カーズはボストン出身の、アメリカ屈指のニューウェイヴロックバンドである。デビュー時のメンバーが全員「クルマ好きだから」ということでバンド名が決定したらしいが、なんといってもこのバンドはリック・オケイセクと、彼と共にずっと活動してきたベンジャミン・オールである。このふたりは声質もとても似ているが、なんと言ってもリックのヴォーカルは独特で、私は、デヴィット・ボウイーの音楽を受け継ぐ者としてデビュー当時からこのバンドを大変高く評価していた。カーズのメジャーデビューは1978年、「錯乱のドライヴ」であり、シングルもスマッシュヒットを連発したが、こういう傾向の音楽がアメリカに指示されるというのも面白いと同時に大きな変格の兆しがあった時代だったのかもしれない。尤も、彼らの最大のヒットは1984年になってからで、この年の年間売り上げ第1位に彼らのアルバム「ハート・ビート・シティ」が輝き、シングル「ドライヴ」もシングルチャートの第1位を獲得した。しかし、基本的な路線に関しては変わることは無く、多少アルバムを出すごとに「臭み」が「熟成」に変わっていった感じである。
私が彼らのベストだと思うのがこの「キャンディー・オーに捧ぐ」で、ジャッケットもインパクトがあるし、このアルバムがこの後のカーズの方向性をすべて打ち出していると位置づけている。一方でこのバンドの位置づけというのはとても難しいところにあると考えられる。俗にいう「ニュー・ウェイヴ・ロック」というところ分類されるのであろうが、その前にあったパンクにしても、こういうひとつの特徴を打ち出したバンド・コンセプトというのはそもそもがイギリスのロックバンドであり、例えば、ニュー・ウェイヴでもイギリスでは、ポストパンク系から始まり、当初ヒットの多かったテクノポップ(エレクトロ・ポップ)系、ニュー・ロマンチック系、ネオ・アコースティック系、その他民族音楽系や、ロカビリーに至るまで、ありとあらゆる音楽ジャンルからニュー・ウェイヴが生まれたが、アメリカはそもそもこのジャンルは単一なジャンルと位置づけられ、アメリカ出身のバンド、例えば、B-52’sやブロンディ、トーキング・ヘッズやチープ・トリックという辺りと同じジャンルに扱われているのは大変納得がいかない。しかし、その中でも、ブロンディと並び、レコードセールス的にはトップの座に君臨していて、そう考えるとイギリスで一番売れたニュー・ウェイヴはポリス、アイルランドでは当然U2で、アメリカではこのカーズとブロンディということになる。また、これは良い悪いではなく、ロック音楽というものが如何にアメリカでは商業的なもので、ある意味ではノンポリだということも良くわかるし、ミュージシャンの姿勢よりもヒットチャートの上位にいることが重要なのだということが明解ではないか。イギリスの良いバンドがアメリカへ行って失敗するというのはこういうことであり、私はこの当時、某雑誌にコラムを書いているときに、毎号、日本はミュージシャンもファンもアメリカ化でなく、イギリス化して欲しいと散々書いてきたが、一部にしか受け入れられなかった。しかし、カーズとブロンディの本質的な違いは、アメリカ商業音楽の真っ只中にいて、ヒットチャート上位の常連であったにも拘らず、決して自分たちの音楽を変えなかったカーズと、常にヒットチャートを意識していたブロンディは、両極であったといっていい。そして、その変えなかった音楽性や活動指針を方向付けたのが前述した通りこのアルバムであり、そして彼らのベストアルバムだと言えよう。
そして、カーズは意外に早く解散した。「オト」が商業音楽に変わる前の絶頂期に、とても潔い一方で、最後のアルバムは完全に方向性を見失っていた。そして再結成ばなしに当然、リック・オケイセクは乗らず、トッド・ラングレンがニューカーズを結成したのである。残念ながらそれを私は一度も聴いたことがないし、全く興味も沸かないが・・・。
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