お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

ひとつのお話 ふたつの結末

2010-01-05 | about 英語の絵本

The Little Red Hen

今年ご紹介する絵本は、英語ネイティブの読み手による読み聞かせメディア(CD、DVDまたはカセットテープ)がついている絵本のセレクションです。お子さんをバイリンガルに育てたいけれど、うまく読み聞かせられそうもない・・・と心配なさっているご両親のために!

実は、アメリカで子どもを育てることになったときの私の最大の悩みのひとつが私の「日本語アクセント」でした。これはESL(English as the Second Language)の親に共通の悩みだと思います。絵本は読んでやりたいけれど、子どもが私のアクセントをコピーしちゃったら困るなぁ・・・。インターネットもなかった当時、悩んだ末に手探りで探した解決策が「読み聞かせのテープ付き絵本」でした。

当時はなかなか見つからなくて大変でしたが、苦労して手に入れたテープ付き絵本は予想以上の大ヒット!当初の狙い通り、ネイティブの発音を聴くことができることはもとより、実に多様な読み手が繰り広げる、実に多様なエンターテイメント!が小さなテープにぎっしり詰まっていたのです。

読み手にはおとなの声も子どもの声もお年寄りの声もあり、著名な映画俳優やミュージシャンもいれば、作家自ら吹き込んだテープもありと実に多様。しかも、ニューヨークのアクセントあり、カリフォルニアのアクセントあり、シカゴあたりの標準米語あり、時にはスペイン風やイギリス風やフランス風のアクセントもありで「ネイティブでもこんなに違うんだぁ!」とアメリカの多様さを実感でき、アクセントがあっても大丈夫かも・・・と妙な自信もつきました。

繰り返し聴く子どもにお付き合いするうちに、子どもの耳の一周遅れくらいのスピードで親の耳にもだんだんヒアリングの力がつきます。これは思わぬオマケ!

高価なセットを買う必要はありません。普及版のペーパーバックとCDやテープのセットで十分。繰り返し聴きすぎて擦り切れてしまったものもありましたが、そうこうするうちに子どもは育ちますから。

そうそう「絵本の読み聞かせまで機械にやらせたら、子どもの情操教育に悪いのでは?」と心配される方もあるのでは?親って本当に因果な商売ですよね。大丈夫。テープやCDを聴くときには、できるだけ、おひざに抱っこしたり、ソファやベッドにくっついて座って、一緒に絵本を持ち、一緒にページを繰りながら聴いてください。効果のほどは親の読み聞かせと変わらないと思います。

さて、前置きが長くなってしまいました。

今年の一冊目の絵本は、A Little Red Hen(日本語訳:小さな赤いメンドリ)です。世界各国で語り/読み継がれてきた民話。もともとはロシア民話と言われていますが、定かではありません。物語の細部は語り手によって多少違っているようですが、大筋のプロットは共通。アメリカでは児童書の出版で知られるLittle Golden Books社が1940年代から出版している普及版がよく知られています。

メンドリが小麦の種を手に入れました。メンドリは畑に種を播き、麦を育てて収穫し、収穫した麦を粉にしてパンを焼こうと考えます。そこで・・・

メンドリは「麦を播くのを手伝ってくれるひとはいないかしら?」とまわりの動物たちに助けを求めます。が、動物たちは知らん顔。猫も、ネズミも、豚も(実は、登場人物の動物はなんでもよいらしく、犬やカラスが出てくるバージョンも、ヤギや牛が出てくるバージョンもあるようです)、誰も手伝ってくれません。メンドリは仕方なく、ひとりで種を播きました。

やがて小麦が芽吹き、育って、収穫の時がきました。メンドリが「刈り入れを手伝ってくれる人はいるかしら?」とたずねても、今度もみんな知らん顔。メンドリは、またしてもひとりで収穫しました。

収穫した小麦を脱穀する時も、粉に挽くときも、その粉を練ってパンを焼く時も、その都度メンドリはいつも周囲に手伝いを求めますが、まわりの動物たちは誰一人手伝いません。でも、メンドリはいつも一人で黙々と働きます。

さて、やがてパンが焼けてきて、あたりにいい匂いが漂いはじめました。そこでメンドリが「パンを食べるのを手伝ってくれる人はいるかしら?」と聞くと・・・「はい!」「はい!」「はい!」猫も、ネズミも、豚も、誰もかれもが集まってきました。さて・・・?

実は、この「小さな赤いメンドリ」は、その昔、母が幼い私に読み聞かせてくれたお話で、もっともなつかしい思い出のひとつです。当時、母が読み聞かせてくれていた本は、絵本ではなく、子どもに読み聞かせる大人のために編まれたハードカバーの単行本で、挿絵はほとんどなく、小さなフォントの文字が二段組みでぎっしりつまっていました。上下2巻か、春夏秋冬の4巻だったように憶えていますが、物心つかないうちから小学校低学年までの間、毎日毎晩、繰返し繰返し読んでもらっても飽きないだけのお話がぎっしり詰まっていました。

さて、母が私に読み聞かせてくれたメンドリのお話の結末は・・・何の手伝いもしなかった動物たちが、「僕も食べる」「わたしも・・・」と集まってくると、メンドリはニコニコして「はい、はい。それじゃあ、みんなで仲良く食べましょうね」と言って、全員を大きなテーブルにつかせ、焼けたてのパンを仲良く分けて、皆で一緒に食べました・・・、というものでした。

ところが、娘に読み聞かせようとアメリカで入手した絵本の結末は、母のお話とは違っていました。

メンドリは集まってきた動物たちに「お手伝いしなかった人は、パンを食べることはできないわ」と言い、焼けたてのおいしいパンを自分とひよこたちだけで食べてしまいました、というのです。

貢献しなかった人は権利は主張できない・・・子ども的には、お手伝いしなかった人は分けてもらえない、というわけです。

「私が知っているお話だと、それでもメンドリは皆にパンを分けてあげましたっていう結末だったんだけど・・・。そういう結末のケース、知らない?」と小学校教師をしていた友人に話したら、あきれたように「それ、全然教育的じゃないわよ。このお話は『手伝うことHelp』の大切さを教えているんだもの。」

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神!まさに、アメリカです。

でも正直にこっそり言うと、私は母の語ってくれた結論が好きです。「どうしてメンドリさんは何もしなかった犬さんや豚さんにまでパンをあげちゃうの?」と口を尖らせて聞く幼い私に、母はにっこりして「おいしいものは皆で分けて食べたほうがおいしいじゃない!分けられるだけ持ってる時にはね、欲しい人に分けてあげるものなのよ」と言いました。それから決まって安心させるように言い添えました。「メンドリさんはね、またパンを焼くことができるから大丈夫!」





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