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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

見ないようにしていたこと 『マネー敗戦の政治経済学』 吉川元忠(著)

2005年01月27日 | Book
きのう、午後3時ごろ、外を歩いていました。青い空が広がり、世界はとても明るかったです。晴れの光がわたしたちの世界をとても明るくし、目を上げると空の青さがまず目に入ってきました。明るいと、建物も白さが目立ちます。すべての色が陽気に見えます。

明るい空の下で、海にはたくさんの緑色の水が浮かんでいます。とてもきれいな、ガラスのような表面の緑色でした。


経済が苦手なわたしにとっても面白かった経済の本を読みました。吉川元忠(きっかわ もとただ)さんの『マネー敗戦の政治経済学』(2003年)です。日本興銀に勤めていた方で、すでにたくさん著書を執筆しているので、吉川さんの議論に精通している方も多いのではと思います。

吉川さんの議論は国際金融スペシャリストの増田俊男さんの経済論議ととても類似しています。アメリカと日本経済の関係の構造についての認識はほとんど同じだと思います。

以下、冗長に感じられる人もいるかと思いますが、この本での吉川さんの主張を簡単にまとめ、わたしの読書体験を整理したい思います。

吉川さんは、80年代後半のバブル経済、90年代から現在までにわたる日本の不況の原因の一つが、80年代に行なわれたアメリカによる日本へのドル建て資産(主に米国債や証券)購入圧力にあると言います。

80年代前半、アメリカの製造業は日本車の台頭に代表されるように日本企業の輸出攻撃に息も絶え絶えでした(80年ごろ、当時子どもだったわたしは、NHKの番組でアメリカのリポーターが「いまや日本は世界第3位の経済力を持つ」と言っていたのを妙に覚えています)。

そこでアメリカ経済の救済のためにアメリカ政府が考えたのが、当時250円前後を推移していた円・ドルレートを大幅に変えることでした。アメリカの思惑の一つは、円を高くすることでアメリカ企業の貿易を改善することです。しかし、じつはさらに深いシナリオがそこには仕組まれていました。

85年のプラザ合意によってドル高の是正が図られ、円は一気に100円近くまで値上がりしました。実質的な円の価値は1ドル160円ほどだそうですから、大幅な円の高い評価です。

この円高による貿易産業の破滅を救うため、この時から日本は恒常的にドル買いの圧力に曝されることになります。つまり、何とか日本が大量にドルを買うことで、円・ドルレートは100円強の範囲に保たれています。このドル買い圧力は円高が原因ですから、当然2005年1月26日の今日も続いています。

この日本の資金(=日本国民の税金)によるドル買いにより、アメリカはその膨大な赤字を補填することができます、当時のアメリカは財政と貿易の巨額赤字で有名でしたが、そのアメリカ経済の赤字を補填していたのが、日本国民の税金でした。

アメリカと日本の経済的に「密接な」関係は、80年代にこうして始まりました。つまり、日本のお金を吸い上げ、アメリカ経済に流れる仕組みを作り出しました。

日本からアメリカへのこのような資金流入システムは、ドル買い圧力だけではなく、より政治的に構築されます。時の中曽根政権が行なった「行政指導」がそれで、銀行など日本の投資機関にドル建て資産(主に証券など)を購入するよう働きかけたのです。この日本による「行政指導」はもちろんアメリカ政府による日本政府への圧力です。アメリカは陰に陽に日本に圧力をかけ、日本からお金を引き出していくシステムを作り上げます。

このような日本の投資家による米国証券の大量購入については、吉川さんは経済学者から批判されたとのことです。すなわち、経済学者によれば、日本人による米国資産の購入は合理的な利益計算に基づいたものであり、政治的な圧力で自分の資金を株購入に振り向けることはありえない、ということです。

