歌猫Blog跡地

漫画「鋼の錬金術師」と荒川弘について語るブログ。更新終了しました。

少年が一人だけの少年漫画

2007年06月03日 | ◆小ネタとか突っ込みとかつぶやきとか
鋼の錬金術師は「少年漫画」
それはもう王道な、少年漫画。

なのに、主人公エドだけが、「少年」。

エドは常に、人気投票でダントツトップ。
それは、読者の少年少女が、同じ目線で共感する、物語の入り口となるキャラが、エドだけだからじゃないかしら?

あっ、もちろんアルだって少年だよ!
アルはエドの運命共同体でもう一人の主役で、14歳の少年だ。
私、アルが好きだから、アルが少年でないなんて言いたくない。
けれど。

客観的に見るなら、アルは、「少年」というよりも、「鎧というキャラクター」なんだよね。

主人公の相棒。
それは喋る剣だったり、妖精だったり、人狼だったり、それが人間でなくても勤まるポジション。(アル好きとしてはこう言うと悲しくなっちゃうけど!)

だから、少年らしい少年といえば、リンのがそうなんだ。
ダチでライバル。他人だけど捨てておけない。

普通さあ!
普通、少年漫画って、まず主人公がいて、その周りに「同じ」少年がいるじゃない?
学園モノなら友達がいて先輩がいて他校の相手が出てきて。
バトルものでもさ。それがスポーツだろうと格闘技だろうと料理だろうと音楽だろうと、共に戦う友人や目指すべきライバルは、同じ少年だよね?
ファンタジーでもさ。主人公が少年なら、パーティーにもう一人、少年置くよね。熱血主人公なら冷静参謀系とかをさ。
巨大な敵組織なんかは大抵は大人が構成するけど、その中にも、天才悪役少年なんかがいるよね。不自然に(笑)

だから、鋼でいけば、例えばアニメのエンヴィーなんかは、少年なんだよね。エドの対極にある、愛されなかった少年。(ラースはそれより幼い、子供)
小説版だとラッセルとかピットとかが、いかにも定番。
でも原作は。
原作エンヴィーは「少年」じゃない。年齢とかそゆんじゃなくて、悩んだり背伸びしたり、そういう「人間臭さ」が描かれていない。(この辺、會川氏は上手いよなあ。ラストとスカーの仲にしろ、キャラに陰影をつけるのが上手い。ただ暗い方へしか膨らませらんないのが惜しい)

原作は。
熱血主人公も冷静参謀も、エド一人がやってるし。(アルはアドバイザーだけど参謀とは違う。参謀は主人公に策を与え背中を押す役回り。鋼では策を講じるのも進む判断もエドがやってる)
目指すべきライバルはいないし。(マスタングは目指すべき存在ではなく、違う土俵で違う敵と闘う、同志)
緩やかな友情は、軍部の大人達と。

だからリンだけが、エド以外の初めての「少年」なんだ。
始めは「得体の知れないキャラ」だったけど、11巻の対スカー共同戦線でついにエドと「仲間」になって、12巻でブラッドレイ(=大人の敵)相手に彼の信条を語らせキャラ彫りを深くし、13巻のグラトニーの腹の中で仲間から「ダチ」になって!
おー!エドに初めてトモダチができた!対等で助け助けられどつき合いながらも共に歩むダチが!と思いきや。
14巻であっさりグリードになってしまう・・・。
荒川弘、非情ナリ!<や、そこがいいんだけど。

荒川先生の発想は、キャラ年齢がもちっと高いとこにあるんだよね。
それを、少年漫画だから、主人公の年齢をぐぃっと下げた。
だから、物語に奥行きが生まれた。
常に15歳の視線まで かがまなければいけないから、立って見た時(普段の姿勢)との視界の違いが意識される。だから常に、物語を複眼的にとらえることになる。
だから、大人読者---主人公に同調しつつも、いち作品として上から眺める視点も持ってしまった読者---にも、読むに堪えるマンガになったんだ。
最初っから少年目線の人だと、あんなに魅力的な大人達は描けないだろうなあ。

鋼の錬金術師は王道少年漫画だ。
主人公が、壁にぶつかり、人と出会い、そして成長していく。
けれど、少年はエド一人。
そこが定番少年漫画じゃない。
定番じゃない。平凡じゃない。
だから鋼は面白い!


追記
有栖川探偵小説事務所出張所」のりほ様から、素敵なご意見をいただきました!

