goo blog サービス終了のお知らせ 

うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

神林長平トリビュート  うなぎ

2011年03月14日 | 読書感想
神林長平トリビュート
クリエーター情報なし
早川書房



神林長平デビュー三十周年を記念して、彼に影響を受けた若手作家たちによる、神林作品を独自解釈したアンソロジー集
全八篇



狐と踊れ  桜坂 洋

胃が人間の体内から逃亡する未来社会。胃の逃亡を防ぐために人々は5Uという薬を摂取しつづけるが――
という、後の作品群にもつながる独特の神林哲学を持ったデビュー作のリメイク。
逃亡した胃が己の生きる道を探して放浪する姿をややコメディチックに描いている。
原作の持つ「胃が体内から逃亡する」という異常事態が当然のこととして描かれる不安感はなく、むしろ胃は寄生生物である、という『パラサイトイヴ』的な解釈で描かれているため、すっきりとしている。そこが良くもあり悪くもあるところ。
最後の謎のバトル展開は、別に悪くはないがオチに困ったようにしか見えなかった。


七胴落とし  辻村深月

子供達だけがテレパシーを持ち未来社会、子供と大人の境目に生きる年齢の少年の不安感を日本刀に託して描いたのが元作品。童貞力が強烈なことで知られる初期神林作品の中でも、もっとも強烈で圧倒的な童貞力を見せつける作品だった。

今作では、それを「子供達だけが猫と会話でき、猫は子供達を監視し、守ってくれている」というメルヘンチックな方向へ新解釈。
原作とまったく異なるハートフルな作品だが、自己と現実への乖離をSF的ギミックで描く、という意味ではもっとも神林長平的な作品。
ストーリー自体はあってないがごとき短編だが、全八篇の中でも神林的解釈と自己流が見事に合わさっている作品だと思う。
読んだことなかった作者だけど、今度なんか読んでみよう。


完璧な涙  仁木 稔

砂の星と化した地球をさまよう少年とヒロインの姿を描いたのが原作。
今作はその原作の合間を埋めるようなエピソード。
原作へのオマージュが感じられる綺麗な二次創作だが、良くも悪くも二次創作止まり。


死して咲く花、実のある夢  円城 搭

原作は、異世界に迷いこんだ軍隊が、物語開始早々「我々は死後の世界にいる」と断言し、情報と生についての考察をやけにのんべんだらりと語りながら異世界の謎に迫っていく怪作。
元々怪作だったものをさらに怪しげに妖しげな論理で新解釈したのが本作。
宇宙船内における実験的なものなんだが、語っている理屈が平明で文章も平易なのに正直意味不明で、さっぱり理解できなかった。
が、完全に独自の世界を持った文章は、ある意味もっとも神林長平に近いものを感じた。
この作者がどうやって世界を見ているのか、もっと知りたいので素直に他の作品を読もうと思った。


魂の駆動体  森 深紅

老人二人が趣味のクルマ作りに勤しみ、なんか知らないが有翼人の世界へ行ってようやっと車を完成させる姿を通して、人とクルマの関係の素晴らしさを描いた作品が原作。
工学系作家ならではの、機械に対する信頼と情熱が全篇にあふれでた、神林作品でも随一の愛の作品。
なにより老人二人が林檎泥棒したりこそこそクルマ作ったりする姿には萌えざるを得ない。最強の老人萌え小説。

やはりその老人萌え力にひかれたのか、この作品も老人萌え小説。ただそれだけに終わってしまっているのが残念。


敵は海賊  虚淵 玄

無法の宇宙海賊と、それ以上に無法な海賊課との戦いを両者の視点から描く、神林長平を代表するシリーズ作品。
その中のとある登場人物の誕生秘話となっている本作は、やはり二次創作として非常に優れているとともに、最強最高の知性体が自我を勝ち得ていく様は、神林的な解釈でもある。実はオマージュに優れた虚淵らしい作品。
しかしもうちょっと暴走して欲しかったというのが本音。


我語りて、世界あり  元長征木

「人間のことならなんでも知っている」からはじまる、一つの知性体が自我を得ていく話を、なんかよくわからないバトル物に大胆解釈。
一体なにをどうすればこういう解釈になるのかさっぱりだが、そもそも原作が(好きだけど)
あんまり意味がわかったとは云えないような作品だったので、こういう解釈もありなのかな?とぼんやり思うしかなかった。


言葉使い師  海猫沢めろん

言葉を使うことを禁じられた未来世界で、言葉を使う言葉使い師に出会った男の話が原作。
全体的によく意味がわからなかった。
原作初読時にやたら衝撃を受けて、いまもすごい好きな作品なんだけど、意味をわかっているかと聞かれると「はい」とは云えないので、これでいいのかもしれない。



全体的に、素晴らしいトリビュートだと思う。
原作へのオマージュと、新世代の感性がともに表現できている。
日本SFの新世代を切り開いた神林長平に捧げるにふさわしい一冊。
伊藤計劃も書く予定だったが、逝去してしまったためにお流れになったことが非常に悔やまれる。
あと、個人的には小川一水と古橋秀之あたりが加わっていたら最高だったなあ。あの二人が神林長平読んでいるかどうかは知らないけど。

ともあれ、作家陣といい、仕上がりといい、早川としてはベストにアンソロジー。
ただ、秀作ぞろいではあるが、突き抜けた傑作があったとは云いがたく、ちょっと物足りない気持ちもあるは事実。
コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 3月13日(日)のつぶやき | トップ | 3月14日(月)のつぶやき »
最新の画像もっと見る

6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Morizo)
2011-03-16 23:26:34
うなぎでいっちょ頼むわ
返信する
Unknown (うなぎ)
2011-03-17 02:19:40
ん?ちょっとよく意味がわかんないわ。
「うなぎも神林トリビュート作品書いてみいや」ってことかしら?
あたいだったら『プリズム』か『ライトジーンの遺産』がいいわね。
返信する
Unknown (Morizo)
2011-03-17 21:55:03
いやいや、
「正直神林作品は読んだことなくて、
って言うかウナギとかぶってるのって伊坂ぐらいだけど
たまに話題の出てくる神林作品に興味が沸いてきて
、いま仕事で中国にいるので読めんからうなぎので頼むわ」
って意味。
返信する
Unknown (うなぎ)
2011-03-18 04:15:41
ごめん、真面目になにいってるかわかんない
「うなぎので頼むわ」といわれても、その「うなぎの」って、うなぎのなになの?
返信する
Unknown (Morizo)
2011-03-18 12:12:35
こちらこそ、ごめんごめん
「うなぎも神林トリビュート作品書いてみいや」
で100%正解だった。
アニメ、漫画、映画はSFよく見るが
小説でSF読んだこと無くて多分うなぎと同い年な俺には世代的にも神林作品あたりが初SFとしていいのかなと興味をもっていたので
ついでにうなぎならどんなの書くのか興味が沸いた次第でした。
返信する
Unknown (うなぎ)
2011-03-19 09:31:56
うん、よし、わかった!
日本に帰ってきて神林読め!
おわり。
返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

読書感想」カテゴリの最新記事