これに対して吉川さんは、それは金融の現場を知らない学者の素人意見だと反批判します。つまり、「金融村」にはそれ独自の論理、つまり心理的ムードがあり、必ずしも一人一人が合理的な行動をするわけではない。「行政指導」なり政治家の提言があればそれにしたがって動くのが「金融村」である。だから、合理的な計算を行なう経済主体を想定する経済学で経済現象を分析しようとしても、事実を把握できない。そう吉川さんは反論しています。

それはともかく、このシステムの下で日本の金融機関の資金(その中には当然、世界最高額といわれる日本人の貯蓄も含まれます)と日本国民の税金は、つねにアメリカ資産の(ドル建て)購入に使用され続けています。アメリカの不動産や株式・国債の購入は80年代初めから行なわれていたそうですが、80年代半ばからアメリカの圧力の下で人為的に日本人のお金はアメリカに流入し続けました。ポイントは、この購入がドル建てで行なわれる点にあります。

70年のドル・金兌換の停止後、ドルは何の後ろ盾もたない不安定な通貨となりました。当時はまだアメリカ経済に体力がありましたが、80年代に入るとアメリカ経済(とくに製造業)の衰退は明らかになりました。

そうした状況にもかかわらず、ドルは基軸通貨として「認められ」続けました。これには、わたしの想像ですが、冷戦体制化でのアメリカの軍事力(つまり暴力を行使する能力)が大きな影響を持ったのかもしれません。

しかし、東欧諸国の改革が進み、かつアメリカ経済が衰退する中では、実質的にはドルには基軸通貨としての体力がありません。ですから、冷静に考えれば、日本は、貿易国としてい続けたいのなら、ドルに頼らない通貨交換の仕組みを探る必要性がありました。あるいは、貿易に頼らない内発的な産業発展の仕組みを国内に作る必要性がありました。

しかし、当時の日本にはそのことを見通せるor実行できる政治家はいませんでした。80年代の日本の政治家が取った選択は、アメリカ政府の圧力を受けながら、何とか主にアメリカの市場を頼りに貿易を発展させることでした。

貿易国でい続けようとするにもかかわらず、日本はアメリカの円高設定を受け入れます。それにより、貿易産業を守るために、また日本のドル建て資産を守るために、日本はドルを買い続けなければなりません。このドル買いにより、アメリカには資金が流入し、その経済が衰退しているにもかかわらず、アメリカの金融街が潤うという構造が出来上がります(アメリカの金融機関と政治家との密接な関係は、この本でも、また広瀬隆さんの書著『世界金融戦争』などでも紹介されていました)。

また80年代、日本はとにかく資金をアメリカ資産購入に向わせるため、金利の引き下げを実行し市場に資金が出回るようにせざるをえませんでした(この超低金利はその後も続きました)。そのため大量の資金は国内の土地購入に向い、それが実態のないバブル経済を演出してしまいました。

しかし、元々人口低下が著しかった日本では、ただでさえ地価の低下は避けられない自体だったのです。そこに低金利で市場に出回った資金が地価高騰を作ってしまったため、土地・建物の実質価値が明らかになると同時にバブルが弾けます。表面上は90年代初めのこの時期から日本経済は低下したことになりますが、吉川さんの論理に従えば、日本のお金をアメリカ資産の購入に向わせるシステムが作られた中曽根政権下の時点で、日本経済の崩壊は始まっていたということになります。

このバブル崩壊から立ち直るには、日本はどうすればよかったのでしょうか。一つには地道に国内消費を高める内発的経済発展の構造を作るという選択もありましたが、70年代からの流れで貿易国の選択しか知らない日本には、円高の下では再生する力は乏しいものでした。

結果的に、円高圧力の下で、日本企業は生産拠点をアジアなどに移し続け、日本の産業構造化は空洞化し、失業が増え、個人消費が落ち込み、景気浮揚要因は消えていきます。

また、大量に購入し続けるドル建て資産も、円高の圧力が働くため、目減りして行き、日本経済の体力を奪っていきます。それを防ぐにはさらに日本はドルを買い続けなければなりません。