「たった一人であっても、そして一人だからこそ大人は彼を見守る。
漫画としては定番ではないが、
児童文学における定番ではある。
定番とは、それだけ需要の間口が広いということ。
決して悪い意味ではない。
定番ではあるが、それを少年漫画にスライドさせた事に意味がある。
これにより児童文学では成し得なかった事を
少年漫画に持ち込む事で成功させている。」

そして児童文学は子どもしか読まないけれど、マンガは子どもも大人も読む、だから複眼的視点を成功させている、と解説いただきました。
なるほど!
素晴らしいご意見をありがとうございました!


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6 コメント

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すごい腑に落ちました! (sengen412)
2007-06-03 18:54:19
と、妙な日本語で言ってみたくなるほど、ご指摘にはうなりました。
>少年はエド一人。
>熱血主人公も冷静参謀も、エド一人がやってるし。(アルはアドバイザーだけど参謀とは違う。参謀は主人公に策を与え背中を押す役回り。鋼では策を講じるのも進む判断もエドがやってる)

まさに!ですね。
ここまで自分を含めた「大人読書」(ええ、私なぞ、普通は熱く少年漫画語りしてちゃいけないかもしれない年齢ですけど)をわしづかみにして話さないエドの魅力ってなんだろう?と考えたこともありました。
 彼が生き生きとした情感と行動力を持つ天才少年だからか、その外見の小さなかわいらしさと、深く沈思黙考できる哲学者としての内面を併せ持つからか、大切な者のためには自己犠牲も厭わない潔さと、最後まであきらめようとしない意志の強さの両面持っているためなのか、弟を何より大切にしている情の深さなのか、器用さと不器用さをあますところなく発揮していくせいなのか、まぁ、いろいろ考えましたが。
 そうなんですね! 普通は、これだけの長い作品なら、同年代の仲間がたくさんできてもいいはずなのに、唯一「友」たりえそうだったリンは、あっというまに敵方の駒になってしまいましたし、大佐は「友」となるより「同志」ですよね。確かに。「友」となるには無理が在りすぎる(あ、だからロイエドか←関係ない)。
 主人公エドワードがあそこまでさまざまな面を(場合によっては矛盾しているかもしれない複雑な内面)持っていながら、強烈な個性を輝かす主人公として魅力的なのは、同時に物語を「大人視線」で俯瞰する作者の目があるからだ、というご指摘には、新たに目を開かされた思いです。だから、主人公達の行動に、アームストリング少将あそこまでずばっと批判するセリフも吐かせてしまうんですねぇ。
 と、まとまってませんが、ご明察を読んでの感動を書かせて頂きました。
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Unknown (弓佳)
2007-06-04 18:43:36
感動、ですね。
本当に歌猫様はすごいです!
私だったらそこまで考えつかずにただ純粋に「面白い漫画」として読むだけです。
 歌猫様の御考察を拝見して初めて「鋼では冷静参謀役もエドがやっている」ということに気づきました。恥ずかしいです^^;
 何が書きたいのか分からない文になってしまいましたが、「感激した!」ということだけ言わせて頂きます。
返信する
コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-06-05 06:44:41
sengen412様こんにちは!
ええ、私も常に、どうして鋼はこんなに面白いんだろう!と考えつづけておりますですよ(笑)
少年エドが大人と対等に扱われるのが、少年少女読者にとって心地良いんだ、という評論は読んだことがあって、ナルホドと思ったのですが。
そーいや少年が主人公しかいないじゃん?と思ったのでこの記事です。
エドの魅力は、物語と同じく、明暗がくっきり際立っているところですよねえ。
あっ。エド語りまだ私してないわ。今度そうゆー記事書こう(笑)
ところでアームストリング少将 には笑わせていただきました(ゴメン)。だって、腕が弦!氷のバイオリニスト・オリヴィエ様・・・とかまた妄想が勝手に走っちゃう~。
コメントありがとうございました!

