビュー (2)

2008-08-02 | その他
『クロノス・ジョウンターの伝説∞インフィニティ』

小説 『クロノス・ジョウンターの伝説∞インフィニティ』 レビュー (1)からのつづき


鈴谷樹里の軌跡
今は亡き愛する人の病気を治すために,鈴谷樹里は過去に跳ぶ.
やっと開発された新薬を手に.

今回は,社外の人間が跳びます.
鈴谷樹里,医者です.

この頃,すでにクロノスの開発は中止に,プロジェクトリーダーの野方も本社の住島重工に戻っています.

というわけで,樹里と野方がお見合い.
野方さん,あんだけ自分で社外秘だって言ってたのに見合いの席だからって簡単にクロノスのこと話しちゃうんだもんなあ.
まったく

開発中止にはなったものの,最後まで進化を遂げていました.
それがパーソナル・ボグII.
全開(布川)の実験から改良され,少なくとも3日は滞在できるようになりました.今回もまさにギリギリでしたが.

樹里が救いたかったのは,同じ病院に入院していた青木比呂志という絵本作家.
彼はチャナ症候群という病気で亡くなってしまいました.
樹里が医者になって,特効薬が開発され,偶然にも野方と出会い,クロノスがそこにあった.というなんとも奇跡のような話です.

治療はギリギリで完了.樹里は未来へはじき飛ばされましたが,比呂志に打った薬が比呂志の体ごと未来にはじき飛ばされたため,時間差はあるものの,未来で再会できたというハッピーエンド.

もう「布川」と「鈴谷」は単純ですがいい話です.


<外伝>朋恵の夢想時間
高校時代の失敗と後悔を修正するために,角田朋恵は過去に跳ぶ.
新たなるタイムマシンに乗って.

過去に跳ぶのはP・フレック開発一課に派遣社員としてやってきた角田朋恵.
この話も正確に言えば社外の人間が跳びます.

立田山チームを筆頭に,一課の開発しているタイムマシンはクロノス・コンディショナー.
クロノス・ジョウンターとは違い,物体そのものを過去に送る装置ではなく,人間の意識を過去の自分に送るという装置.

そのため,最大遡航時間は自分が生まれた瞬間.

正直言って,ジョウンターに対抗する装置としては,この後出てくるスパイラルを考慮すると,どちらも物体を過去に送るという概念ありきの理論の中で,理論的には簡単だという理由で意識のみを送るというのはやり過ぎではないかと思います.
これだと何でもありになっちゃう.

時間軸圧縮理論と時間螺旋理論は違う理論だとしても,どこかしら共通の概念があるのに対してコンディショナーにはその基本理論名もないわけで.
外伝にしては投げやりなのではないかと.

過去から戻る方法も「もう戻りたいなぁ」と考えるだけというなんとも親切設計.


きみがいた時間 ぼくのいく時間
愛する妻を事故から救うために,秋沢里志は過去に跳ぶ.
39年前という遙か過去へ.

主人公はアメリカから帰ってきた秋沢里志.
帰国してすぐに本社ではなく,子会社の住島重工に出向.
タイムマシンの開発に携わることに.

今回のタイムマシンはクロノス・ジョウンターでもクロノス・コンディショナーでもなく,クロノス・スパイラル.

ジョウンターの時間軸圧縮理論に対して時間螺旋理論によって開発されたタイムマシンです.

ジョウンター最大の欠陥である「未来にはじき飛ばされる」という事はないものの,スパイラルにも欠陥があります.それが
「未来でも過去でもピッタリ39年間の時間移動しかできない」

5年前に行きたいとか,少し未来が観てみたいとかそういったことは不可能で,文字通り39年間しか移動できないという代物.しかも滞在後元に戻れるわけではなく,その場に滞在を続けるという何ともステキな親切設計.

このスパイラルに乗って,里志は事故死した最愛の妻,紘未を救うために過去に跳ぶわけです.

この短編はキャラメルボックスで今年舞台化されました.
なんでも「きみ時間」と次に紹介する「野方」はキャラメルを焦点にして書いたとか.
自分は舞台を観てから読みましたので,そういった感想になります.

第一印象は「あれ,過去に行ってからの展開つまらなくねえか?」という若干の文句でした.
里志が,紘未を救うためにスパイラルではなくジョウンターの開発に力を入れるというプロットは良かったですね.

過去に行ってからはさすがに脚本に書き直した方が秀逸でした.この話の見せ場としては39年間で何があったかですからね.

いや,楽しめました.


野方耕市の軌跡
初恋の人と親友を救うために,野方耕市は過去へ跳ぶ.
最後の願いを叶えるために.

クロノスシリーズの最終章を飾るにふさわしい短編です.
やはり,すべての鍵は野方耕市という男にあったってカンジですかね.

- - - -
定年後,結婚し,実家の野方医院を継ぎ,隠居生活を送っていた野方のところに機敷埜風天という老人が現れる.
彼は,クロノス・ジョウンターを手に入れ,自分のつくる博物館に展示したい.そのために話を聴きに来たという.

クロノス・ジョウンターの開発経緯を話す野方.
過去を懐かしむ中,機敷埜の質問である結論にたどり着く.

クロノス・ジョウンターで初めて過去に跳んだのはシャープペン.
野方が初恋の人,片倉珠貴から借りたまま返していない,墓場まで持って行くつもりのシャープペン.

野方の高校時代からの親友,萩塚敏也.
彼はふとしたきっかけで屋久島に興味を持ち,遭難してこの世を去った.
そして後を追うように,萩塚の恋人だった珠貴も.

野方は2人を救うために,過去に跳ぶことを決意する.
- - - -

まさか,最後の最後にジョウンターのさらなる機能が発揮されるとは.

理論上,ジョウンターに乗った人間は,遡航年に遡航年の二乗を足しただけ未来にはじき飛ばされるが,パーソナル・ボグIIによってそれは遡航年の2倍に縮小される.
しかし,射出時からボグIIを起動していると,一度未来に跳ばされ,その後過去に跳ばされる,そしてまた未来に引き戻される.
過去に跳ぶ期間は通常のクロノス・ジョウンターの限界を超えている.

この機能を使って野方は2人を救いに行くわけです.

そして,過去に跳ばされる前の未来で,その時代に帰還した布川と出会うというなんともドラマチックな展開に.

2人を救い,偶然にも元の時間に戻ってきた野方.
クロノス・ジョウンターの開発に半生を捧げた彼にはそれぐらいの偶然があってもいいでしょう.

この短編を読むためだけに1,200円出してもいいぐらいです.


設計者不詳とされているクロノス・ジョウンターですが,「野方」を読む限り時間軸圧縮理論のオリジナルは野方ですね.
ということは野方が住島重工に入って理論を完成させ,設計し,その開発のためにP・フレックに出向.開発のすべてに携わり,その最期も看取ったと.

なんとも素晴らしい人生です.
技術者冥利に尽きます.

舞台「きみ時間」のレビューにもちらっと書きましたが,各タイムマシンについての素人考察も書きたいと思ってます.

それにしてもこのレビューを書いていて気がつきましたが,作中ではP・フレックは4つのセクションに別れてそれぞれ別のアプローチで時間に関する研究をしていると野方が発言していますが,劇中に登場するのは「クロノス・ジョウンター」「クロノス・スパイラル」「クロノス・コンディショナー」の三機.
あと一つは何をつくっているんだと考えると,クロノスシリーズを続けるつもりなのかとうれしくない期待をしてしまいます.

次出すときは新型タイムマシンのみの作品でお願いしたい.


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