こうして、自国の経済が崩壊していく中で、日本はその資金をドル購入に振り向けざるをえないという無意味な循環に陥っていきます。吉川さんは、円高によるドル建て資産の目減りは30兆円ほどに達し、これは日本が90年代半ばに経済再生のために行なった公共投資額に匹敵すると指摘しています。


このように日本経済が落ち込んでいく中で、クリントン政権下では「ニュー・エコノミー」といわれるIT景気がありました。しかし、吉川さんによればこの「ニュー・エコノミー」は、主に日本の資金がアメリカに流れることでアメリカの経常赤字を補填し、またアメリカの金融街で株価が上がり、それにより各国からのアメリカへの資金流入が増加したに過ぎない、と指摘します。

つまり、それはアメリカが自国の通貨を基軸通貨として他の国に認めさせることで、他の国がその貿易産業を守るためにドルを買う構造を利用して資金流入を図ったに過ぎないということです。そこに、実質的な価値を産む健全な経済活動は多くは存在していませんでした。

こうして表面上浮上したかに見えたアメリカ経済は目立った改善が実はされておらず、そのバブルが崩壊したときに政権に就いたのがブッシュさんでした。

人々の健全な欲求を喚起するサーヴィスを創造するという経済活動が機能していないアメリカにおいて、その経済を回復させる手段は戦争です。こうしてアメリカは、9・11事件をきっかけにしてアフガニスタンやイラクへの攻撃を行い、軍事支出を通して経済復興を図ります。

話を日本に戻すと、日本の経済破綻の根本原因は、商品の交換通貨としてドルに依存し、またアメリカの政治的圧力に屈した80年代の中曽根政権時代の担当者の選択にありました。それにより日本は産業構造が空洞化し、貿易国としての体力を失い、個人消費も低下しました。

この停滞する経済状況の中で、2000年に竹中平蔵さんは、銀行の不良債権を整理し、企業のリストラを推進し、年金を減らし、税金を高くし、ベンチャーによる起業を増やすことで日本経済が再生すると主張して、国民の圧倒的多数の歓呼賛同を得ました(『竹中教授のみんなの経済学』)。

「とにかく無駄を省けば世の中がよくなる」というイデオロギーが日本中に蔓延し、「構造改革」を掲げた小泉政権が誕生しました。

小泉政権のセールス・ポイントは、とにかく「上手い汁を吸う官僚や保守政治家をいじめる」という点にあったと思います。しかし普通に考えれば、道路公団や郵貯を整理することは個別的な行政改革であって、必要だとしてもマクロ経済に与える影響は少ないはずです。官僚の天下りが一掃されたとしても、それで浮く金額は経済全体から見れば大きくはないでしょう。

にもかかわらず、わたし(たち)は根本的な経済システムの再構築ではなく、「上手い汁を吸う官僚をいじめて、国民総貧乏になろう!」というイデオロギーにとりつかれてしまいました。(しかし増田俊男さんによれば、郵貯の民営化は日本経済自体にはポジティヴな効果をもたず、民営化によってその膨大な貯蓄額が運用されることでまたもやアメリカに流れるだろうということです「増田俊男の時事直言」No.272

竹中さんが最初に言っていた経済改革というのは、要するに経済発展よりも国家と企業の「無駄」=人件費を省いて組織をスリムにします、というものでした。そうすれば経済は再生します、というもので、どうすれば国民生活が豊かになるかという問題については、わたしの知るかぎりでは具体的なことは言われていませんでした。むしろ、企業はリストラをすべきと主張していたわけで、では国民どうすればいいかというと、ベンチャーをすべきだ、というのが竹中さんの「提言」でした。そしてわたしたちはその竹中さんと小泉さんを信任し続けました。

吉川さんの主張にしたがうなら、竹中さんの議論は経済政策というよりも、むしろ「組織の贅沢をなくせばよくなる」という人間の感情に訴えかける、非論理的で巨視的なビジョンのない議論ということになります。