弓佳様こんにちは!
>初めて「鋼では冷静参謀役もエドがやっている」ということに
いえ、私もこの記事書いてて初めて気付いたんですよ(笑)。
エドは全て自分で決めている。その強さが魅力なのかなあ。
感動だなんて、嬉しいお言葉をありがとうございます。
読めば読むほど、考えるほど、鋼って面白いですよね!
コメントありがとうございました~♪
返信する
自分もそう思っておりました (km)
2007-06-05 12:19:37
つまり、エドは赤レンジャーであり、青レンジャーであり、黄レンジャー(?)の要素もあると。
返信する
間違いだらけで (sengen412)
2007-06-05 22:51:00
失礼しました。
「アームストリング少将??ん?」と思って、自分の投稿読み返して、大汗流してます。その他にもいっぱいやらかしてますね。「大人読書」ってなんだ?
…すみません。投稿ボタン押す前にきちんと内容確認しないと、ですね。これから気を付けます。

 さて、ところで歌猫さまがご指摘なさった「少年はエド一人」説をその後も考え中です。この設定は、物語にどういう意味をもたらすか、というか効果をあげているか、という点ですね。
 まだまとまりませんが、一つはやはり、ご指摘の通り、エド視点の物語としてぶれることがないので、しっかり主人公と同じ視点で物語の展開を楽しめる、ということでしょう。この感情移入なくして真のドキドキ感は生まれません。
 同時にさまざまな面(熱血単純主人公も冷静参謀役も、無邪気な子供っぽさも老成したしたたかさも、尊大な自信と大胆さも罪におののく繊細さも、明も暗もすべて)を持つ主人公・エドワードの存在感を際立たせていきますね。
 そして、これだけいろんな(矛盾しているとも言えるくらい様々な)面を持っている主人公が、不自然を全く感じさせない「次に何をするかわからない目の離せないキャラ」として生き生きと魅力的に造型されているところに、荒川先生の力量を感じてしまいます。
 で、アルは「鎧というキャラクター」説ですが、なるほど、だからコミックス10巻あたりで、大佐達とのホムンクルス戦において、「いやなんだ!助けられるかも知れなかったのに目の前で死ぬのを助けられないのが!」とか叫ばれると、「わぁ、アルってしっかり男の子じゃん!」と妙に感動した理由がわかった気がします。いつもは強烈で万能な主人公エドの相棒として影のように寄り添っているアルが強烈に自己主張した瞬間だったなぁと。

 ところで、前回に触れ忘れましたが、

>會川氏は上手いよなあ。ラストとスカーの仲にしろ、キャラに陰影をつけるのが上手い。ただ暗い方へしか膨らませらんないのが惜しい)

には激しく同感。ラストもエンヴィーもラースも、暗い情念の中で揺らいでましたね。不動の太陽であるはずのエドでさえ大揺らぎしてました(笑)。いやそれはそれで、おもしろかったからいいんですけども、「暗い方へしか」という点も全くその通りで。ついでに「自分たちと関係ない争いというものはない」というのも主要テーマですかね?「鋼アニメ」もその後の「妖奇士」もそんなセリフが共通してあったような。
 2度目の長々投稿、失礼しました。 
返信する
コメントありがとうございます。 (歌猫)
2007-06-06 06:35:54
Km様こんにちは!
わははは!ナイスコメントです!
そういえば、熱血主人公、クールな参謀、力自慢、紅一点ヒロイン(あとグリーンてどういう役回りだっけ?)・・・という「キャラ分け」って、ナントカレンジャーの時代から、つまり30年以上前から、あったんですねえ。なるほど少年漫画→キャラ漫画→萌えゲームの、源流はあそこか!(笑)

sengen412様こんにちは!
私も、「少年一人」の効果というか物語に対する作用を、この記事書きながら考えていたのですが、明確な答えはでなかったんですよ。
>エド視点の物語としてぶれることがないので
なるほど、そうですね!各キャラの視点は、本当に上手に描かれている。けれど主人公視点は揺らがない。人格をパターン化して分割キャラした漫画は散漫な印象しかうけないのと、対照的かもしれません。
アルは最初は「鎧というキャラクター」だったんだけど、どんどん血が通ってきてるんですよね。(対ラスト戦はアル好き的にやったあ!という感じでした)いや、もともと荒川先生の中では鎧というキャラクターであると同時に主人公の弟アルだということが、矛盾せずに在ったんだと思うんですけど、それがオモテに出てきてるというか。だって最近のアルの吹っ切れ方(モテモテ(笑))って、アレはもう「鎧というキャラクター」では無いですもん!(笑) 
リンもね。最初、得体の知れないキャラだったじゃないですか。あれがエドとアルの階段シーンの下で、黙って聞いているってコマで、ぐっと主人公側=読者側にきて、それで対ブラッドレイ戦で彼の中身が語られて、どんどん心に入ってくる。うーん、上手いですよねえ!
ところで、聞いた話ですが、「自分たちと関係ない争いというものはない」は竹Pの信条らしいですよ。てな訳で次のガンダムのテーマもこれかもですね。
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