『銀座化粧』という映画を深夜のBSで観ました。今NHKではゴールデンと深夜に成瀬巳喜男監督の特集をしています。
観ていて色んなことを想わされた映画でした。
僕はこの映画で初めて田中絹代という人の演技を見ました。大袈裟な演技はせずに、観ている人をほっとさせてくれるような、そんな上品さが見事ですね。
この映画の製作は1951年。田中絹代は42歳です。映画でも42歳に見えます。42歳に見えるけどきれいだというのは、稀有なことのように思います。
40歳、50歳に見えて、かつきれいに見えるというのはとても難しいのかも。若く見えてきれいに見えるのはよくあるけど、ちゃんと歳をとってきれいに見えるというのは、じつは一番貴重なことのようにも思います。これは男にも当てはまるかも。
現代のアメリカ映画だと、ジュリアン・ムーアやダイアン・レイン、ホープ・デイヴィスなどが、同じように40歳前後に見えるのにちゃんときれいです。歳をとるほどきれいになる不思議女優たちです。
今の日本にはそういう女優は見当たらないなぁ。それは日本の芸能システムがあまりにも若者向けマーケットで構成されているからだろうか。でも『anego』とか『女王の教室』のように30代の女性を主人公としたドラマも出ているから、そのうち変わるかな。
田中絹代の存在感は見事でした。あと、お話もとても地味で、これといった大きな展開はないのに、ちゃんと主人公の心の揺れが描かれているのも見事です。かつての愛人の子供と生活し、銀座のバーを切り盛りしている女性の話です。水商売に疲れて、本当はどこかラクな場所に生きたい女性の気持ちの微妙な揺れが観るものに伝わってきました。
51年当時の東京を見るのも楽しいですね。今から見ればだだっ広い野原に見える東京も、やはり当時の人にとっては特別な都だったことが分かります。いつの時代でも東京は魅力的です。
今やっている特集で他の成瀬作品もチラチラ観ましたが、成瀬さんという人は、世の中から落ちぶれかかっている人のきれいとは言えない心性を暖かく見つめた人なんだなと思います。それは、まだ時代全体が豊かとは言えないだけに、日本に住む人全体への優しさなのかもしれません。戦後の、まだ右肩上がりとはいえない時代だからこそ、取ることができた視点なのかもしれません。
歴史は一回転してまた今の日本の経済状況は微妙な時期に入りました。しかも今の不況は一度バブルを経験しているがゆえに、「豊かな感覚の貧しさ」とも言うべき複雑な心性を日本の人に生み出しています。
成瀬作品をノスタルジックに愉しむのもいいけれど、この時代を成瀬さんのように優しく見つめるならどういう映画になるんだろう?
涼風
田中絹代、絶世の美女でも派手な人でもないのに、とても存在感のある女優ですよね。
成瀬巳喜男の「流れる」はご覧になりましたでしょうか?こちらでも素敵な田中絹代を観ることができます。
やはり単なるノスタルジックな映画として、ではなく人生のヒントが見出せる、成瀬作品にはそんな映画が多くあると思います。
『流れる』も深夜のBSで途中まで観ました。本当に最後まで見たかったです。
『流れる』はなんだか一流女優が勢ぞろいでしたね。それだけですごいのに、どの女優も役柄にぴたっとはまっていて、成瀬さんの女優を見定める力に驚きます。
私はまだ田中絹代という女優をよく知らないのですけど、『流れる』では地味で腰の低いいかにも昭和の女性という感じを出していて、『銀座化粧』の世慣れた感じと違っていたので、すごい演技力の幅広い人なんだなぁと思わされました。もっとたくさん観たい人です。
銀座で人が一杯だったのもBSで特集しているからでしょうか。こういう作品をスクリーンで見られるのもいいですね。こんな日常の物語を本当はみんな映画にして欲しいのでしょうね。