依頼を受けて、あるお宅を訪問しました。すると、そのお宅は昨年9月に作業をしたお宅でした。今回作業に入ったのは2012年12月なので、実に1年3ヵ月ぶりの訪問でした。
最初は、とても懐かしく感じました。
前回の作業は庭の泥出しでしたが、今回の作業はリフォーム前の屋内解体でした。
作業現場に入ると、あれっ?と思いました。1年3ヵ月前に来た時とほとんど同じ家の状態だったのです。
前回来た時は、家をリフォームして再びこの場所に住もうとされていたので、気になったのです。
依頼者のお母さんと顔を合わせました。久しぶりの再会。お母さんは、相変わらず元気でした。私たちのことも覚えていてくれたので、自然と会話が弾みました。作業を始めるとお母さんも加わり、いろいろな話をしながら一緒に作業を進めました。会話の中で自然と、ここ1年間のことを話してくれました。
「...この家は、あの時(1年3ヵ月前)とあまり変わっていないでしょ!?
そうなのよ。実は、あの時以来、ほとんど手を付けていないのよ。というのはね...」
市が打ち出している都市計画によると、このお宅の敷地が隆盛道路(土を高く盛った上に道路を作ることで、堤防の役割を兼ねた道路)に被ってしまう可能性があったのです。つまり、リフォームしたとしても、2年後にはこの場所に住み続けることができるか分からない、という状況でした。
「...そんな状況だったから、1年以上前の、ちょうど皆さんが前回来て下さった頃。あの頃に都市計画の話を聞いて、取り壊すか?リフォームするか?悩み始めたのよ。
気持ちとしてはやっぱりね、ずっと住んできて愛着のある場所に住みたかったわよ。
それにここは、リフォームして住み続けてる人が多い地域なの、だから余計にね。
でも、この場所が道路に被って住めなくなるかもしれない、と聞くとね~...」
1ヶ月悩み...
3ヵ月悩み...
半年悩んだ...
「...その頃の趣味は旅行だったの。この前は長野県に行ってきたし、娘の住む横浜やその近辺も回ったの。でも、よくよく振り返ってみると、旅行という名目で、新しい住居探しをしていただけだったような気がする。」
8ヵ月悩み...
10ヵ月悩み...
気付いたら、1年が過ぎた...
「悩み過ぎちゃったせいか、疲れてきちゃってたのよ。
“それならもう、取り壊そうか”
この頃はもう、そんな思いになっちゃってたわね。」
そしてようやく、都市計画の新しい進展状況を聞くことができた。
「新しい道路は、この家の敷地には被りません」
「周囲の人たちは、“よかったね”って励ましてくれたわ。でも、もう今更、リフォームする気力なんて、湧いてこなかったの...」
そんなある時、ボランティアさんと話す機会がありました。
「現状をいろいろと共有していたら、(ボランティアさんから)ある言葉をかけられたの。
『俺、やってやるよ。』
その言葉に心が動いたの、“やっぱりリフォームをしてみようかな!”っていう気持ちが芽生えてきたのよ。
その後は、大変な状況になっても、不思議なことに、別のボランティアさんが入れ替わりながら駆け付けて助けてくれた。だからね、ボランティアさんには本当に感謝しているの。自分一人では、絶対ここまで来れなかったから...」
そう言うお母さんは笑顔でした。
しかし、1年前のお母さんを知っている私からすると、あの頃と比べて、とても疲れているように見えました。あれから1年しか経っていないのに、5年くらいお年を召したように見えてしまったのが、とても心苦しかったです。それだけ、精神的ストレスが大きかったのだろうな、と聞かなくても分かりました。
しかし、それと同時に安心感も持ちました。
お母さんの話の中で印象的だった言葉は、
「住むならやっぱり、“慣れない観光名所より、慣れ親しんだ故郷”がいいわね!」
今のお母さんの瞳には、迷いがありませんでした。
震災から1年9ヵ月以上が過ぎて、
“がれきが片付けば、復興は終わる”
というイメージを持つ方が多いと聞きます。
しかし、今回感じたのは
“新しい町が完成するまで、復興は終わらない”
ということでした。