切られお富!

歌舞伎から時事ネタまで、世知辛い世の中に毒を撒き散らす!

『パーマネント野ばら』 西原理恵子 著

2006-10-09 13:23:42 | 超読書日記
西原理恵子ことサイバラの新刊は、女を語る、恋を語る大傑作。毎回、サイバラの本を褒めちぎっている当ブログですが、今回も言いますよ!大傑作!!

本の帯がこのマンガのすべてを物語っている。

「どんな恋でもないよりましやん-。村にひとつのパーマ屋さんは、女のザンゲ室。そこで女たちが恋にまつわる小さな嘘を日々告白している。男に裏切られても、泣いて笑ってたくましく。」

例によって、港町の下流社会を舞台にした今回の作品なんだけど、今までと違った点は、明確に女性中心の話であること。確かに、女性たちの付き合う男たち、それも「だめんず・うぉーかー」をはるかに飛び越したダメ男ばかりが登場はするものの、あくまで「点景」として語られるだけで、恋について語りたい女たち、いくつになっても変わらない女たちの姿が常に中心となって物語りは語られる。

男があくまで「点景」であることは、ラストの描かれ方である意味際立つんだけど(ネタバレになるといけないからココまでですよ!)、このあたりには、離婚したサイバラの心情がヒロインに投影しているのかもしれない。

サイバラの描く水商売の女性たちというのは、山田詠美など都市型の女性作家が描くような都会のホステスたちとはまったく違って、徹底的にローカルで「下流」であり、「黒革の手帖」なんかとは対極にある世界のように思える。

そういう意味では、さばけた女性の都市小説の類や風俗経験者の手記なんかも飛び越えた<脱自意識>的なものであって、あくまで男性を主人公としていた中上健次の連作の女性版のような力強さを持つ反面、作者がおそらく感情移入してしているであろうヒロインは、常に<脱自意識>的な世界とセンチメンタルな都市生活者に近い場所の中間点にいるように、わたしには思える。

つまり、観察者と当事者の両面の位置にヒロインを持ってくるあたりに、狡猾な作り手サイバラのセンスがあるわけで、このあたりに単なるマイナーな土俗フォークロア・マンガとは違う、商業作品としてのこのマンガの価値があるんだと思う。

しかし、この人の絵のセンスには毎回唸らされる。冒頭の浮遊感漂う感覚は彼女の作品に頻出するパターンだけど、色彩、アングルの切り取り方など、ほんとに巧い!なかなか、こういうのって描けそうで描けないっていつも思いますね。

前に褒めた「うつくしいのはら」という作品も凄かったけど、やっぱり凄いなこの人は。ただ者ではありません、絶対に!

PS:このマンガを読んでいて、宮本常一の『忘れられた日本人』を思い出しました。特に「土佐源氏」を。わたしが考えるもっとも美しい不倫話がこれなんですけどね~。

パーマネント野ばら

新潮社

このアイテムの詳細を見る


<参考>
忘れられた日本人

岩波書店

このアイテムの詳細を見る

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『きっこの日記』 | トップ | 国立劇場 歌舞伎チケット争... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

超読書日記」カテゴリの最新記事