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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『アビエイター』

2005年04月09日 | 映画・ドラマ
大富豪ハワード・ヒューズ(大企業の経営者で飛行機設計士でパイロットで映画制作者)の半生を描いた『アビエイター』は上映時間が3時間近くある。しかしまったくその短さを感じさせない。最初から最後まで圧倒的な迫力で突っ走ってしまう、そんな映画だ。

アカデミー賞では、主演のディカプリオの他にも助演でキャサリン・ヘップバーン役のケイト・ブランシェットと産業規制法案でヒューズを追い詰める上院議員役のアラン・アルダがノミネートされていた。たしかに後の二人の演技は達者だが、他の脇役に比べてそれほど強烈な印象を残すわけではない。むしろ少ない台詞で無言でセットに立つ場面の多いジョン・C・ライリー(ヒューズの片腕となるビジネスマン)やケイト・ベッキンセール(エヴァ・ガードナー役)の方が個人的に印象に残りました。

他にもジュード・ロウやアレック・ボールドウィン、ウィレム・デフォーなど華もある主役級の実力派俳優が次から次へと出てくる。日本では名も知れない俳優たちの多くも確かな演技力と存在感でスコセッシ映画を盛り上げていく(こういう無名の俳優たちの演技をみると、アメリカ映画界の層がとてつもなく厚いことを感じさせる)。

しかし、これだけ存在感のある俳優が多数出てきながら(普通の「大作」ではこんな贅沢はありえない)、そして彼らが持ち味を生かしたいい演技をしながら、その誰も特別には目立たない。目立つのはただ一人、ディカプリオだけだ。

そう、この映画はディカプリオと飛行機を初めとする大型セットがスクリーンを支配する映画だ。しかしその巨大セットも、最後にはディカプリオの道具でしかなくなる。

セットの豪華さは尋常じゃない。制作費は100億を超えたらしい。それだけ巨大なセットを迫力たっぷりにスコセッシは撮影しているのだが、その巨大なセットすらディカプリの演技の爆発力を支える脇役になっているのだ。

ディカプリオは最高だ。ヒューズの興奮、絶頂、イライラ、焦り、攻撃、悲しみ、怒り、それらの激しい感情をいとも簡単に、そしてダイナミックに演じつくす。彼の一つ一つの細かな表情がそれだけで複雑に躁鬱的なハワード・ヒューズを表現している。説明的なセリフもナレーションも要らない。ディカプリオはわずかな瞬間でヒューズの人間性を観客に伝えてしまう。

ヒューズが飛行機の操縦で絶頂になるとき、墜落で死にそうになるとき、公聴会で政治家と対決するとき、飛行機の製造や映画の撮影に熱中するとき、こういうときのディカプリオのパワーはまるでスクリーンを切り裂くように迫ってくる。

数々の種類の飛行機が飛行するシーンはこの映画の見所だが、そういう大スペクタクルシーンですら、ヒューズの興奮を表現するディカプリオの演技を助ける道具でしかない。すべての大スペクタクルシーン、アクションシーンを支配しているのは彼の演技なのだ。これほど大掛かりな映画にもかかわらず、すべてのシーンを自分の演技が支配するなんてことをやってのけた俳優が他にいるのだろうか?しかも、この映画はマーティン・スコセッシの映画であり、彼の実力をいかんなく発揮したスペクタクルシーンが目白押しなのだ。

ディカプリオはとてつもなく大きくなった。その演技には『ボーイズ・ライフ』『ギルバート・グレイプ』『バスケットボール・ダイアリーズ』のころのような弾ける感覚が完全に甦っているが、しかし同時にそのスケールは無限に大きくなり、こんな大バジェット映画ですら自分の演技でコントロールできる俳優になったのだ。


涼風


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