上原正稔日記

ドキュメンタリー作家の上原正稔(しょうねん)が綴る日記です。
この日記はドキュメンタリーでフィクションではありません。

暗闇から生還したウチナーンチュ 20

2013-04-30 08:49:00 | 暗闇から生還したウチナーンチュ

カンパのお願い 

5月30日に結審があります。 

徳永弁護士も手弁当で支援して下さっていますが、 

打ち合わせ等をするにも交通費等の出費を無視できません。 

カンパは支援している三善会にお願いします。 

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ゆうちょ銀行からの振込の場合 
【金融機関】 ゆうちょ銀行
【口座番号】 記号:17010 口座番号:10347971
【名  義】  サンゼンカイ
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【金融機関】 ゆうちょ銀行
【店  名】  七〇八(読み:ナナゼロハチ)
【店  番】  708
【口座番号】 普通:1034797
【名  義】  サンゼンカイ 


前回の続き

~轟の壕編~ 14

 アメリカ軍の投降呼び掛けで、上の壕の住民に緊張が走った。ついに、玉城朝子さんはゆっくり立ち上がると、皆に言った。「私は出てゆきます。皆さんもついてきて下さい」。だが、誰も彼女の後に続く者はいなかった。彼女を止める者もなかった。
 彼女はひとり巨大なスリ鉢の底から坂を上った。眩しいばかりの太陽の下に彼女は立ちつくした。目の前にアメリカ海兵隊員がズラリと並んでいた。
 日本語将校のジェイズ・ジェーファソン中尉は手にしていたマイクを下ろし、彼女に近づくと、可愛らしい沖縄娘だな、と思いながら、日本語で言った。「アナタノ名前ハナソデスカ」。驚いたことに、彼女はスラスラと英語で話し始めたのだ。それも完壁な英語だった。
 ジェーファソン中尉は後年、筆者に語った。「あんなに驚いたことはなかったね。可愛らしい沖縄娘がスラスラ英語を話したのだからね」
 ジェーファソン中尉は壕の内部の様子を聞いた。朝子さんは、下の壕には数百人の住民がいるが、日本兵のおかげで身動きがとれず、餓死直前にあること、上部の壕に数十人の住民がいるが、アメリカ兵を恐れて投降できないことを伝えた。
 ジェーファソンはこれまで第6海兵師団第22連隊の日本語将校として住民救出作戦に従事していたので、日本兵の頑迷さには、ほとほと呆れていたが、いったん、捕虜になりアメリカ軍の人道的取り扱いを目にすると、猫のようにおとなしくなることを知っていた。住民は日本兵を恐れて投降できないだけであり、ちょっと背中を押してやればすぐに投降することも十分、承知していた。
 日本語将校のジェーファソン中尉がこの日、轟の壕にやってきたのには理由があった。それも重大な理由だった。六月十八日から第6海兵師団の兵士たちがこの巨大な壕に張りついて”馬乗り攻撃”を続けていたが、海兵隊はこの壕を封鎖できず、中に隠れている日本兵、おそらくは住民もいるだろうが、一人も投降させることはできなかった。
 沖縄戦は六月二十一日午後一時五分に組織的戦闘が終了し、午後九時には沖縄占領が宣言されていた。六月二十二日には嘉手納の第10軍司令部前の広場で勝利式典が催されていた。いつまでもこの”小さな壕”にかかわっているわけにはいかなかった。
 ラミュエル・シェパード第6海兵師団長は「いつまで、そんな所にいるんだ。さっさと爆破して終わらせろ」と最終指令を出してきた。爆破班が強力な爆薬を用意して出発の準備をした。
 六月二十四日、ジェーファソンはその壕に日本語将校として参加するよう命ぜられた。壕の中にどれだけの兵士や住民がいるか知らないが、投降を勧告し、それでも投降しなければ壕を大爆破して封鎖する計画だった。
 そして、いつものように投降勧告をしたところ、姿を現したのが玉城朝子さんだったのだ。
 朝子さんは、上部つまり、南側の壕の避難民と数人の海軍兵はジェーファソンさんが説得すれば、すぐにでも投降してくれるだろう、と言った。ジェーファソンは朝子さんに付いて坂を下り、その壕の入り口に向かった。彼は恐れる様子も見せず、壕の内部をじっと見た。口元には、いつものように笑みを浮かべていた。笑顔が彼の唯一の武器だった。そして、その時、傍らに朝子さんが立っていた。
 宮城嗣吉兵曹長ら海軍兵数人は、壕の出口でジェーファソンと朝子さんが坂を下りてくるのをじっと見ていた。ジューファソンはニコニコ笑いながら、避難民の先頭にいる宮城らに「ミナサン、コンニチワ。ワタクシワ、ジェーファソン、トイイマス」とどこかタドタドしいが、はっきりした日本語で話し掛けた。「ワタシワ、皆サンノ友ダチデス。心配シナイデ下サイ。皆サンヲ助ケニキマシタ」

つづく


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