切られお富!

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映画『元禄忠臣蔵』(前篇・後篇) 溝口健二監督

2006-10-31 05:54:26 | アメリカの夜(映画日記)
国立劇場で今月から三ヶ月連続の通し上演が行われている、真山青果原作の『元禄忠臣蔵』なんだけど、そういえば映画があったんですよね!(芝居のプログラムの真山美保さんの文章で思い出した!)これは、芝居のチケットが取れた人も取れなかった人も、必見の映画ですよ!

この作品は、戦前に作られた大作映画で、監督は名匠・溝口健二。しかし、現存する溝口作品ならほとんど観ているはずのわたしが、なぜかこの作品は観ていなかった。

というのも、この作品は溝口のフィルモグラフィーのなかで、「失敗作」の烙印を押されているからで、「女を描く巨匠・溝口」には向いていない題材だったとさえ一部でいわれている。

そんなわけで、改めてこの映画を観てみたのだけど、これがなかなか凄かった!いったい評論家は何を観ていたんだって、いいたいほど!!

冒頭の実物大といわれる松の廊下のセットを長~いワンカットで処理する演出や音の使い方など、溝口演出の妙に驚かされるし、初期の溝口作品の特徴である、狭い空間を人物と共に動くカメラワーク(フランク・キャプラやフランソワ・トリュフォーも同様のスタイルをよく使う。)で表現する手法も見事にはまり、これは紛れもない溝口的な作品になっている。

とかく、溝口作品の特徴を語るとき、戦後の相棒カメラマン・宮川一夫の功績ばかりが注目され、肝心の溝口的演出術が明確に語られないのだけど、幸いなことに、今回の国立劇場の舞台を見た人なら、舞台と映画の違いから溝口流映画術の特徴をすぐに理解できるはず。

例えば、舞台が大広間での続き芝居になっているのを、空間を繋いでいくことで見せる手法に変えていたり、女優の出てくるシーンの緊張感(これは原作にはないところ)やクレーンを使った映像手法など、かっちりした戯曲である原作に縛られながらも、舞台とは違った演出効果が随所に見られる。

役者は前進座のメンバーに加えて、三浦光子、山路ふみ子、梅村蓉子(!)に、若いときの高峰三枝子など。

個人的には、山路ふみ子の熱演(映画の山路賞というのは、この人から来ている。溝口作品では「愛怨峡」に出演。)と戦前の大スター梅村蓉子の名演、まだまだ若かった高峰三枝子の美しさ(「大石最後の一日」の場面で登場。)なんかが印象に残ったかな。

というわけで、芝居なんかどうせ観ていないダメな映画評論家を蹴散らすためにも、芝居好きはこの映画を観るべし。そして、今年がちょうど没後50年の溝口健二を新たな視点から見直すいい機会なのではという気がしますね。

それと、舞台のストーリーがいまいち分からなかった人にも参考になるかも知れません。ちょっと、長いけどオススメ!

<溝口健二没後50年記念>公式HP

PS:吉右衛門の舞台「元禄忠臣蔵」(国立劇場)の感想はそのうち書きます!!

元禄忠臣蔵(前篇・後篇)

松竹

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2 コメント

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ひそかに (ブイヨン)
2006-11-01 01:27:55
10月の「元禄忠臣蔵」(国立劇場)ご覧になったんですね。ひそかに感想を楽しみにしております。細かいことを言えばもっとこうだったら、ということは色々ありましたが、3ヶ月連続で通し上演が実現したことが本当に良かった、国立劇場ブラボーと思いました。
映画の話題なのに、歌舞伎の話ばかりですみません。
溝口作品は、気にはなっていましたが面白そうですね。
コメントありがとうございます。  (切られお富 )
2006-11-05 01:05:53
10月はなんとかチケットを手に入れて行きました。でも、忙しいさなか、無理やりスケジュールを空けたので、さすがにおおっぴらにできなくて・・・。

11月も観てきたので、まとめて感想を書きますが、ちょっと真山青果を見直した気がしてます。

ところで、溝口はこの映画の撮影中、奥さんが精神を病んで入院、御浜御殿のセットで泣いていたそうです。(この奥さんは、溝口の死後も入院したままだった。)

そんなわけで、鬼気迫る映画ではあるんですよね。

三ヶ月連続この芝居を観て、景品(?)貰うつもりです!

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