では、日本の経済を改善するにはどうすればいいのでしょうか。吉川さんによれば、例えば、とにかくドルに依存しない通貨体制の構築に日本が参加すること。具体的にはASEAN諸国などアジア中心の通貨体制を作ることで、ドル買いのために資金を浪費し続ける構造からの脱却から脱け出すこと。

また中国市場の価値を認識して、積極的な進出を図ること。これも、アメリカ市場への依存からの脱却という意味合いもあります。こちらはすでにさかんに行なわれていることですね。

他にも、日本が購入したドル建て米国債を売り、その資金で銀行の不良債権処理を行なうことなど、様々な提言をされています。

この本には政治面、とりわけ軍事面の分析はされていませんが、中国の台頭を最も恐れているのがアメリカなのかもしれません。実質的に自国の経済が崩壊し戦争に頼る構造になっているにもかかわらず、アメリカはその市場としての魅力と基軸通貨国である点を利用して、他国からの資金流入を図ってきました。

しかし、そのアメリカの3倍の人口をもつ中国が国全体として曲がりなりにも発展すれば、世界はアメリカよりも中国との関係を重視します。とりわけアメリカから相対的に政治的に自立しているEU諸国は中国との関係を強めています。そうした中では、アメリカに流入する資金が途絶え、株価も下がり、すでに危機的状況にあると多くの人に言われているアメリカ経済は今以上に衰退するかもしれません。

増田俊男さんが指摘するには、アメリカはつねに中国を攻撃する機会を狙っているとのことです。そこには、経済的な魅力を持つ中国に政治・経済のイニシアチヴを握られるのを怖れるという側面があるのかもしれません。ともかく増田さんによれば、台湾と中国の関係が緊張化し戦争が起こるのをきっかけに、アメリカは日本の基地から中国を攻撃する。それは2010年北京万博後だ、とのことです(その場合には、当然中国から日本にあるアメリカ基地への攻撃の可能性もあります「増田俊男の時事直言」No.271)。

増田さんのこの話は、あまりにも想像がたくましすぎるようにも感じますが、アメリカがイラクを攻撃した理由は、当時進行していたフランスとイラクとの石油取引を阻止して、イラク(の石油)を自国の手におさめるためだったという増田さんの話がホントなら、そんなシナリオもありうるかも、と思ったりもします。


吉川さんの議論から増田さんの話へ飛んでしまいましたが、吉川さんの本はもっぱら経済面、あるいは政治による経済への圧力に限定されています。とりわけポイントは、アメリカによる政治的圧力による、日本の資金のあちらへの流入構造です。

吉川さんは、いずれ日本は貿易赤字に転落する可能性があると指摘します。これだけ生産拠点を海外に移した以上、その危険性を認識すべきだといいます。もし日本が貿易と財政の赤字に陥った場合、基軸通貨でもない円は魅力がなくなり、過度の円安というこれまでとは別の問題も出てくるといいます。

そうした状況に対しても、吉川さんは、やはりアジアとの連携を強め、ドル依存の構造から脱却することを薦めています。


元々は経済の本を読むのが苦手なわたしにとっても、吉川さんの議論は非常に簡潔かつ論理的で、今の日本の政治・経済の問題点をわかりやすく教えてくれます。またこの吉川さんの議論に従うなら、現在の小泉政権の政策は日本経済の基本的な問題点を素通りした政治を行っているということになります。


こうした政治・経済の根本的な問題点を教えてくれる点で、吉川さんのこの本はとても面白い本でした。

吉川さんの議論に批判があるとしたら、あまりにも国際金融の面に不況の原因を特定しているという点かもしれません。不況のすべての原因が、アメリカによる円高圧力に還元されているようにも読めるからです。その点に注意を払う必要性はあると思いますが、それでもわたしにとっては、2年前のこの本は興味深いものでした。


涼風




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